本と土地を交換!? たもかぶ本の街に行ってきた
直接只見に持ち込む人の他、宅配便を利用する人も多いという
福島県南会津郡只見町の山奥に、不要な本を持っていくと定価の10%で評価された後、現金ではなく、なんと山林と交換してくれるという田舎ならではのサービスを行う“たもかぶ本の街”がある。本好きの間ではちょっとした人気スポットである巨大古書店街の全貌を探るため、たもかぶ本の街・代表の吉津耕一さんに話を聞いた。


「都会の人に森に来て遊んでもらう目的で林業の会社を立ち上げたのが始まりです。バブル崩壊後、訪れる人も少なくなり、『遠くても来てもらう魅力は何か』と考えたところ、“本”が浮かんだんです。都会の人は本を弄ばしてるんじゃないかと思ったんですね。だから田舎にあり余っている土地と、都会でいらなくなった本を交換して、現代版『海幸・山幸』みたいなことができないかなと思ったのがきっかけなんです」

たもかぶ本の街は、ジャンル別に6つの倉庫(とにかく広い!)があって、文芸書や学術書、コミックなど大量の本がひしめきあっている。吉津さんが本の街を始めた1994年から11年間で、延べ3万7881人から251万2725冊の本を送ってもらったというから、そのスケールは容易に想像できるはずだ。さらに、すべての本が定価の半額で売られているので、マニアしか知らないプレミア本など、貴重なものであればあるほど、お得率はアップするというわけ。なんともコレクター魂がうずく話ではないか!

「利用客は大都市圏の人が多いですね。地元の人が1〜2冊買うのに対して、都会の人は遠方から来たというのもあって段ボールでまとめ買いしていきますよ」

さて本題の、本と森の交換について。買取はすべて定価の10分の1で行われ、1750円で1坪と交換できるシステムになっている。つまり元値で1万7500円分の本があればいいわけだ。
1750円の本を10冊、または1000円の本を18冊……そんな計算も、子供の頃にやった買い物ごっごみたいでなんだか楽しい。

「自分が何百万もかけて買い集めたものが古本屋で100分の1になるのはむなしく感じる人が多く、土地と交換しようとやって来ます。
1番広い土地を持ってる方だと、定期的にコツコツ売りに来て最終的に1200坪になった方がいますよ」

せ、せんにひゃく!? ということは単純計算で元値2100万円分の本を売ったということになり、一瞬気が遠くなりかける。だが実際、交換のための森の中を案内してもらうと、楢(なら)やケヤキ、栗の木が生い茂り、地面には山菜もたくさん生えていて、空気もおいしい。都会人というのは、やけに大自然に弱く、1200坪を得た人もそんな魔法にかけられた一人なのだろうと思ったら納得してしまった。
また、定価の半額で売るのは惜しい希少本を展示している「うらない館」(時期によっては販売)や、大量の本を保管しなけれないけないデザイン事務所や出版社へ資料倉庫として貸し出すなど土地の広大さを利用したサービスも興味深かった。

最後に、自身も本が大好きだという吉津さんに今後の目標を聞いてみると、「只見全体を本の街にすることですね。自動車修理工場は自動車の本を集めたり、お菓子屋さんならお菓子の本を置いたり、それぞれの店が仕事分野や好きな分野の本を集めて、街全体を本のテーマパークにしたいです」と力強い答えが返ってきた。

本と土地を交換するというシステムは、まさに都会と田舎を結ぶ架け橋。たもかぶ本の街で、探していた本を見つけるもよし、土地と交換して田舎を満喫するもよし。あなたも、本棚で眠っている本と引き換えに、新たな夢を手に入れるのはいかがですか?
(平井万里子)

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