蜷川幸雄が見出した、俳優・藤原竜也


闇を抱えた狂気的な役といえばこの人、強烈なキャラクターで唯一無二の存在感を放つ、実力派俳優・藤原竜也。
近年は「デスノート」「カイジ 人生逆転ゲーム」「るろうに剣心」など、漫画原作映画の役のイメージが強く、藤原のセリフ回しなどはたびたびネット上で話題になったりもしているが、彼のデビューは舞台だ。

1997年、ホリプロの社員に舞台「身毒丸」のオーディションのチラシを渡されたというスカウトが、藤原竜也のデビューのきっかけ。
同年、藤原は15歳にして「身毒丸」の主役に抜擢され、演出家・蜷川幸雄と出会う。
この作品は寺山修司作の、義理の母娘の禁断の愛を描く物語。演技経験がなかったにもかかわらず、藤原は母役の白石加代子と共演し、鬼気迫る演技で大絶賛を浴びた。

こうして蜷川幸雄に見出された藤原は、その後、「唐版 滝の白糸」(2000年)、「近代能楽集〜弱法師〜」(2000年)など、立て続けに蜷川幸雄演出作品に出演し、10代にして役者としての才能を開花させていく。藤原竜也と蜷川幸雄のタッグはその後も、蜷川の人生を通して続いていくものとなる。
蜷川幸雄演出「ハムレット」(2003年)では、日本演劇史上最年少21歳でタイトル・ロールを演じ、主な演劇賞を総嘗めにした。
この舞台で、ヒロイン・オフィーリア役を演じた鈴木杏とは、2004年〜2005年の「ロミオとジュリエット」(同じく蜷川幸雄演出)でも相手役として共演。その後もたびたび藤原と鈴木は舞台で共演している。

蜷川幸雄監督の「蛇にピアス」を見直したい理由


蜷川幸雄の訃報が届き、多くの演劇好きに衝撃を与えた。
藤原竜也と蜷川幸雄のタッグによる最新作がもう更新されないのは残念だ。蜷川幸雄作品をあらためて見直したいという人も多いだろう。DVD化されている演劇作品もあるが、ここで敢えておすすめしたいのが、蜷川幸雄が監督をつとめた映画「蛇にピアス」だ。


これは金原ひとみのデビュー作であり芥川賞受賞作である同名小説を、作者たっての意向を受けて蜷川が映画化したもの。原作を忠実に再現し、リアリティーを増した映像もさることながら、主演の吉高由里子(当時19歳)と高良健吾(当時20歳)の演技にも注目したい。
吉高は、渋谷をふらつく19歳のルイを演じ、自身初のヌードを披露。全身に刺青が入った男・アマを演じた高良とのベッドシーンがリアルだ。今や連ドラ主演をつとめるほどの売れっ子となった吉高と高良だが、弱冠19歳・20歳の頃の二人の、生々しく緊張感のある演技には一見の価値がある。
映画「蛇にピアス」の主題歌はCHARAの楽曲「きえる」で、この曲が映画のラストシーンにとても似合っているのだが、作詞はCHARAと金原ひとみによる共作だという点も興味深い。


さらに、この映画には藤原竜也がカメオ出演しているのだ。出演時間はかなり短く、セリフも少しだが、物語に大きく影響を与える役である。
蜷川幸雄作品をもっと観てみたいと思った人は、この映画から見直してみるのも面白いのでは?
(空町餡子)

※イメージ画像はamazonより蛇にピアス [DVD]