温度に名前、全国銭湯津々浦々
「おふろやさん」の響きが和む銭湯。こちらの銭湯も、温泉が沸いているわけではないけれど、名前は「〜温泉」。
最近、私の住む関西の銭湯のお湯が熱い気がする。
熱いお湯といえばイメージするのは東京の銭湯。
しかしここは関西だ。「関西のお湯は温いものだ」と思いこんでいたので驚いた。
逆に関東の人からは「最近、銭湯の温度が低い」と言う声がちらほら。銭湯の温度が東西で近づいているのだろうか。いつから銭湯のお湯における東西の壁は取り払われていたのだろうか。

大阪府公衆浴場業生活衛生同業組合に大阪の銭湯の温度を伺ってみたところ、
「特に決めてはいないのですが、40度ほどにしている場合が多いようです」
との回答をいただいた。
銭湯ファンに話を聞いてみると、昔の関西は38度ほどのお風呂が多かったとか。2度違うなら、確かに熱くなったと感じるはずだ。
しかし温度が高いと思われがちな東京も現在は40度前後に保たれているらしい。それでも今でも東京には45度オーバーの銭湯もあるとのことで、入ったことのある人によれば、「熱いというよりむしろ『痛い』」とのこと。これは確かに熱そうだ。
熱い風呂にさっと入りパッと出る、というのが江戸の粋。
だらだらお喋りするためお湯が温いのが関西のお風呂……というイメージがあったが、気がつくと関西は上がり関東は下がり、やはり東西は互いに少しづつ歩み寄っているようである。

ところで、銭湯の名称は全国的に見ると「〜の湯」が多い。関東ではほとんどこの名が付けられる。
しかし関西では「〜温泉」という名前の銭湯が目立つ。特に昔からやっている銭湯は、ほとんどがこの名前だ。
といっても別に温泉が沸いているわけではない。あくまでも普通の銭湯なのである。
なぜ「温泉」の名が多いのかというと、それは大阪の銭湯経営者に石川県の出身者が多いからという。
故郷に錦を飾るため、「〜の湯」よりも「〜温泉」の方が響きがよく、アピールしやすい……という理由でこの名称が流通したのだとか。
もちろん今では地下源泉の温泉を使用しない限り、名称に「温泉」と付けることができない。
しかし昔から「〜温泉」で経営している銭湯については継続オッケー。というわけで、関西の町を歩けば「温泉」な銭湯をいくつも見つけることができる。


関西の他に鹿児島県にも「〜温泉」が多いが、これは燃料節約のために実際に温泉を掘ったため。なので看板に偽りなしだ。
ちなみに名湯が多く揃う静岡県は、例え本当の温泉を使っていても謙虚にも「〜の湯」にしている店が多いのだという。こんな所にも県民性が見られて面白い。

しかし銭湯の数は大阪で言えば現在947軒。
平成8年には1287軒の銭湯があった。つまり、ここ10年で340軒減少している事になる。これは大阪だけではない。全国規模で銭湯は消えているのだ。
原因はスーパー銭湯などの大型施設が増えた事と、風呂付きの家が増えてきたため。
しかし昔ながらの銭湯というのは、新しい施設にはないじんわりとした味がある。
たまには銭湯にぶらりと立ち寄って、身体の疲れを癒してみてはいかがだろうか。

(のなかなおみ)
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