「毎日家計簿をつけているのに、なぜかお金が貯まらない」そんなジレンマの正体は、脳の仕組みにあるのかもしれません。

明治大学教授・堀田秀吾氏の著書『科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』は、科学が証明した「お金が勝手に増える」少しの工夫を厳選して紹介する一冊。
本書から一部抜粋し、人間の感情が経済的な合理性をいかに狂わせるか、その意外な実態を解説しています。

■損を2倍に感じる「心のセンサー」
株式投資は、ハイリターンを狙えますが、一時的に損をする可能性も高くなります。損を極端に嫌う人にとって、株式は最初から魅力が薄いものになります。

私たちは、お金の増減を見ると、得した喜びよりも、「損した!」というショックのほうが強く感じます。たとえば、1万円もらう喜びより、おなじ1万円をなくす悲しみや痛みのほうが、約2倍も大きいと感じるそうです。

この損に敏感なセンサーは、人間の標準装備のようなもので、行動経済学では、これを「損失回避」と呼びます。

■不安を増幅させる「近視眼的」な視点
コーネル大学のベナーツィとセイラーの研究では、この損失回避に「見すぎてしまう」というもう一つのクセが重なると、さらに大きな不安や誤った判断を生むことが示されています。彼らはこれを「近視眼的損失回避」と名づけました。

株式市場は、一般的には長期的に上昇する傾向がありますが、日々の値動きはジェットコースターのように上がったり下がったりします。私たちは、損に強く反応するため、毎日チェックすると痛みを味わう回数が増えることになります。

そして、毎日気にしていると「損している気」がどんどん積み重なり、「もう怖いからやめよう」に直結してしまいます。

■「見ない工夫」がもたらす長期の成果
ベナーツィとセイラーの研究が示すのは、投資家が「ちょうど不安にならずに済む」チェック頻度はおよそ1年に1回ということです。
毎日見る人より、年に一度だけ見る人のほうが長期の上昇を落ち着いて受け取れるというのです。

この「見すぎ問題」は貯蓄にもそっくりそのまま当てはまります。

貯金アプリを毎日開いて「まだこれだけか……」と落ち込むのは、投資家が日々の株価下落で不安になるのと同じ構造です。

毎日見るほど「減っている瞬間」「増えていない瞬間」を拾ってしまい、モチベーションがじわじわ削られていきます。すると節約が続かず、「もういいか」と気持ちが折れ、結局貯まらないという悪循環に陥ります。

だからこそ、貯蓄や投資を成功させるには、「見ないための工夫」も必要になります。

たとえば給料天引きの自動積み立ては、「意志力ゼロでも貯まる仕組み」をつくる方法ですし、口座残高を確認する頻度を月1から「年に数回」に減らすだけでも気持ちはぐっと楽になります。

これは怠けているのではなく、自分の脳のクセとうまく付き合っているだけ。行動経済学的には非常に合理的な戦略なのです。

ベナーツィとセイラーの研究での計算では、投資の評価期間を長くするだけで、投資家が感じる怖さが大幅に減り、そのぶんリターンを取りやすくなると示されています。

貯蓄も同じで、細かい増減を見るのではなく「去年より増えたか」を見るほうが、精神にも成果にも優しいのです。

お金は「見た回数に比例して増える」わけではありません。
むしろ、見すぎるほどメンタルが削れ、続かなくなるもの。だからこそ、「ゆっくり見る」「評価を引き延ばす」ことが、実は、もっとも効果的な貯蓄・投資の心得なのです。

■ひとことアドバイス
貯金も投資も観察するより放置するほうがうまくいきます。アプリを毎日開くのをやめて、年に数回だけ「成長を確認する日」をつくってみましょう。

文:堀田 秀吾(明治大学法学部教授)
法と言語科学研究所代表。専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学などさまざまな学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。アイドルのプロデュースから全国放送のワイドショーのレギュラー・コメンテーターなど、研究以外においても多岐にわたる活動を見せている。
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