サル山のサルの顔、どうやって見分けるんですか
財団法人日本モンキーセンターの「ヤクニホンザル個体識別台帳」。このように写真入りで記録されている。かなりの厚みがあるが、これはまだ半分だそうだ(写真提供/財団法人日本モンキーセンター)。
動物園のサル山には、よく「ボスザル」の写真と、その特徴が掲げられていたりする。
でも、みんな同じ顔に見えるんですけど……。
飼育担当者などはどうやって見分けてるの?

財団法人日本モンキーセンター附属博物館世界サル類動物園の加藤章園長に聞いてみた。

「サルの見分けを私たちは『個体識別』と呼んでいます。サル山の規模は、2〜30頭からモンキーセンターの138頭など、さまざまですが、10頭くらいは、特徴のある個体でしたら誰でもできるでしょう。サル山に通うならば、20頭くらいは特徴などで識別できますよ」
どんなところで見分けるのでしょうか。
「例えば、大きさ、体格、特徴ある顔など、身体的特徴と、威張っている、びくびくしている、ぼっとしている……などの雰囲気ですね」

動物園の専門家である飼育技術員も、やはり同じような組み合わせで識別をしているのだという。ただし、100頭、200頭と識別するときは、この識別法ではもちろん限度があるが……。
「あとは、漠然と1頭1頭を覚えるのです」

順番としては、以下のような流れだとか。
1.特徴などでメインになる個体を識別する。
2.個体間の関係を同時に把握(ニホンザルは母系家族なので、母親を中心に子ども、おばあちゃんが一緒に集う)
3.縦割りの関係を把握する(ボス、2番ボスやメス頭……一番弱いなど)
4.年齢(3歳くらいまでは同年齢同士で集まりよく遊ぶ)
5.そうこうしているうちに覚えてしまう

「また、多くの動物園では体毛のない顔面に刺青をしています。大きさは5ミリくらいでぼんやりと入れますから、ほとんどの方は気が付きません。右目尻を1番として時計回りに左目尻が9番、吻部を10番、鼻の頭が20番で右目上が60番で終わる形式が多く用いられます。これらを組み合わせて200番くらいまで読むことができます」
さらに、法律によってIDチップが背中の皮膚の下に埋め込まれており、リーダーでアルファベット4文字と10桁の数字が読み取れるようになっているそうだ(※捕獲時のみ)。


「ちなみに、日本モンキーセンターには100頭を1週間でほぼ確実に識別できる識別の天才もいますが、やはり努力と愛情が必要です。彼は現在、138頭のヤクニホンザルと22頭のボリビアリスザル、140頭のカニクイザル、45頭のアヌビスヒヒなど400頭ちかい個体を識別しています」
400頭近くも!? 驚異的な能力だが、実はこの個体識別能力は、日本人のお家芸なのだという。
「先進国(例えばサミット先進国首脳会議参加国)で野生のサルが生息するのは日本だけです。そしてこの識別能力を発揮させ、日本の霊長類学は世界の最先端をいくことになったのです。初期には『そんなことできる訳がない』と海外の研究者から非難を受けたこともあるようですが、現在では世界に認められています」

ちなみに、個体識別に必要な道具は、「特徴や仕草を観察するための双眼鏡、なんでも記録するノート、デジタルカメラや録音機材、飲み物やおやつ」。家系簿を持っている動物園もあり、頼めばもらえるところもあるそうだ。

みんな同じ顔に見えていたサル山のサル。1度、じっくり愛情と努力を持って、見分けてみたいと思いました。
(田幸和歌子)

(財)日本モンキーセンターHP
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