大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 

第8回「不吉な嫁」2月25日放送  演出:岡田 健
「西郷どん」8話。不吉な視聴率。なかなか上がらないのは母や妻を描きすぎだからか
「街歩き 西郷どん!」 KADOKAWA

ペリーが来た。


嘉永6年、6月3日、ペリーが浦賀に来航したことによって、日本の歴史が大きく動く。

7話のレビューで「西郷どん」は世話物の風情があると書いた。8話は、ペリー来航によって江戸に向かう島津斉彬(渡辺謙)に付いて吉之助(鈴木亮平)も江戸に向かうことになるとあって、時代物へと転換していくかと期待したが(「翔ぶが如く」という台詞もでてきたりして)、8話はまだ世話物。黒船来航でざわつく男たちを女たちが影で支えていたという人情ものだった。
そのせいか、視聴率は14.2%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と、3話と並ぶ最低値に。とてもいいお話だが、シック過ぎるのかもしれない。

男たちを影で支える女たち。


そのひとりは、於一改め篤姫(北川景子)だ。
斉彬は、薩摩が新しい国政に参加するために、大砲をつくってメリケンと真っ先に対峙しようと考えていた。そのため、篤姫を江戸に輿入れすることも決める(嘉永6年8月)。
篤姫は、吉之助に、江戸で共に斉彬を支えようと声をかける。
篤姫の活躍は江戸編で本格的になることだろう。
8話でメインだった女性は、吉之助の妻・須賀(橋本愛)だ。


須賀が内助の功を発揮


斉彬が吉之助を江戸につれていくと言うものの、江戸に行く支度金に30両かかる。1両が現代の13万円くらいと言われているので、300万円強である。そんな大金は西郷家にはない。それどころか、借金まである。
そういえば、3話で亡き父・吉兵衛(風間杜夫)が100両も借金していたっけ。返済しないまま亡くなってしまったのだ。

須賀はお金がないから無理と大反対するが、兄弟たちや使用人、正助(瑛太)が金策に奮闘して、20両まで集まった。
残りをどうする・・・というところで、須賀が離縁すると言い出し、その手切れ金によって、不足分が補填された。

建前は貧しい西郷家に愛想が尽きたということだが、須賀の本音は、自分のことを気にして江戸行きを断ろうとしていた吉之助に江戸に行ってもらうことだった。
無愛想な須賀の気持ちも理解して、優しく接してくれる吉之助に、いつの間にか須賀も心寄せていて、涙ながらに西郷家から去っていく。

アニメのワンカットみたいだった


迎えに来た父親・伊集院直五郎(北見敏之)と夜道を歩いて帰る、須賀のラストカットが、背後に大きな満月で父娘のシルエットというデザイン性の強い画面(アニメによくありそうな)になっていたことが印象的。
それだけ、須賀を大事に描いているということだろう。
史実だと、吉之助が江戸に行って遠距離結婚になってしまっている間に離婚することになったとか。はっきりした事情はわからないようで、そこは作家の想像力の見せ所となる。


三谷幸喜の「真田丸」(16年)の豊臣秀次(新納慎也)や、森下佳子の「おんな城主直虎」(17年)の小野政次(高橋一生)などは、言い伝えられてきていることとは少しニュアンスを変えて、彼らがよく見えるようにドラマティックに書かれた。「西郷どん」の中園ミホも、史実で薄くしか残っていない須賀の存在を、内助の功の見本のような存在に描いた。さらに、それによって、彼女の強張った心を動かす吉之助の優しさも際立つのだから申し分ない。

「こげな嫁」をしっかり描く


「歴史は勝った人の話でしょう。負けた人の真実は残らない。だからドラマがあるのかな」
こう言っていたのは、「真田丸」の堺雅人だった(放送開始にあたっての合同取材より)。

須賀は負けた人ではないが、歴史にあまり残ってない人物だ。こういう人を生かすことができるのがドラマ(物語)の役割でもあるだろう。

ついでに言えば、大河ドラマを世話物(市井の人々の生活を中心に描くもの)の可能性を持ち込んだのは三谷幸喜だと思う。
三谷は、大河ドラマ好きでもあるし、作風が戦術のように理詰めで計算され尽くしたものということもあって、ダイナミックな戦や政治の展開を描くのも得手だが、中園ミホは、いまのところ、母や妻を手厚く書き世話物感を強めている。母や妻と、やはり女性を描くほうが書きやすいのかなと思うが、一方で、男たちに、こんなことも言わせている。

正助「こげな嫁の言いなりになりおって」
吉之助「こげな嫁じゃと ひとの嫁の悪口を言うな」

4話では、由羅(小柳ルミ子)のことを、吉之助は「あげな妾んために」「あん妾」「あげな妾」呼ばわりしていた。

男たるもの、女性の言いなりになるなんて恥であると思っている人たちなのだ。男尊女卑の意識の強い地域性と時代のため、何かというと女性のことを軽んじがちなことが、これらの台詞に滲み出る。逆に考えると、
なんだかんだ言いながら、女性の影響力は大きいというふうにも解釈できる。こういうところが、面白い。
これから中園ミホが、篤姫をどう書くか、とても楽しみだ。

橋本愛は、2019年の大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(宮藤官九郎脚本)で浅草の遊女・小梅役で出演することが決まっている。歴史上の人物ではなくオリジナルキャラだそう。そこでまた出会えることを心待ちにしている。
(木俣冬)