「マスター」は本当にヒゲなのか
おいしいコーヒー、ヒゲのマスターが入れてくれると、どことなく美味しさが増す気もします。
「マスター」と聞くと、枕詞のように、つい上に「ヒゲの」とつけたくなるほど、マスターとヒゲとの相性は抜群だ。

吉本興業の芸人でも、「ジャリズム」の渡辺鐘が、鼻の下にヒゲをたくわえた風貌というだけで、テレ朝「虎ノ門」で「マスター」と呼ばれていたりする。

また、かつてクドカンのドラマ「マンハッタンラブストーリー」では、TOKIO松岡演じるマスターが、わざわざ「つけヒゲ」をつけていた設定だったことからも、マスターにとって「ヒゲ」が欠かせないアイテムだということがわかるのではないか。

じゃ、やっぱり「マスターはヒゲ」なのか。なんとしてもヒゲであってほしい。
そんな思いを抱きつつ、本屋で「ヒゲのマスター」を探してみた。生憎、喫茶店の本などに、マスターが顔出しをしているケースはごく稀である。
雑誌でシェフの顔出しが多いのに比べ、マスターのなんと奥ゆかしいことか。さすがマスター。

と思いつつ、顔写真が比較的多く掲載されている本を購入してみた。『TOKYO&KYOTO隠れ家喫茶店案内』(中央公論社)。
装丁からしてシブく、喫茶店のチョイスも、「エリカ」「神田伯剌西爾」「画廊喫茶ミロ」「アンヂェラス」「名曲喫茶ミニヨン」など、老舗の名店ばかり。いやがおうにも期待が高まる。

実際に見てみると、やはり顔写真を載せていない店が多いため、店のHPやその他紹介記事なども探し、なんとか得られた情報が23軒分。

うち、ヒゲの生えていないマスターは13軒で、ヒゲの生えようのない女性が10軒。女性が多いのは、もともと女性がマスターをつとめていた店のほかに、「ご主人が亡くなって、奥さんが店を引き継いだ」ケースが案外多いというせいもある。

で、肝心のヒゲマスター。すでにお気づきかもしれないが、なんと23軒中ゼロという結果に!
余談だが、ゲームの『どうぶつの森』に出てくるマスターはヒゲらしいが、『マンハッタン〜』のように、フィクションの世界にしか存在しないのか。「名店にこそ、いるはず」と思ったヒゲのマスターは、幻の存在なのか。

ちなみに、たまたま入った喫茶店2軒(神田と葉山)で、偶然、ヒゲのマスターを見つけ、「ヒゲの理由」を聞いてみると……。
「特に理由はないですねえ(苦笑)」と、はにかむ神田の初老のマスター。一方、葉山のまだ若いマスターは、
「脱サラして、コーヒー屋さんをやるのが夢だったんですよ。マスターといったら、やっぱりヒゲでしょ」
と、嬉しそうに語ってくれた。

実在する「ヒゲのマスター」は、案外少ない。だが、このマスターのように、イメージから入ってくる「ぴちぴちのヒゲマスター」は、今後、増えていくかもしれない。
(田幸和歌子)
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