どうですか、みなさん。楽しく働いてますか?
新入社員の中には五月病に苦しめられている人もいるころですかね。
お見舞い申し上げます。いやだよね、五月病。

会社を辞めてから10年以上の歳月が経っている人間が言っても説得力はないかもしれないが、五月病に限らず、ウンザリする気持ちを押し隠して会社員として生きている人にはお勧めしたいことがある。本当の自分の他にもう一人「会社大好き人間」というキャラクターを作ってしまうことである。アバターと考えたらいいのかな。
ゼロからの出発だから、もちろん最初はうまくいかない。
「もう一人の自分」はたぶん、ダメダメである。だが経験を積んでいくことによって、確実にレベルはアップしていく。そうなれば防御力(上司や得意先に叱られても動じない心)は強くなっていくし、攻撃力(任される仕事の重要性)も上がる。
コツは、アバターが自分自身とは別の存在だと割り切ることだ。別の存在だから、モンスター(上司や得意先)から攻撃を受けても平気である。自分自身は傷つかない。
「おおまつこい しんでしまうとはなにごとだ」とかっていればいいのだ。アレフガルドの王様くらい無責任でかまわない。
私は故・中島らもさんの著書からこのテクニックを学んだ。らもさんは大学時代にヒッピーみたいな暮らしをしていたのに、この方法でもう一人の自分を作ることにより、とても有能な営業マンに生まれ変わることができたのだ。らもさんにできたのだから自分も、と20代の私は思いましたよ。会社勤めに忠誠心なんて必要ない。
自分のキャラクターを強くする、という目的意識だけがあればいいのだ。だから会社に心なんて売り渡さずに、外側だけそれらしく見えるようにすればいい。マニュアルがあるんなら、まんま実践しちゃえばいいのだ。それで案外、有能かつ評判のいい会社員として働けるはずである。

と、そんなわけで今日はもう1人の自分を育成するためのマニュアル本を紹介します。
『仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ! 社会人1年生のお仕事サポート・ブック』は、社会人としての基礎知識からビジネスの現場における具体的な動き方までも紹介したかなり役に立つガイドブックだ。
就活応援アカデミー編となっているが、ライターはエキレビでもおなじみのたまごまご氏である。
第1章で対人マナーの基礎事項について教え、第2章では対社外・対社内それぞれの言葉づかいについて、第3章では電話対応のイロハ、第4章ではビジネス文書の書き方、とかなり具体的なところにまで踏み込んでいく(第5章に個人事業主向けの章があるのはちょっと珍しいです)。たぶん会社で配られるであろうマニュアルに比べても具体性が高く、参考になるはずだ。使えるポイントをいくつか挙げておく。

・第1章。STEP8「席次」がかなり役に立つはずだ。
応接室で偉い人はどこに座らせるべきか、という問いには即答できる人でも(当然だが出入口からいちばん遠い席である)、接待の席が円卓だった場合、どこが上座になって次の席はどこになるか、という問いにはすぐ答えられないはずである。STEP6「名刺交換」のところも具体的でいい。本の記述に付け加えるとすれば、立っている状態で名刺をもらったら、そのまま捧げ持った両手を体に近づけていく動作を加えるといい。最終的には名刺を持った手越しに自分の靴の先を見てしまうのだ。そうすると、自然と頭が下がる姿勢になるので、相手に対し敬意を示すことができる。間違っても、突っ立ったまま顎を引いて見たりしてはいけない。


・第2章。STEP5の「時候のあいさつ」は文例集として役に立つはずだ。またSTEP1の「敬語の種類」は日本語としておかしい敬語をきちんとした形に言い換えてくれている。ただし、会社員生活で問題なのは、結構上司や先輩社員に間違った敬語を覚えている人がいることだ。この本で指摘されているように目上の人に「ご苦労様です」というのは間違っていて「お疲れ様です」が正しいが、いい年をして平気で「ご苦労様です」を連発する人が多いはずだ。そういうときにわざわざ「課長、ご苦労様は間違いですよ」とか言わないこと。間違っているとわかっていることでも本人が気付くまではあえて見過ごしておくのも社会人の大事な処世術なのである。自分だけ「お疲れ様です」に直して、あとは済ましているのが正しい。

