かつては中華料理店でしかお目にかかることがない高級食材だった「豆苗」。だが、近年は、スーパーでも年中安価に手に入るようになり、家庭の食卓にものぼる一般的な野菜となってきている。


いつから、なぜポピュラーになったのか。
国内トップのスプラウトメーカー・村上農園に聞いた。

「『豆苗』とはエンドウの若菜のことで、エンドウの起源は紀元前7000 年頃の南西アジアで、ツタンカーメンの墳墓から副葬品として発見されるなど、古くから利用される食材でした。それが『豆苗』として食べられるようになったのは中国で、収穫される量も時期も限られるため、一部の高貴な人やお正月など特別なときにしか口にできない稀少品だったんですよ」

日本に登場するのは1970 年代の日中国交回復以降。やはり高級中国料理店などで扱われていたが、当時はまだまだ一般の食卓には縁遠い高級食材だったという。
「中国でもともと食べられていた豆苗は、畑に種を蒔いてある程度大きくなったエンドウの若い芽を摘み取って食べる食材でした。
そのため、数が少なく、収穫できる時期も限られていました。この豆苗を年間通して多くの人に食べていただくため考えられたのが、植物工場内で種から発芽させて、10〜15日程度育てた新芽を食べるタイプの豆苗です」

このタイプの豆苗は1995年頃から日本で少しずつ栽培されるようになっており、村上農園で豆苗の生産を開始したのも、1995 年。
「豆苗の美味しさ、栄養価、料理の汎用性に着目し、一般家庭で手軽に食べていただけるよう、植物工場での栽培を開始しました」
さらに、最近の植物工場技術の向上や豆苗の栽培技術の革新によって、ここ数年、特に多くの数量を生産できるようになっているそう。

植物工場栽培のメリットと、難しさは?
「工場栽培ですので、一般の露地栽培に比べて温度や水の量などコントロールがしやすく、虫も付かないため比較的苦労が少ないと言えます。難しいのは品種の選び方で、数あるエンドウ豆の中から甘く柔らかい豆苗ができる品種を選んで使用しています」

ところで、ちょっと不思議なのは、スーパーで安価に入手できるようになった今も、中華料理店では1皿800円〜1000円くらいで提供している店が多いこと。
「価格設定についてはお店でまちまちのようですが、もともと高級食材であったことから、中国料理店では比較的価格設定が高めのように思います。
余談ですが、先日、ある中華料理店で畑で育てたタイプの豆苗が使われた『清炒豆苗(豆苗だけの炒め物)』を注文したところ、1皿2000円程度で、植物工場生産タイプの豆苗が使われたものは1皿800〜1000円程度だったことがあります。もともとの畑に種を蒔いてある程度大きくなったエンドウの若い芽を摘み取ったものは、日本での生産数は少なく、おそらく台湾からの輸入で特に価格が高くなっているのかと思います」

また、家庭で調理する場合、中華料理店で食べるものと違い、水っぽくなってしまいがち。調理の際のポイントは?
「豆苗は強火でサッと調理するのがポイントです。アクが少なく火が通りやすい野菜ですので、炒める場合は強火でよく熱したフライパンに生のまま加え、サッと炒めるだけで十分ですし、スープ等に使われる場合もあまり煮込まず最後に入れた方が、歯ごたえが残って美味しくお召し上がりいただけます。電子レンジで1分半ほど加熱するだけでお浸しをつくることもできます」

豆苗人気の高まりから、生産数が急増していることを背景に、村上農園では月間200万パック生産できる生産施設を山梨県北杜市に11月15日、竣工している。

ますます人気が高まりそうな豆苗に、要注目だ。

(田幸和歌子)