#18 矢野謙次(巨人) “代打の代打”で逆転満塁HRの画像はこちら >>

◎2007年5月31日 東京ドーム

ソフトバンク  0 0 2  1 0 0  0 0 0 = 3

巨人      0 0 0  0 0 0  4 3 X = 7

HR(ソフトバンク)多村8号 田上3号

(巨人)矢野2号 阿部10号

「回は7回の裏、ジャイアンツの攻撃。3-0とソフトバンクが3点をリードしています。

ジャイアンツ、1アウトフルベース。長打が出れば同点、あるいは逆転のケース。ボールワンから2球目を、打った! 打球は左中間に伸びていく! レフト後退する! 満塁ホームランか? 満塁ホームラン! 入った、入った! ホームラン! ホームラン! 矢野が第2号の満塁逆転ホームラン!」(実況:ニッポン放送 胡口和雄アナウンサー

「ここで一発、決めてほしい」……そんな場面で、ピンチヒッターとして登場。ひと振りで試合を決めてくれる“代打の切り札”がいるとこんなに心強いことはない。かつて巨人には、原辰徳元監督が“代打の神様”と絶賛したバッターがいた。2003年から2015年途中まで13年間在籍した矢野謙次である。

國學院大學出身の矢野は、2002年のドラフトで巨人から6巡目指名を受け入団。3年目の2005年から外野手として先発で起用されるようになり、85試合に出場した。2006年には103試合に出場と出番を増やしていったが、2007年、新外国人のデーモン・ホリンズが加入。開幕から外野を守ったため、矢野は代打に回った。

当時、矢野はそのことについて記者に聞かれた際、苦笑いしながらこう答えている。「そりゃあ、先発したいですよ。

でも自分でコントロールできないことに腹を立てるのは無駄。そのエネルギーは、できることに向けたい」……腐らず前向きな心構えで、5年目のシーズンに臨んでいた矢野。そんな彼に絶好の“見せ場”がやって来る。

5月31日、ソフトバンクとのセ・パ交流戦。この試合、巨人打線はソフトバンク先発・新垣渚に6回まで無得点に抑えられ、0-3とリードされていた。しかし7回裏、巨人は李承燁、阿部慎之助の連打と四球で1死満塁のチャンスを作る。ここで原監督は、ソフトバンク2番手・佐藤誠(右投手)に対して、左の代打・清水隆行を起用。ソフトバンク・王貞治監督は左投手の篠原貴行をマウンドへ送った。原監督もこの流れは想定内。すかさず“代打の代打”を審判に告げる。右打者の矢野である。

3点差で、満塁弾が出ればたちまち逆転するこの場面。

東京ドームでは巨人・渡邉恒雄球団代表が滝鼻卓雄オーナー(肩書きはいずれも当時)やテレビ関係者らと試合の行方を見守っていた。このときナベツネ氏は、チャンス到来で上機嫌になり、つい口をついて出てしまったのだろう。滝鼻オーナーにこう言った。「ここでホームランを打ったら、矢野に1000万円出さないか?」

一方、大きなチャンスをもらった矢野は、こう語っている。「すべて、想定して備えていた」。事前の研究で、篠原のスライダーを「振ってはダメ」と警戒していたら初球に投げてきた。矢野はしっかり見極め、1ボール。「次は真っ直ぐを投げてくる」と読んでいた矢野は、2球目、外角寄りのストレートをフルスイング! 打球は左翼席中段に突き刺さる代打逆転満塁ホームランとなった。劇的な一発に沸き返る東京ドーム。“代打の代打”による逆転満塁弾は、ジャイアンツの長い歴史の中でも初めての快挙だった。

また「代打逆転満塁弾」もチーム20年ぶりで、前にこのコラムで取り上げた1987年4月19日・広島戦で打った原辰徳以来。試合後、報道陣にそのことを指摘された原監督は「打ちましたかねえ?」ととぼけ、「彼本来の思い切りのよさ、勝負強さが出た。

チームに勢いをつけてくれることを予感させる、いい勝ち方だった」と矢野を讃えた。ちなみにこの年、巨人は落合博満監督率いるライバル・中日を追い上げ、逆転優勝を果たしている。

ところで、「矢野が打ったら1000万円」と言ってしまった渡邉氏はどうしたか? 矢野の一発を観て後に引けなくなり「こりゃ出さなきゃイカンな。でも、いま10万くらいしか持ってないから、次の査定のときに1000万乗っけるよ。今日の一発は1000万円以上の価値がある」と約束。オフの契約更改で、矢野は控え選手としては異例の“特別ボーナス1000万円”を含む2000万円アップの推定年俸5000万円を勝ち取っている。

矢野はその後も代打の切り札として活躍。代打での打率が2010年は.444、2011年は.417と2年連続で4割を超え、2013年には「代打でシーズン19安打」という球団新記録を作った。2015年のシーズン途中、日本ハムに移籍し、2018年に現役を引退。現在は巨人の巡回打撃コーチを務めている。

<チャッピー加藤>

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