さる8月24日はアニメーション作家・今 敏監督の命日であった。没後から13年、その存在感は薄まるどころか、時を重ねる中でますます大きくなっている印象がある。

劇場長編作品4作、TVアニメシリーズと短編アニメそれぞれ1作を生み出した唯一無二の才能の軌跡と、その仕事の一片に触れられる最新の取り組みについて語っていこう。

>>>『パーフェクトブルー』キービジュアルと「今 敏絵コンテ集」ラインナップを見る(写真10点))

今監督は大学在学中に「週刊ヤングマガジン」(講談社)でマンガ家としてデビュー。そして大友克洋が原作・脚本を、江口寿史がキャラクターデザインを担当した『老人Z』(1991年/北久保弘之監督)で美術・レイアウト・原画などを担当したことをきっかけに、アニメの仕事に関わるようになる。

OVA『ジョジョの奇妙な冒険』の1エピソード「花京院 結界の死闘」(1994年)で演出家デビュー、そして1997年の劇場長編『PERFECT BLUE(パーフェクトブルー)』で初監督を務めることに。アイドルをモチーフにした異色のホラー作品は国内外で高い評価を獲得し、早くもその作家性に大きな注目が集まることに。

その後も、現実と映画の世界をないまぜにして伝説の大女優の生涯を追いかける異色作『千年女優』(2001年)、東京の新宿に暮らす3人のホームレスが捨て子の赤ちゃんを拾ったことから巻き起こるクリスマスの一夜の騒動を描く『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)、そして念願であった筒井康隆の小説のアニメ化となる『パプリカ』(2007年)と、意欲的に作品を発表していく。
特に『パプリカ』は、世界3大映画祭のひとつである第63回ヴェネチア国際映画祭のオフィシャルコンペティションに選出される快挙を果たした。
だが続く企画『夢みる機械』が進行中の2010年、今監督は膵臓癌により46歳の若さで早世する。

今なお観る者に衝撃を与え続ける、今監督の作品群。いま、その仕事を改めて振り返ることができる二つのニュースに注目してみよう。
まずは、Filmarks(フィルマークス)主催の上映プロジェクト「プレチケ」にて、マッドハウス創業50周年・そして公開25周年を記念して『パーフェクトブルー』4Kリマスター版が9月15日(金)より期間限定の全国上映が決定した。
今回の上映は、8/26(土)~27(日)に開催されるマッドハウス50周年記念上映イベントでのお披露目に続く、『パーフェクトブルー』4Kリマスター版の初上映となる。


人気絶頂のアイドルグループを突如脱退し女優への転身をはかった霧越未麻。ところが思惑とは裏腹に過激なグラビアやTVドラマへの仕事が舞い込み、周囲の急激な変化に未麻は困惑することに。
その一方で、彼女の仕事の関係者が犠牲者となる殺人事件が多発。またファンからは「裏切り者」のメッセージが……。追い詰められた彼女の前に今度は ”もうひとりの未麻” が現れる。
次第に現実と虚構の区別がつかなくなっていく未麻。
果たして彼女の見た ”もう一人の自分” の正体とは?

『ブラック・スワン』や『ザ・ホエール』で知られる異才ダーレン・アロノフスキー監督ほか、国内外のクリエイターたちに圧倒的な影響を与えた衝撃のデビュー作を、ぜひ劇場のスクリーンで体験してほしい。

(C)1997MADHOUSE
(C)今 敏/株式会社マッドハウス/「妄想代理人」製作委員会

もうひとつは今監督が手がけた唯一のテレビシリーズ・短編アニメの絵コンテを収録した書籍「今 敏絵コンテ集 妄想代理人 オハヨウ」の登場だ。復刊ドットコムが刊行してきた「今 敏絵コンテ集」の最新にして最終巻となる、まさにファン待望の一冊だ。

『妄想代理人』は2004年にWOWOWでスクランブル放送された、今が原作&総監督をつとめた唯一のテレビシリーズ。神出鬼没の謎の通り魔「少年バット」が次々に繰り広げていく犯罪、それに並行して多くの人々がアイデンティティを失い現実世界の根幹が崩れていくという物語展開は、ネット情報とSNSに翻弄され現実感が希薄になっている現代にこそ再見すべき内容となっている。
全13話のうち、今監督(別名義を含む)が手がけた第1話「少年バット参上!」、第2話「金の靴」、第9話「ETC」の一部、第13話「最終回。」が収録されている。


そして『オハヨウ』はNHKの2007年から不定期放送された番組、15人のクリエイターによる短編アニメ集「アニ*クリ15」の中で公開された、1分弱の短編アニメ。実はこの作品、『パーフェクトブルー』の主人公・未麻の日常の一コマという裏設定があり、今監督最後の監督作という点でも注目に値する一作だ。

今監督ならではの精緻なタッチでまとめられた絵コンテは、本編を観ていなくてもマンガを読むようにスイスイと読み進めることができることに驚かされるはず。ディープなアニメファンならずとも、ぜひ手に取ってもらいたい。

再上映と書籍という、二つの形で再びスポットを浴びる今 敏の才能。そのすごさを再確認するのか、それとも新たな発見をするのか。
この絶好の機会を見逃す手はない。

(C)1997MADHOUSE
(C)今 敏/株式会社マッドハウス/「妄想代理人」製作委員会