『清川妙の手紙ものがたり』(清流出版)著者:清川妙Amazon |honto |その他の書店

◆手紙は良いなあ!
このごろはなんでもメールで、なにやら味気ない世の中になった。

じつは、私は人後に落ちない手紙好きで、かつてイギリスに留学中に彼の地から東京の家族に宛てて書いた手紙が一年で百通あまり、それも一通が原稿用紙にしたら五六枚にもなるような長いものであったから、家族は毎日その長くて重い手紙を愉しみにしていたという。
今読み返しても、それぞれの手紙を書いた時のことが彷彿と蘇ってくるのは、なんといっても手紙の効用である。メールではとてもこうはいかない。

さて、つい最近『清川妙の手紙ものがたり』という本を読んだ。まだ書店に出たばかりの新刊書だが、この本は、手紙の書き方とか、そういうような性格の書物ではない。

すべてが実際に清川さんに贈られた手紙をテーマに、それぞれの手簡についての、心温まる、また時にはしんみりと涙ぐましい思いのするエピソードが、春風のような文体で綴られている好箇の手紙エッセイなのだ。ふと、どの手紙から読み始めても、もう一つ、その次も、と後を引いてどんどん読んでしまう。


ここには二十一人の人の手紙にまつわる物語が集められているのだが、そのすべてを一言以て之を蔽わば、「思い邪(よこしま)無し」ということであろう。人を傷つけるような手紙を書く人は、心が貧しい。しかし、心の豊かな人の手紙は、なによりも人を勇気づけ励ますのだ。

そんな消息を、この文どもの物語が教えてくれる。しかも、その手紙の実物が美しいカラー図版で挿入されているのは、かえすがえすも好ましい。読んでいるうちに、私もまた手紙を書きたくなった。


【書き手】
林 望
作家・国文学者。1949年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業・同大学院博士課程単位修了満期退学(国文学専攻)。ケンブリッジ大学客員教授、東京芸術大学助教授等を歴任。『イギリスはおいしい』(平凡社)で91年日本エッセイストクラブ賞、『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』(P・コーニツキと共著、ケンブリッジ大学出版)で92年国際交流奨励賞等受賞、『林望のイギリス観察辞典』(平凡社)で93年講談社エッセイ賞受賞。古典論、エッセイ、小説、歌曲の詩作、能楽、書評、料理書等、著書多数。
近年は『往生の物語』(平凡社新書)『恋の歌、恋の物語』(岩波ジュニア新書)等古典の評解書を多く執筆し、『謹訳源氏物語』(全十巻、祥伝社)で2013年毎日出版文化賞特別賞受賞。近著『謹訳平家物語』(全四巻、祥伝社)、『巴水の日本憧憬』(河出書房新社)、『役に立たない読書』(集英社インターナショナル新書)、『(改訂新修)謹訳源氏物語』(祥伝社文庫)。『源氏物語の楽しみかた』(祥伝社新書)最新刊『謹訳徒然草」(祥伝社)

【初出メディア】
スミセイベストブック 2013年2月号

【書誌情報】
清川妙の手紙ものがたり著者:清川妙
出版社:清流出版
装丁:単行本(189ページ)
発売日:2012-10-12
ISBN-10:4860293959
ISBN-13:978-4860293956