「自動車業界100年に一度の大革命」の1つと言われる自動車の電動化。その手法は様々ありますが、その中で現在もっとも普及しているのが、大容量バッテリーを搭載した「純電気自動車(本稿ではBEV)」ではないでしょうか。
電気自動車最大の問題点「インフラの整備」

まず「なぜHonda eなの?」というところから。それは単純に筆者が今イチバン欲しいBEVだから。いやBEVという枠に限らず、お金と条件が合えば、現在販売されているクルマの中で最も欲しい1台だから。これは嘘偽りなくマジな話。今まで色々なクルマを試乗してきましたが「BEVらしい静粛性」はもちろんのこと、「普段使いにおける取り回しのよさ」「乗り心地とカジュアルな室内空間による居心地のよさ」そして何より「RRという走りの楽しさ」「金額的な妥当性」が自分のツボにジャストフィットしたから。もっというなら「エンジン車がなくなっても、クルマは楽しい乗り物であることに変わりはない」と思わせた初めてのクルマでもあります。これも嘘偽りなく。

それに今なら国や自治体から補助金が出ますし、毎年支払う自動車税だって軽自動車ほどではないにせよ安価。走行距離が短いという話もありますが、いくら大容量のバッテリーを積載したところで、1回あたりの給電量がバッテリー容量よりも下回っている急速充電器が多い現状、どのBEVでも1回分の充電が少ない程度の差しかありません。ならば走行距離を気にせず、好きなBEVに乗るのが吉というもの。

ですが、お迎えできないのには理由があります。

理想としては、公共施設の充電スポットが増えること。東京都は2030年までに2018年時点で約300基ある急速充電器を1000基にまで増やす目標を掲げています。ですが、都内には令和2年度で約327万台の自動車が登録されており、新車販売台数は年間約26万台。「2030年に純ガソリン車の販売を禁止する」「2030年の新車販売の5割はZEV車(ZEV=Zero Emission Vehicle)にしたい」と宣言した割には、1000基はあまりにも少ないのではないでしょうか。しかもガソリンの場合、3分あれば満タンになりますが、電気自動車は充電器の出力やBEVが搭載するバッテリー容量よりますが30分充電しても満タンにはなりません。BEVを30分充電をするのに、他の人の充電が終わるのを待ち続けるのは、さすがに駐車料金の無駄ですし、長い時間、他社ディーラーの前にHondaのクルマを置くのも気が引けます。

このような状況から「基本的に自宅または借りている駐車場で充電できる環境でないと導入できない」のがBEVの実情ではないでしょうか。というわけで、話が長くなりましたが「将来戸建てのマイホームを手に入れ、車庫に充電設備を設けて、Honda eを迎えた」という夢を見ながら話を進めていきたいと思います。
「FIT e:HEV」と比較すると
ランニングコストは安い



今回、そんな夢のマイホームとして選んだのは、栃木県那須郡那須町にある宿泊施設「Looop Resort NASU」。その名の通り、電力会社であるLooopが経営する太陽光発電施設を利用したリゾート施設になります。「Looopでんき」のメリットは「基本料が0円」ということ。つまり使った分だけ電気代を支払えばいいという単純明瞭会計なのです。ちなみに料金は東京電力管轄内の場合1kWhあたり26.4円で、Honda eのバッテリー容量は35.5kWhですから、フル充電した場合1000円位という計算になります。これだけでは安いのか高いのかわかりづらいので、ほぼ同じ大きさであるFIT e:HEVで月600km走行した時の比較をしてみましょう。

