「水なしで飲める」は、水で飲んじゃいけないの?
おなかが痛いとき、よく飲んでるチュアブル錠。バナナ味なので、ちょっとお菓子みたいです。
近年、「水なしで飲める」とうたう、チュアブル錠のクスリが増えてきた。味もずいぶん飲みやすくなって便利だけど、そもそもなぜ「水なし」が増えてるの?

「パンシロンシリーズ」でおなじみのロート製薬株式会社に聞いてみると、広報担当者が、こんなことを教えてくれた。

「そもそもクスリを飲むときの水の役割は、味を感じにくくして流し込むとか、クスリの吸収に関与してるとか、安全にクスリを消化管に届けるなどがあります。そのため、水なしにするためには、味の不快感を取り除き、安全性に問題ないかなどをクリアする必要があるんですよ」

近年、増えている理由としては、
「それらの問題を解決できる画期的な製剤技術や、成分ができたとかいうわけではなく、利便性にニーズがあるから、1個1個試行錯誤で作っているんですよ」とのこと。
というのも、日本で最初にできたチュアブル錠は、ロート製薬(株)が93年に発売した「パンシロンNOW」で、大変な苦労があったのだとか。
「もともとは『水なしで飲めたら便利だね』という単純な発想だったんですが、胃腸薬はそのままだと苦くてマズイので、味のマスキングといって、苦味をクリアするために、様々な工夫が必要でした。有効成分でないものを使ったり、スーッとする成分を入れたり、キシリトールなどの甘味料を入れて、開発者が自分で何百もの試作品を作って生まれたものと聞いています」
しかも、噛めるやわらかさで、輸送してもこわれないかたさを考慮しなければならなかったそうだ。

ところで、「水なしで飲める」といわれても、ついクセで、水で飲みたくなっちゃう人もいると思うが、いけないの?
「効果が半減というわけではないですが、薬物の種類によっては、吸収に差が出たり、効果に影響が出る可能性がありますので、定められた用法・容量・飲み方をしてください」
また、「かみくだくか、口の中でとかす」と書かれているものが多いが、どちらが効果が高いかというと「基本的には同じ」だそうだ。


ちなみに、「水なしで飲める」ものには、ジャンルはあるのだろうか?
「明確なジャンル分けはなく、労力・お金があればできないものはないともいえます。ただし、技術・法律面で、チュアブル錠にしやすいかどうかのハードルは、ジャンルで違うんですよ」。
たとえば、チュアブル錠にしやすいのは、現状では胃腸薬や胃薬、鼻炎や乗り物酔いのクスリだそうだ。その一方で、チュアブル錠にしにくいものはというと……。
「解熱剤ですね。解熱剤は苦いものが多いため、マスキングの研究をすると、苦味を消す成分がすごく多くなってしまい、1粒あたりの錠剤がすごく大きくなるか、錠剤の個数が大きくなってしまうんです。
しかも、熱を下げるために必要なクスリの量はもともと多いので、さらに、大きくなってしまうんですよね」

開発者が試行錯誤を重ねて、ずいぶん便利になってきたとはいえ、なんでもかんでも「水なしのクスリ」の世の中は、まだまだ遠いようだ。
(田幸和歌子)