・第3章。STEP6の「クレーム対応」がとにかく役に立つ。「まずは謝罪する」から始まるコンボは頭に叩き込み、「よし相手が金を払えと言ってきた。ここは「4.できることとできないことを明確にする」話法で勝負だー!」などと自動的に選択肢が思い浮かぶようにしておくことが望ましい。クレーム処理に慣れてくると、電話を受けた瞬間に対戦ゲームで100円玉を投入したときのような高揚感を覚えるようになってくるはずである。私も営業社員時代、新製品のクレームでどのくらい対戦したかわからないよなあ(遠い目)。

・第4章は本書の中でも特に実践的だ。特にSTEP3「ビジネス文書の注意点」とSTEP4「社内文書と社外文書」のところはチェックポイントもあって、わかりやすい。電子メールでのやりとりが増えて、最近は相対的に紙文書を書く機会が減ってきているはずだ。しかしピシッと決めなければならないときは、やはり定型的なビジネス文書のやりとりが必要になる。上司は部下に文書の書き直しをさせることなど屁とも思っていないので、雑に書けば書くほど一つの文書のためにとられる時間は長くなっていくはずだ。そんなことで貴重なHPを使うのはばかばかしいのでご注意を。

こんな感じである。この本でも他の本でもかまわないので、とにかくよいマニュアルを見つけて実践してしまうことをお勧めする。あと、たいていの仕事マナー本に出てこないのがアフター5の過ごし方などの応用編だが、これは以下の3原則を守っていればだいたい問題がないはずである。
その1。上司や得意先とアフター5でつきあうときは、相手の話をなるべく聞くようにする。自慢話をするのは楽しいので、だいたい悪い顔はされない。相手の話の要点を記憶しておくと、次につきあわされたとき「ほら、あの話を聞かせてくださいよ」とふることもできる。そうすると自分のプライベートに上司が踏み込んでくるのを防げる。
その2。同僚の中で誰が「悪口言い」かを見極めるようにする。悪口言いの前に出たときは存在を透明にし、絶対に逆らわないようにする。そして絶対に同意もしない。言った瞬間、永遠にその派閥である。あまりに悪口言いしかいない職場では、人と付き合わないようにする。どうせその連中は出世しない。
その3。夜飲みすぎたとわかったら、翌日はいつもより早く出社する。二日酔いで遅刻するぐらいなら、早めに出社し、理由をつけて早退したほうが人事上の覚えは間違いなくめでたい。遅刻は間違いなく考課上では最大のマイナスポイントである(無断欠勤は論外)。どうしても駄目でズル休みするときは、始業30分前までには電話を。たぶんその時間には誰か暇な人が出社しているので、休むという主旨だけは上司に伝わる。

私が会社員で人事担当をしていたときは「三日三月三年」とよく言っていた。新入社員が会社を辞めたくなるタイミングのことである。
三日は入社式が終わった直後、三月は職場に配属されてしばらく経った後、三年は最初の異動を経験する時期、それぞれ人生に悩んで新人は辞めてしまうのである。自分が五月病だと認識している人は、そろそろそのタイミングにさしかかっているのですね。そこで嫌になってしまって退職届を出すと人事に「三日三月三年」と思われてしまうわけだ。だからもうちょっとだけ頑張るといいと思う。退職願を書くなら、目標を達成して部署全体が気の抜けた状態にある期の頭(4月ないしは10月)か、ボーナス直後だ(7月、1月)。人事に鼻で笑われないように、あとちょっとだけがんばってみてくださいな。
(杉江松恋)