FIT e:HEVで600kmを走行した場合、カタログスペックから計算すると約15リットルのガソリンが必要となります。これに最近のレギュラーガソリン単価であるリッター150円を乗算すると5400円。Honda eの場合、1回の充電で200kmほど走行できますから、なんと3000円! これは電力小売り業者によって計算は変わりますが、Looopでんきの場合だと、ハイブリッドのガソリン車よりEV車の方がオトクになるのです! さらに購入時に補助金が得られ、自動車税も安く維持費も安い。乗り心地も良くて、走りも楽しい。Honda eに乗らずして何に乗る!? 嗚呼、戸建ての持ち家が欲しい……。もしくは借りている駐車場の大家さん、充電器を設置してください。
意外とオトクに建てられる充電設備
Looopの担当者によると、電力小売りのほか電気自動車用充電器の設置工事も承っているそうで、そのニーズは年々高まっているとのこと。ここではLooopでんきにすべてをまるっとお願いする方法で話を進めます。




まず、最も安価な充電設備からご紹介しましょう。それは商用200Vの電源を、そのまま利用するというもの。写真のパナソニック製コンセント(WK4322S)の場合、施工料含めて8万7780円とのこと。この場合、3kWの交流ですので、10時間近い充電時間がかかります。ですから「帰宅して夜寝ている間に充電。朝になったらバッテリー満タン」という場合は、こちらでOK。実は取材日があいにくの空模様で、雨がしとしと。「電気を扱うのに、水に濡れたら感電するのでは?」とドキドキしたのですが、もちろんそのような事はありませんでした。


「いや、帰宅するのは遅いし、朝も早いから10時間なんて待てない」という方もいらっしゃるかと思います。そんな方にはV2H(Vehicle to Home)型の充電器がオススメとのこと。この機械を使うと、直流6kW未満で充電ができるので、充電時間は単純に半分の5時間となります。ちなみに価格はニチコン製のEVパワーステーションスタンダードモデルが79万3100円から、プレミアムモデルが123万6400円からとなっています。
ここで気になるのは電気料金。Looopでんきの場合、使った分だけ支払うわけですから、通常充電と料金はほとんど変わらないとのこと(実際は交流から直流の変換によるロスが発生するため、少し金額が上がる)。これが他社になると、必要とする出力によって基本料金などが変わってくる場合があり、急速充電にした途端、値段が一気に上がる可能性があるそうです。
よって電気自動車を購入し自宅で充電する場合、設置する機械に費用だけでなく、電気事業者の料金体系をきちんと確認しないと「想像と違った」ということが起こりえるというわけです。クルマを買ったら家の電気の事も見直す時代が来ている、というわけですね。
家の電気をEVの電力でまかなう
V2H機器のメリットは、それだけではありません。クルマに貯めた電気を家電に使うことができるのです。近年、台風などの自然災害でライフラインの1つである電力が途絶し、長期間にわたって停電したというニュースを目にします。ですがV2Hの機械があれば、クルマに蓄えた電力を家で使うことができます。






やり方はカンタンで、まずEVパワーステーションに12Vを給電します。というのも停電によりEVパワーステーションが動かないから。これはクルマのアクセサリーソケットとEVパワーステーションをつなげればOKでしょう。
「クルマに100Vコンセントがあって、1500Wの電力が取れるから、それでいいのでは?」と思われますが、それではエアコンをはじめとする200V家電を動かすことはできません。ちなみにHonda eの場合、バッテリー容量の80%にあたる28.4kWhを蓄電池として利用できるので、季節差はありますが、平均的な4人暮らしの場合13.1kWh/日にということから、2日分の電力をまかなうことができます。実際停電中は節電するでしょうから、もっと長期間電力を使うことができるでしょう。


というわけで、Honda eの電力を使い、ホットプレートで焼肉パーティーを開催。被災中にこんな事をしたら、ご近所から何を思われるか……ですが、エアコン付けて照明をつけて焼肉食べても、電力量に余裕はありあり。ちなみにスマホで電力量を見ることもできますから、外に出なくても安心です。


このやり方を拡大解釈すれば、たとえば電気利用の少ない夜間に充電し、日中はクルマの電気を使う、という効率的なエネルギーマネージメントが可能となります。また後述しますが、日中は太陽光パネルの電力でクルマを充電、夜はクルマの電力で生活をすれば、エコな暮らしが実現するというわけです
外部給電器で足りない電力を補うことも可能

