銭湯帰りの人で賑わう不思議な肉屋
渋谷区幡ヶ谷、中幡小近くにある肉屋「田島屋」。夜、焼き鳥を買いに来る人の風呂上り率は90%以上!?
肉屋の店先で焼き鳥を焼くーそんな店はけっこうあるだろう。その場で食べる人のために、パイプイスが置いてある、そんな店もあると思う。

だが、東京・幡ヶ谷にある「田島屋」では、ちょっと珍しい光景が見られる。毎晩、店先に集まる人たちは、首にタオルをかけていたり、風呂グッズを持っていたり、みんなせっけんの良いニオイを漂わせながら、ビール片手に焼き鳥を食らっているのだ。

実はこの店、銭湯の向かいあたりに位置しているため、風呂上りの人たちがその足で焼き鳥を食べに寄るようだ。
お店のおばちゃんに聞いてみると、
「表で焼き鳥を焼き始めたのは、もう十数年前からですね。パイプイスは、いつからですかねぇ、立って食べてる人がいるから、置くようになったんですけど(笑)」

やはり銭湯帰りに立ち寄る人が多いらしく、
「お風呂上りに毎日来る人もいますよ。2〜3本食べていくの。
それと、『お風呂から○時頃にあがるから、それまでに焼いといて』という注文もけっこうあります」。
確かに、風呂上りはまずビール。そして、ビールのつまみには、枝豆か焼き鳥でしょう。わかりますとも。そんな光景が向かいで展開されているのだから、ついフラフラと足が向いてしまうのも当たり前のような気がする。

さらに、ときどきおばちゃんが店の奥からお客さんに缶ビールを渡す姿も見かけるが、こんな事情があるそうだ。

「うちはビールとか飲み物、全部持ち込みなんですよ。それで、よく知っているお客さんの分だけ、お風呂に入っている間、缶ビールを預かって冷蔵庫で冷やしておいてあげてるの」
何よりのサービスです。でも、缶ビールキープシステムは、「常連中の常連」だけの特権なのだろう。
この日も店先には、一人で来た若いおにいちゃん、おじちゃん、おばあちゃん、女性の2人組、親子と、いろんな人たちがくつろいでいた。
「風呂上りのこれが楽しみでねぇ」
焼き鳥を囲んでそんな会話も弾む、パイプイスだけの小さなゆるゆる空間なのだった。
(田幸和歌子)