「人は財産」と言いながら、実際には若者の能力開発のための教育費を削り続けている……世界から取り残される日本企業の、冷酷な「3点セット」の正体とは?

『高く売れるものだけ作るドイツ人、いいものを安く売ってしまう日本人』(岩本晃一著)から一部抜粋し、日本とドイツにおける「人への投資」の決定的な違いを紹介。さらに、優秀な若者の才能を潰してしまう日本特有の組織文化の実態とともに、ゆとりあるドイツの働き方を解説する。


■削られ続ける「能力開発費」の代償
日本企業は雇用者に対する能力開発投資の予算を減らしてきた。以下の図は、経済産業省が2021年12月に開催した「第1回未来人材会議」の事務局資料である。
優秀な若者を「凡人化」させ世界から取り残された……日本企業がハマった冷酷な「3点セット」の正体
※画像出典『高く売れるものだけ作るドイツ人、いいものを安く売ってしまう日本人』

日本企業は、能力開発に対する投資の水準(人材投資の対GDP比)が低いだけでなく、激しい勢いで投資額を減らしてきた。その低さと減少率は先進国の中でも際立っている。

企業の最大の資産は従業員である。その従業員に支払う賃金を下げ、能力開発投資額を下げ、非正規雇用を増やす、という3点セットで、日本企業は従業員を冷たく扱ってきたのである。これでは真面目に働く気にはなれないだろう。

日本企業の業績の低さは、従業員を冷たく扱ってきた結果であるとも言える。

■若者の才能を潰す「古い組織」の壁
日本企業には、「企業の最大の財産は人である」という概念が希薄と言ってよい。これはひとえに日本企業のリーダーの問題ではないだろうか。

多くの企業の中に古い価値観から抜け出せないリーダーがいて、過去に成功体験のある既存事業に固執したり、前例踏襲型で仕事をさせたり、企業内部だけで閉じてパフォーマンス向上に結びつかない無駄な作業をやらせるなど、意欲ある働き手に対し、仕事のエネルギーを向かわせる方向付けが間違っているのである。

また、人件費を将来への投資ではなく固定費と捉え、その固定費を削減した人が評価されて出世してきたという話もよく聞く。


OECDが世界各国で15歳を対象に定期的に実施する能力試験(PISA)を見ると、日本の若者は世界トップクラスと言ってもよいくらい優秀である。筆者は民族主義者ではないが、PISAの結果を見ると、日本人は何という優秀な民族なのだろうと感動すらする。

だが、その若者が大人になり、企業に就職して集団となって働き始めたとたん、そのパフォーマンスは前述したとおりガクンと落ちる。これは、指導者層、すなわち国の指導者である政治家、企業の指導者である経営者に原因があるとしか考えられない。

この問題について企業経営に携わっている人々で自覚のある人は少ないが、教育者の間では有名な話である。

自分たちが手塩にかけて育てた優秀な子どもたちが、会社に入ったとたんに、その才能を潰されてしまう。専門能力を活かそうとせず、「和を以て尊しと為す」という言葉に代表されるような人間関係を押し付ける。企業のリーダーや上司は高い専門能力をもった若者を、自分たちと同じような人間関係で物事を解決する会社員に変化させてしまうのである。

カネボウの再建に取り組んだ小城武彦氏(九州大学大学院教授)らは、専門技術力が勝負の時代に入ったにもかかわらず、こうした社風が、日本企業が世界と競争できない背景にあると分析している。

■ドイツの「余裕」が生む高い生産性
ドイツは「日本の2/3のサイズの国」なので、そのドイツが名目GDPで日本を追い抜くには、1人ひとりが日本人よりも多く稼がないといけない。

ドイツの1人当たりおよび1時間当たりの労働生産性は日本の約1.5倍である。まさに期待どおりの成果を上げている。


キリスト教文化圏なので日曜日にはほぼすべての商店が閉店する。すなわち、365日のうち、7分の1は経済活動を休止している。それに、平日は残業しないでさっさと家に帰り、戸外のレストランでながながとおしゃべりに興じている。

岩本 晃一(いわもと・こういち)プロフィール
独立行政法人 経済産業研究所 リサーチアソシエイト。通商産業省(現・経済産業省)入省。在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房参事官、経済産業研究所上席研究員を経て、2020年4月より現職。
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