“知能を持つロボット”が当たり前の時代へ。Mujinが主導する、人手不足時代の自動化技術
経済や産業の進化に不可欠なBtoB企業に焦点を当て、各企業の強みや社会的価値を可視化することで、そのダイナミズムと未来におけるBtoB企業の価値を紐解く企画「Social Shifter~進化を加速させる日本のBtoB」。今回取り上げるのは、“産業用ロボットに知能を宿す”アプローチで自動化の限界を突破しようと挑戦し続ける株式会社Mujin Japan(以下、Mujin)だ。


同社の知能ロボットコントローラ「Mujinコントローラ」は、トヨタグループをはじめ、アスクル、SUBARU、ファーストリテイリングなど大手企業で導入されている。

単なる自動化ではなく、人とロボットが共に働く社会の実現を見据え、現場における真の自動化に挑む同社。今回は同社CEO 荒瀬 勇氏に話をうかがい、ものづくり現場の未来を再設計する、その技術と思想の核心に迫る。

“知能を持つロボット”が当たり前の時代へ。Mujinが主導する、人手不足時代の自動化技術
<企業概要>株式会社Mujin Japanインテリジェントオートメーションを実現する統合自動化プラットフォーム「MujinOS」を強みにもつ日本の総合オートメーションテクノロジー企業。産業用ロボットに「知能」を与える独自のモーションプランニング技術により、自律的な動作や多品種・変動対応を可能にし、従来のティーチング作業を不要とする。さらに、ロボットの知能化に留まらず、様々な自動機器を統合制御することで物流・製造分野を中心に自動化の難所を解消し、人とロボットが協働する生産現場の構築を支援。社会インフラとしてロボットを活用したインテリジェントオートメーションを推進している。

多種多様な商品を識別し、持ち運ぶ「ピッキング」が最大の課題

Mujinが解決を目指すのは、製造・物流現場における「きつい労働」だ。単純労働や重労働、そして単調な繰り返し作業は、将来にわたって人が続けるべき仕事ではない、と彼らは考えている。未来永劫、そうした労働が存在する世界ではなく、人々がよりクリエイティブな仕事に集中できる世界を目指しているのだ。

「これまで、工場や倉庫では24時間365日、人がピッキングや運搬作業を続けており、いくら自動化が進んでも、完全に置き換えることは難しいのが現状でした。人が行う必要があるけれど、なかなか厳しい作業だったり、今後の日本の人口減少だったりを考えても、自動化なしでは持続可能な社会は実現できませんよね。私自身、前職が総合重機械メーカーだったのですが、製造業のこうした現場を日々見てきたからこそ『なんとかしたい』と強い危機感を抱いていたんです」

従来の自動化技術分野でもとくに難航してきたのが「ピッキング」だ。
多種多様な商品を正確に認識し、それぞれに適した方法で持ち運び、積み付ける作業は、ロボットにとって非常に高度な識別能力を要する。段ボール一つとっても、種類、重量、形状が異なり、ロボットによる自動化は困難を極めていた。これは、対象物を識別する能力と、識別したものをどう扱うかという制御能力、この2つをロボットが担うことが難しかったためだ。

「従来の自動化ロボットは、同じ動きをひたすら繰り返す『流れ作業』には強みを発揮してきました。例えば自動車のライン生産のように、常に同じものが同じ位置に流れてくる環境では効率的でした。しかし、ECの普及や多品種少量生産へのシフトに伴い、工場や倉庫では多種多様な製品を柔軟に扱う必要性が高まったんです。そのため、従来の技術では、自動化が難しい現状にありました」

“知能を持つロボット”が当たり前の時代へ。Mujinが主導する、人手不足時代の自動化技術
この課題に挑むために、同社が開発したコアプロダクトが「Mujinコントローラ」だ。荒瀬氏はこれをMujin独自のOSと表現し、かつてのパソコン市場に例えて説明する。

「元々、パソコンなどはメーカーごとに異なるOSやソフトウェアが存在し、互換性がなく使いづらい状況でした。でも、Windowsの登場でハードウェアのメーカーは異なっても、画面上で共通の操作ができるようになりましたよね。我々もこのように、さまざまなロボットで機能するOSの開発を主軸にしています。つまり、特定のハードウェアに依存せず、あらゆるメーカーのロボットを制御できるプラットフォームをつくっているんです。
そのOS上で、ビジョン認識やロボット制御、さらには稼働状況の可視化といったさまざまなロボットやアプリケーションが動作する。カメラの認識技術、制御技術、見える化技術が個々に存在する中で、これらすべてを『全方位』で統合したプラットフォームを提供できるのは、現時点でMujinだけだと考えています」

