8月20日(日)19時よりBS12トゥエルビ〈日曜アニメ劇場〉にて放送されるのは、製作総指揮・総監督を大友克洋が手掛けたオムニバス映画『MEMORIES』。
大友が気鋭のクリエイターたちと作り上げた3話のストーリーは、あふれ出すイメージと研ぎ澄まされた技術、そして果敢な実験精神で、アニメーションの可能性を大きく押し広げた注目作だ。


『童夢』『気分はもう戦争(原作:矢作俊彦)』などの作品で漫画界に革命を起こし、さらには代表作である長編漫画『AKIRA』(1988年)を自ら監督として映画化するなどアニメーション作家としても高く評価される大友克洋。
そんな大友が1995年に「若い才能と仕事がしたい」というコンセプトのもと、当時30代前半だった気鋭のクリエイターたちと作りあげたのが、1995年に劇場公開された本作『MEMORIES』だ。

本編は3話のオムニバスストーリーとして構成されており、いずれも原作は大友が担当、映画全体に大友らしいSF/ファンタジー的なイマジネーションを感じることができる。
そして、第1話と第2話は当時の若手クリエイターが、第3話は大友自身が監督を務めており、大友の世界観と若手クリエイターの感性が融合したことで生み出された、目眩がするほど緻密で斬新な映像世界が繰り広げられる。

また、OP「PROLOGUE」とED「IN YER MEMORY」の2曲タイトル楽曲を電気グルーヴの石野卓球が手掛けているほか、各話ごとの内容、作風に合わせてクラッシック、ジャズ、テクノ、現代音楽など多彩なコンセプトの楽曲が全編を彩っており、音楽にも造詣が深い大友のセンスが遺憾なく発揮されている。

(C)1995マッシュルーム/メモリーズ製作委員会

●Episode.1「彼女の想いで」●

開幕を飾るEpisode.1「彼女の想いで」は、21世紀末の宇宙空間を舞台にしたゴシック&サイコホラー的ストーリー。
宇宙の墓場・サルガッソー海域からの救難信号を受けて救出に向かった解体業者が遭遇するミステリアスな恐怖を、デジタルと手描きを融合した緻密なアニメーション映像で表現している。
監督はアニメーターとして『AKIRA』などに参加して頭角を現し、ケン・イシイのMV『EXTRA』(1995年)や後の『アニマトリック』「Beyond」(2003年)などで世界的に評価される森本晃司。脚本に今 敏(『千年女優』、『東京ゴッドファーザーズ』監督)、音楽を菅野よう子が担当するなど、やがてアニメ界を代表することになる才能が参加している点も注目に値する。

廃墟と化した巨大な宇宙船の中に広がる、壮麗なオペラ劇場。天才オペラ歌手の ”思い出” という華麗な幻想の中に取り込まれていく甘美と恐怖。怖れつつ惹かれてしまう、まさに「ゴシックホラー」の悦びを堪能させてくれる作品だ。


●Episode.2「最臭兵器」●

続くEpisode.2「最臭兵器」は現代日本を舞台に、軍事開発に狂奔する人間の愚行を戯画的に描いたスラップスティックコメディ。
監督は後に『WOLFS RAIN』(2003年)や『DARKER THAN BLACK』シリーズ(2007年~)など個性的な作品を生み出すことになる岡村天斎で、今作が初監督作だ。

製薬会社の研究所員・田中信男が誤って服用してしまった薬品は、極秘に進められていた細菌戦用兵器研究の産物で、服用した人間の体から発せられたガスの臭いを嗅いだ生物は一瞬にして意識不明に陥るという、驚愕の代物だった……。

本作の大きな見どころは、手描き独特の ”味” を突き詰めたハイクオリティな作画の力。
ストーリーの舞台である冬の甲府盆地の風景が写実的に描写され、大友が原案を手掛けているキャラクターの絵柄も基本的にはリアルタッチ。ストーリー後半に登場してくる現用兵器の数々やクライマックスに登場する架空のメカニックも、ディテールにこだわったリアルな描写が為されているが、一方でキャラクターの動きや表情からは、アニメーション特有のデフォルメされたコミカルさも漂ってくる。

リアルな描写の中にコミカルなドタバタ劇のテイストが巧みに混ぜ合わされることで、スラップスティックな風刺劇としての馬鹿馬鹿しさがより大きく際立ち、それがこのエピソードの大きな魅力となっていると言えるだろう。

(C)1995マッシュルーム/メモリーズ製作委員会

●Episode.3「大砲の街」●

大友自身が監督した「大砲の街」は、3つのエピソードの中でもっとも挑戦的・実験的と表現すべき1本だ。

舞台は、時代も場所もわからぬ、架空の街。その街は今、他国と交戦中。街全体が大砲で重装備された移動都市で、市民の生活の中心に「大砲」がある。
そんな街で暮らす少年と、その父と母の日常ーー。

ファンタジックだがどこか不吉で不気味な空気感が漂う異色の世界観が、まずは大きな魅力と言えるだろう。

このエピソードは22分と他の2エピソードより尺は短いが、その22分間の全編をワンシーン・ワンカットで処理するという驚異的な手法が特徴であり、公開当時もアニメーションで類例のない画期的な試みとして大きな話題となった。
実写映画のワンカット撮影を思わせるアイデアだが、このエピソードでは、カメラの存在を意識させないというアニメーションの特徴が活かされ、”視線”が誘導される感覚がより直接的に感じられる。
その結果として生み出された、まるで騙し絵を見ているような、あるいは ”動く絵本” のページが勝手にめくられていくような独特の幻惑感をぜひ、堪能してほしい。

短編漫画の名手としても知られている大友だが、アニメ監督デビュー作がオムニバス作品『迷宮物語』(1986年)の1エピソード「工事中止命令」であり、また後のオムニバス作品『SHORT PIECE』(2013年)には『武器よさらば』(原作)、『火要鎮』(脚本・監督)で参加するなど、短編アニメの仕事も見逃すことはできない。
類稀なるアニメ界の才能と生み出した、濃厚な大友ワールドのフルコースをこの機会にぜひ堪能してもらいたい。


>>>3つの珠玉エピソードに震える『MEMORIES』場面カットを見る(写真11点)

(C)1995マッシュルーム/メモリーズ製作委員会