ずっと話題になり続けている「けいおん!」はキュートなロックを演奏するガールズバンドをテーマにした作品でした。
さて、ライトでPOPでガーリーなメロディも最高だけど、今度は重くて低くて、耳をつんざくようなヘヴィな音、見たくないかね? ならば、3巻が発売されたばかりの『ハレルヤオーバードライブ!』をおすすめしたい!

音を見る、って言うのは誤りではありません。
この作品、まさに音が見えるマンガなんです。
ライブ会場で、スピーカーから「音」を超えた「風」を感じたことありませんか? メタルのライブじゃなくてもかまいません、どんなコンサートでもいいです。空気がビリビリ震え、腹に重いパンチがぶつかり、全身の血が空気の振動で勢い良く流れるあの感覚。津波のような音が押し寄せてくる、まさに「音圧」というに相応しい音のパワー。
この空気は実際に会場にいないと感じることが出来ません。写真や動画だけでは伝わらないのです。
しかしマンガは何十年もかけて感覚を描く技術を作り上げました。このマンガはその技術を駆使して、場内に広がる熱風をコマの中に閉じ込めたんです。こればかりは見てもらわないと分からない、ページを開いてみてよ、マジで音が飛び出すぜ!

ボーカルだけ男性で、ほかが女性というちょっと変わったバンド「メタルりかちゃん」。全員イカしているんですが、なんといっても目立つのはドラムのハルさん。中学生以下に見えるような小さな体型なんですが、とにかく出す音がでかいのなんの(絵で見えるんだよ!)。可憐で明るくはつらつした外見で100点満点、SLIPKNOTのJoey Jordison級に髪の毛振り乱してドラムを叩く姿100点満点、しかもツーバスだ、400点満点!こんなステキな子に惚れずにはいられないじゃん!

美しいと言えるほどの激しいハルさんのドラムを見て、主人公の少年小雨はギターを握りしめます。
ところがどうやっても、激しい音圧を持った「メタルりかちゃん」に辿りつけない。
だけどね、男の子にはあるんだよ、スイッチが。
ギターのエフェクターの一つに「オーバードライブ」というものがあります。アンプのボリュームはフルにまわしても限界がある。しかしとある瞬間に限界を通り越した音が出ます。それがオーバードライブ。
限界突破です。小雨はまだまだひよっこだけど、彼の中のエフェクターのスイッチが入ったとき、オーバードライブで雨のような音を鳴り響かせることが出来るのです。

魔法? いやいや、もっと簡単なこと。恋の力だよ。

ハルと小雨のみならず、でかくて強烈な声をたたき出すボーカリスト鷹木部長、巨乳メガネでおっとりしているけどギターを握ると性格の変わる愛葉、メタルバンドなのにパンキッシュな衣装を貫くツンデレ少女タンポポと個性的なメンツぞろい。そこに和風な風紀委員ベーシスト麗や、凄腕だけど口が悪すぎるドラマー少年冬夜が加わり、恋愛模様も複雑化。


明るく楽しいラブコメ!……と言いたいところなんですが、バンドって大抵恋愛が絡むと、だめになるのよね……うわぁ(バンド時代のトラウマを思い出しながら)。そのへんきちんとわきまえており、恋愛というオーバードライブをかけながら、いかにバンドとして音楽を追求していくかを考える描写がしっかりされているから、楽器経験者には熱烈におすすめしたいのです。少年少女たちはどの道を選んで、どこでオーバードライブのスイッチを押すのでしょうか。
彼らがオーバードライブした時の「音」は、是非マンガで「見て」ください。
きっとね、読者の心のエフェクターのスイッチも入って、オーバードライブかかるはずだから。(たまごまご)