ワールドカップも目前! そういえば、優れた選手には名言も多いです。「シュートはゴールへのパスだ」(ジーコ)、「強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだ」(ベッケンバウアー)、「僕の知ってるドーピングはただ一つ、努力です」(バッジョ)などなど……。

これらを自分の人生と重ね合わせ、糧にする事ってありますよね。一人称だと錯覚し、名言を自身へのメッセージとして受け取るファン。間違いなく、正しいスポーツの観方だと思います。

そして“名言”と言えば、長州力。彼の言霊を糧にしたファンが多いからこそ、この選手はブレイクした。
今年、レスラー人生40週年を迎えた長州が一冊の本を発表しています。
『逆境? それ、チャンスだよ 挫けそうになっているキミに贈る47の言葉』
長州がレスラー人生の中で放った言葉を集め、それらについて現在の当人はどう考えているのか、働く人や若者たちに向けて語る……といった内容になっているらしく。正直、ぶっきらぼうなこの人らしからぬコンセプトだと思うのだけど。
「でも、ちょっと待てよ、と思ったんです。(中略)ちょっと前には、レスリングの吉田沙保里選手のお父さんで、僕の専修大学の後輩だった吉田(吉田栄勝)が亡くなりました。僕だって、いつ、くたばっちゃうかわからないわけです」(前書き部分より)
こんな自分の言葉でも“バトルロイヤルのように厳しいこの社会”を生きるための参考になるのなら……。
そんな思いで出版された、この新書。ちょっと、見てみましょうか。

「俺はワンパターンというのが大嫌いなんだ。皆が尊敬するから俺もというのはないんだよ」(ついつい周囲に流されてしまうキミへ)
長州がカール・ゴッチへ抱く、冷めた感情が露わとなった台詞。が、それのみで受け取られるのは、長州にとって本意じゃない。
「流行っているものを追いかけたって何も新しいものは生まれないんですよ。
むしろ逆を行くんです。僕なんかいつもそんなことばっかり考えていましたからね」
猪木のような“受けて立つスタイル”がウケていれば、逆に長州はスピード重視のハイスパートスタイルを開発。カウントスリー寸前で返すレスラーが多いならば、長州はカウントワンで跳ね返してみせる。
「子どもの頃、カブトムシとったでしょ? あれと同じでカブトムシがいっぱいとれるって評判の山に行っても、もう早起きした誰かにとられちゃってるんですよ。だったら誰も目をつけていない場所でクワガタ探せばいいじゃないですか」

「キレちゃいないよ」(ついついカッとなって失敗してしまうキミへ)
「どんな仕事だってキレたらプロじゃないでしょう。どっか冷めた目で自分自身を見てないとね」
勝負は、冷静さを失った方が負けてしまう。
先にキレた方が負け。キレそうになった時は、いったん離れた場所から自分を見つめ直す。周りから見て、自分はどう見えているか冷静に見つめる。これができればキレないと、長州はアドバイスしてくれているのだが……。
「プライベートでもリングでもキレたことってないですよ、マジで。アキラ(前田日明)に顔面をキックされたときだってキレてないですからね」
「この言葉は僕が言ったんじゃなくて、マスコミが勝手に作ったんだって。
え? 本当に言ってる? 覚えてないってことはキレてたのかな(笑)」

「インパクトなんです、もうそれで勝負は決まる」(印象を残せず、スルーされるキミへ)
話は、ジャパンプロレスのリーダーとして全日本プロレスに上がっていた頃まで遡る。
「全日の選手っていうのは試合会場でトレーニングを終えたあと、控室に戻らないんですよ。体育館の中にいて会場入りするお客さんの様子を眺めてたりなんかする」
当然、観客はざわつくだろう。サインを求めて、選手に群がる光景も少なくない。
「そういうのって僕は絶対やりませんでしたから。5時にトレーニングを終えたら控室から一歩も出ない。
そうして気合を入れてから試合直前に初めて出て行くんですよ。そうすると当日、会場に来たお客さんはそこで初めて僕の姿を見るわけじゃないですか。そこでインパクトが爆発するんです」
全日勢が登場しても、すでにその姿を見てしまっているがゆえ、長州ほどのどよめきは起きない。
ジャパン時代から経営に携わるようになった長州は、社内でもこのロジックを活用していた。
「会議室に入る瞬間からインパクトをとってやるの。席を立って会議室に向かう廊下もリングに向かう花道なわけ。そこから闘志むき出しにして会議室に入ってみてくださいよ。(中略)そうすると、あなたが部屋に入った瞬に空気、変わりますから。そうなったらこっちのもんですよ。誰にもスルーされませんから」

「無事故、無違反で名を遺した人間はいない」(小さくまとまりすぎているキミへ)
ペナルティを顧みずフライングを繰り返してきた生き方こそ、レスラー・長州力の歴史である。即ち、それは日本のプロレス界の歴史でもある。
「猪木さんなんて世間から見れば常に常識外れのことばっかりやってきたじゃないですか。モハメッド・アリにケンカ売って対戦を実現させちゃうなんてありえないでしょ」
「去年もなんかやって、維新の会から停学くらいましたよね。でもあれが猪木さんなんですよ。もう型にハメようがないという。それでもみんなに愛されているし、アントニオ猪木という名前は遺るでしょ」
“みんなと同じ”は、“その他大勢”と一緒。決して名前は遺らないと、長州は考える。

「イメージって自分で作るんです」(目立たないキミへ)
「人は見た目が9割」なる言葉があるが、長州も見た目を重視していた。目立てば、人に覚えてもらいやすい。それは、会社員にも有効な考え方なのか。
「僕のトレードマークの一つがこのロングヘアーで(中略)デビュー当時はパンチパーマだったんですけど、1982年からのメキシコ遠征でね、自然とそうなったんです。(中略)髪を切りに行く時間なんてないから放っておいたら、ロングヘアーになった。それがキャラクターになっただけですね」
「でも『長州』というリングネームと、この長い髪が『維新の志士』とかぶってブレイクしたんですから、不思議といえば不思議ですよね」
「あと、シューズだけは白にこだわってますね。ドラム缶みたいな身体ですから、白いシューズの方が足が少しでも長く見えるんです。あと軽快でスピーディなイメージもあるでしょ、白いシューズだと」

「ジェラシーだよ、ジェラシー。ジェラシーが俺にああさせたんだ」(自分にエネルギーを注入したいキミへ)
長州のジェラシーの対象といえば、言わずと知れたライバル・藤波辰巳。
「だって藤波さんは猪木二世とか言われてさ。男前だし、足だって長いし女の子にもキャーキャー言われているんですよ。(中略)かっこいい決め技もあって、ドラゴンなんて呼ばれてる」
「こっちは十円玉みたいな身体してさ。名前も長州力。(中略)最初は『なんだ、この時代遅れの名前は』ってがっくりしましたからね。ラーメンのチャーシューじゃないんですから。全部、漢字っていうのも嫌でしたね」
ただ、ジェラシーにも“いいジェラシー”と“悪いジェラシー”がある。相手の失敗に快感を覚えるのではなく、「俺はアイツの上を行ってやろう」という類のジェラシー。
「ジェラシーね、まあそうですよ。いろんな感情が爆発したんですけど、一言で言えばジェラシー。ヤキモチですよね」
「いいジェラシーだったらね、自分のエナジーになるんですよ」

「参考にしてほしい」という思いで制作されたものの、何のかんので長州力のレスラー人生を振り返るには絶好の一冊。彼の内面を窺い知れました。
(寺西ジャジューカ)