日本唯一の雪上車、誕生のヒントに戦車
(上)国産初の実用雪上車である「吹雪号」1号車(下)現在、南極観測隊で使用されている最も大きい車両。立派になって…。
異常気象ゆえか、豪雪地帯では例年になく積雪が多く大変な状況。この時期活躍するものに雪上車があるが、それを作っているのは実は国内でただ1社のみである。


製造しているのは新潟は長岡にある大原鉄工所。昭和26年8月、県から雪上車開発を依頼され開発に取り組んだのだそうだ。明治40年創業のこの会社はもともとは石油削井機器の製作が本業で、ブルドーザーはおろかトラックも車も作ったことはなかった。それまでにも雪上車開発に着手した会社はあったもののことごとく失敗。県は困りはて地元資本の機械メーカーである大原鉄工所に白羽の矢を立てたのだという。

県が出してくれたのは研究費として当時のお金で150万円と兵器処理委員会から譲り受けた戦車の残骸だけだった。
けれども「豪雪へき地の民生安定のためにどうしても必要だ」という熱意は大原鉄工所の人々を動かした。

大原鉄工所のHP「雪上車開発ストーリー」によると、当時進駐軍が持ち込んでいた水陸両用のウィーゼル車を見て、これは何とかやれるかも、と確信。開発者の畔上さんは神田の古本屋でようやく見つけた「戦車工学」という1冊の本を手引きに奮闘したとある。雪の上を走る車は重量を軽くしなければいけないという問題が勃発するなど、今までなかったものをつくり出すということがいかに大変かが伝わってくる。昭和26年、試作品の「吹雪号」が完成。そして昭和30年、足回りの軽量化、耐久性の向上、雪の付着防止など今までの問題をクリア。
ようやく現在につながる雪上車を誕生させることができたのだそうだ。

ところで、大原鉄工所の技術の結晶とも言えるのが南極観測用雪上車。もちろん、南極観測用雪上車を作っているのは日本では大原鉄工所のみ。全長は約7m、幅3.5m、高さは3.3mで総重量は11トンにもなる。南極観測用が他の雪上車と一番違うのは低温対策でマイナス60℃までなら普通に動き、マイナス90℃までなら壊れることなく長期保管ができるというのだ。ボディーは厚さが5cmで鉄板の間には断熱材が発砲充填されているそうだ。
窓は旅客機と同じ二重ガラス。動く大型温蔵車といったところだろうか。ちなみに1km走るのには4リットル軽油が必要とのことでリッター250mである。南極にはガソリンスタンドはないので当然燃料は持参だそうだ。

一般の人は間近で見る機会はほとんどないけれど、個人的には非常に見てみたい車の一つである。(こや)