本書はとてもバランスがよい。目配りも周到だ。
著者は宗教学の島薗進氏。国家神道の著書も多い。東京自由大学での講義を元に、柔らかな語り口だ。
神道は、キリスト教や仏教と比べても摑みどころがない。起源が古いうえ、仏教と習合し、そのときどきの政府の政策に影響されてきた。
天津(あまつ)神/国津(くにつ)神の対比がまず重要だ。前者はアマテラスなど朝廷の神々。後者は出雲系など土着の神々。それをアマテラス中心に整理したのが古事記・日本書紀だ。その流れで伊勢神宮も造った。律令制は神祇官(じんぎかん)を置いた。
おかげ参りや富士講は、庶民が信仰の主導権を取り戻す動きだった。垂加(すいか)神道や国学や水戸学は神聖天皇を中心とする皇国主義の源流で、尊皇攘夷に結びついた。皇室祭祀や軍人勅諭や教育勅語や靖国神社は、維新政府が急ごしらえしたものだ。
みなが神道と思っているものは、神道の実態からこうも離れている。それを思い知るだけでも収穫だ。
【書き手】
橋爪 大三郎
社会学者。1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。
【初出メディア】
毎日新聞 2022年7月9日
【書誌情報】
教養としての神道: 生きのびる神々著者:島薗 進
出版社:東洋経済新報社
装丁:単行本(360ページ)
発売日:2022-05-13
ISBN-10:4492224033
ISBN-13:978-4492224038