第5回「相撲じゃ!相撲じゃ!」2月3日放送 演出:盆子原誠

それにしてもどれだけ関連ムックが出ているのか……
視聴率が上がった
嘉永4年5月8日、島津斉彬(渡辺謙)が薩摩の藩主になった。
馬に乗った正義のお殿様は、みんなだいすき。
視聴率も上がって、5話中、最高値(15.5% ビデオリサーチ調関東地区)に。
前半の出演者が出揃い、それぞれの役割が徹底認知されたうえ、恋や相撲というイベントがあって、とても見やすい回だった。
何もかも一新されると民衆は沸きに沸いたが、それは、ぬか喜びだった。
斉彬は「先君の政、曲げること叶わじ」と、お由羅(小柳ルミ子)騒動で刑に処せられた人たちのご赦免はなく、そのままになってしまう。
大久保正助(瑛太)の謹慎も解けず、父・次右衛門(平田満)も島流しから帰って来ることができない。
吉之助(鈴木亮平)たちは、御前相撲に勝って斉彬に直訴しようと熱くなる。
血気盛んなのはいいが、吉之助っていまのところ、直訴してばっかり。まあ、黙っているより声をあげたほうがいいけれど。
斉彬のかなしみ
斉彬は「先君の政、曲げること叶わじ」と、気を使って、久光(青木崇高)もそのままの役職にしたうえ、隠居した斉興(鹿賀丈史)の顔色伺いに5年ものの黒酢をもって行くが、邪険にされてしまう。
渡辺謙は成熟した大人の男にもかかわらず、父親の前では少年のような顔になる。
斉彬から父の愛が得られない子どもの悲しみがびんびん伝わってくる。 “子どもは国の宝”と言われながら、世界では同じ子どもでも差異があり、渡辺謙演じる斉彬は、それに苦しんでいる人物の代表として、生まれてくる子どもがみんな公平に幸福な未来を得られるようにという願いを背負っているように思う。
手堅く恋バナ
ふいに縁談が持ち上がり、悩む糸(黒木華)。
表が出たら嫁に行く・・・と下駄を飛ばすと、未来の夫・吉之助にぶつかってしまうという、わかりやすいフラグ。
片方下駄がなくなって歩けない糸を吉之助おんぶするんだろうなあという予測は、一回、吉之助が自分の草履を貸すことで外れる。が、大きすぎて履けないので、おんぶになる。んぶがいっそう印象的になった。お花も写り込んで、キラキラ映画ふう。
カメラは、ふたりの遠くにぼんやり映っている縁談相手の海老原重勝(蕨野友也)をフォーカスし、微妙な顔をしている彼をクローズアップ。
正助は糸を意識していて・・・糸はなんとなく吉之助を意識していて、吉之助は正助の味方で・・・と複雑に絡み合う恋の糸。こういう筋、中園ミホ、手堅い。
若者の青春群像がいい感じ
この海老原重勝役の蕨野友也といい、吉之助から相撲の下鍛冶屋町代表の座を勝ち取った新八役の堀井新太といい、吉之助の弟役で、カフェ巡りの番組に出ている渡部豪太といい、有村俊斎役で、朝ドラ「梅ちゃん先生」の風変わりな性格のお医者さん役だった高橋光臣といい、感じのいい若人(あえてイケメンとは書きません、書いたけど)がたくさん出ていて、画面が生き生きする。
御前相撲で優勝したら米が10俵もらえると逸る若者たちが、水に飛び込んだり、吉之助がかかってくる大山格之助(北村有起哉)を投げたりと威勢がいい場面は、地味だが楽しい。それに洗濯している女たちが眉を潜めているところも良かった。
そして、篤姫
後の篤姫・於一(北川景子)が御前相撲を見に来た。於一ほか、きれいな姫君たちにいっそうやる気になる
若人たちが微笑ましい(北村有起哉だけけっこうお兄さんだが)。
新八はお腹を壊してしまい、代わりに吉之助がぴっかぴかの肉体を晒す。力士のアンコ型とソップ型の中間のようなやわらかさも残しつつ、鍛えられている感じが魅力的。
そんな彼に目を奪われる於一の表情。吉之助の訴えに微笑むなど、好感触。
斉彬も、いっつも手紙を送ってきていた男だと気づく。
そこで、吉之助のキャラも、改めて紹介。なるほど「仕事には熱心ですが、自分がただしかと信じたこつは上役にはむかってもまげん強情なところがあるようで役所内の評判はかんばしくあいもん」だそうだ。
脚本のうまさを感じたのは、相撲大会で、斉彬に参加者の人となりを紹介するという体裁で、ドラマの登場人物の紹介をすること。吉之助のことも改めて認識したし、大山格之助がどういう人なのかもわかった。
未来の夫は、糸の縁談相手と闘う
吉之助が順調に勝ち進んでいくと、決勝の相手は、糸の縁談相手・海老原だった。
吉之助は、期せずして恋敵を破ることになるわけだ。
海老原は負傷していて、吉之助は気を使ってわざと負けるのではないかとも見られたが、結果は吉之助。
斉彬はラスボス的に吉之助と相撲をとるといいだす。
斉彬相手に、吉之助が勝つほうに賭けていた於一は、すっかり吉之助に夢中になって、「いけ、西郷」と声援をおくる。
演技では圧倒的な技巧を4話で見せた渡辺謙だが、肉体には年齢が滲む。鈴木亮平のいまが旬というような
ぴっちぴちの本マグロみたいに漲ったカラダと比べると、人間がいつしか重力に従わざるを得なくなる残酷さを感じる。渡辺謙のことだから、それすらも演技プランかもしれず、みごとに新旧対決感が出た。やがて、日本の未来は西郷隆盛に託されるのだから。それをこの相撲で事前に見せてもらったかのようだ。
帰宅した父(風間杜夫)に弟(渡部豪太)は浮かない顔で、殿様に勝ってしまった吉之助が切腹させられるかもしれないと言う。米10俵なんてもらえどころじゃないんだろう。
投獄された吉之助はどうなるのか。劇団ひとりが出演する6話は、2月11日(日)。
(木俣冬)