自社の技術に自信を見せながらも、Mujinが描く理想の姿はさらに先にある。プラットフォーマーとしての構想は着実に形になりつつあるが、理想の状態を100%としたときに、現状の進捗は10%程度だという。ビジョンが極めて高く広範であることの裏返しだ。

「特に、MujinがOSの普及において重視するのが『キラーアプリケーション』の存在です。WindowsがExcelやPowerPointといったアプリケーションによって普及したように、Mujinも製造・物流現場のピッキングなどにおいて『使いたい』と思っていただけるアプリケーションを提供することで、Mujinが開発するOSの標準化を目指しています」

“知能を持つロボット”が当たり前の時代へ。Mujinが主導する、人手不足時代の自動化技術

「技術力」「営業力」「現場力」の3つが強み。導入後の伴走で顧客の成功に向き合う

Mujinの強みは技術力だけにとどまらない。荒瀬氏は、自社の強みについて「技術力」「営業力」「現場力」の3点を挙げる。

「そもそも、他社と差別化できるような技術力がなければ、勝負ができないのは前提です。そのうえで、我々にはその技術を提案し、伝えるための『営業力』があります。さらに、我々の技術を使うのは現場の方々です。売って終わりではなく、導入した後も運用を続けられるように伴走する『現場力』も備わっています。
3点が我々の強みであり、そうした強みを活かす会社の体制になっています」

特に「現場力」について、Mujinではコンサルティング部隊も擁している。物流の自動化に馴染みのない顧客に対し、現場の課題の洗い出しと具体的な改善策や費用対効果の提示によって、導入へのハードルを下げることを目的としている。

さらに、顧客の設備や運用に合わせてカスタマイズを行い、導入後もリモートでの監視やトラブルシューティング、アップグレードの対応など、手厚いサポート体制を構築している。

このようにMujinのソリューションを顧客が導入し、「成功」まで伴走する姿勢は、「カスタマーサクセス」への徹底したコミットの表れでもある。

実際にMujinのソリューションを導入した現場では、大きな変化が起きている。

例えば、自動車部品メーカーの「株式会社三五」では、Mujinのソリューションを導入したことで重筋作業を自動化し、貴重な人員を別の改善業務に再配置できたという。日用品卸の「株式会社PALTAC」では、人が行っていた段ボールの積み付け作業をロボットが自動化。これにより重労働から解放された現場では、女性や年配の方が働きやすくなり、老若男女問わず雇用しやすい環境へとつながっている。

▼導入事例
Mujin導入事例「株式会社三五様」無人製品倉庫で工場物流を刷新、DXとコスト削減を加速
株式会社PALTAC様 – パレタイズロボット | 株式会社Mujin
株式会社PALTAC様 – デパレタイズロボット | 株式会社Mujin

“知能を持つロボット”が当たり前の時代へ。Mujinが主導する、人手不足時代の自動化技術

パソコンやスマホのように「自動化」も当たり前の世界へ

ロボットの普及で自動化が進んだ場合、「人の仕事が奪われる」という懸念もよく挙げられる。しかし、その時には人間が行うべき新たな雇用が生まれると考えているようだ。

「自動車や電車が登場した際、それまでの交通手段に関連する仕事が減る一方で、自動車産業や鉄道関連の新たな仕事が生まれたように、ロボットの普及が新たな職種を生み出すと考えています。例えば、ロボットを監視したり、ロボットが得た情報を分析したりする職種です。
分析した内容を活かし、現場改善を行う職種も生まれるでしょう。このように、仕事が奪われるのではなく、人間にしかできない新しい仕事が増えていくと思っています」

5年後、10年後の理想の姿として、荒瀬氏は「世の中にあるモーターやアクチュエータで動くものが、すべてMujinOSで動いている」未来を描く。今やパソコンを持っていることが当たり前なように、将来的に工場や倉庫でも自動化が「当たり前」になり、人がロボットを使いこなす時代が来ると言う。

「今やパソコンやスマホはほとんどの人が持っているじゃないですか。持たない、使わないことのほうが自然じゃなくなっている。我々も、工場や倉庫での自動化が当たり前になる世界を目指しています。特に日本には、これまでものづくりで培ってきた『現場力』があり、世界でも十分に戦える。この強みを活かし、日本発のグローバル企業を目指します」

単なる自動化技術の提供にとどまらず、人とロボットの関係性を再定義し、産業全体、ひいては社会全体のあり方をより良い方向へと導こうとしているMujin。日本、そして世界の製造・物流現場を自動化した先に、新しい働き方、新しい生き方が生まれる未来は近そうだ。

取材・文:吉田 祐基
編集部おすすめ