クルマに蓄えた電力を家だけで使うのはもったいない話。キャンプをはじめとして、外出先でも使えないか、と考えるのは自然な流れでしょう。それがV2L(Vehicle to Load)です。




Hondaの「Power Expoter 9000」とHonda eを接続すると、100V/200Vで最大出力9kVAの電力が取り出せるようになります。この機械は、自治体や企業が導入し、たとえば避難場での携帯電話充電や臨時の照明機器であったり、発電機が使えない場所でのイベント利用がほとんどなのですが、Honda eのラゲッジスペースにも積載可能なので、Honda eとPower Exporter 9000があれば、電気製品を使う大抵のことはできてしまうというから凄い! ちなみにお値段は100万円くらいなのですが、こちらも補助金の対象で半値になるとのこと。



グランピングなど電気を使って快適なキャンピングを楽しみたい方はもちろん、設置スペースの問題等でV2Hは設置できないけれど、災害時に電気を使いたいという方には見逃せないアイテムではないでしょうか。


ヨーロッパでは、このクルマに蓄えた電気を外で使うという考えを拡大させ、街全体で取り組めないか、という実験(V2G= Vehicle to Grid)も行なわれているそうです。具体的には、電力消費量の少ない夜間に充電し、クルマが充電器とつながっていれば、その電力を送電線に戻せるかというもの。これについては後ほど。
【まとめ】現状は問題が多いが
将来的にはEVが生活基盤のひとつになるかもしれない
昨年来から安易なBEV化に対し警鐘を鳴らしている某自動車メーカー社長の論の1つに「現在の発電量では電気が足りない」というものがあります。そこで、Honda eの電気を使ってエネルギーマネージメントを深化させ、自宅に太陽光パネルを設置し、自家発電した電気で生活することは可能か、ということを考えてみたいと思います。
Looop Resort NASUは、リゾート施設という側面のほかに、太陽光発電プラントという側面も有しています。施設の屋根に設置されている太陽光パネルの発電量は全体で203.84kW、屋根上の1ユニットで約6kWなのだとか。ということは、前出のEVパワーステーションの電力をまかなうことができる、という計算になります。ですが実際は大型の太陽光パネルを設置する方は少ないそうで、出力が3kW相当の太陽光パネル設置が一般的なのだとか。もちろん天候にも左右されますし、日中も電気は消費しますから「毎日確実にHonda eをフル充電する」ということは現実的ではないのが実情になります。
なので太陽光パネルを設置し、余った電気を電力小売り会社に買い取ってもらいつつ、給電もしてもらうという契約が一般的なのだそう。Looopでは、そんな太陽光パネルをリースという形でセットにした料金プランも用意しています。

太陽光パネルの話ついでにLooopの担当者に、2050年ゼロエミッションを掲げる政策について話を伺いました。「国全体の電力消費のことを考えると、個人宅にソーラーパネルを設置しなければ、立ち行かない時代になるでしょう。(繰り返しになりますが)太陽光パネルの設置費用を、売電買取サービスを利用して収益化するのは無理です。無理なのですが、設置しなければ電力は確実に足りない時代になるのです。そして電気自動車に貯めて、足りない時間帯や地域に給電をするという方法は、一つの現実的なやり方ではないでしょうか」。欧州が取り組むV2Gというのは、まさにそれなのです。

好きなクルマと暮らす夢の未来生活、という視点から始まった今回の体験取材。ですが最後は電気自動車だけでなく、V2Hに太陽光パネルと、予想もしない壮大な話になってしまいました。愛らしいクルマが、私達の生活を支えるかもしれない未来。100年に1度の大革命はクルマという枠を超え、私達の生活や考え方までも変えてしまうものといえそうです。とはいえ、こういうヘビーな話題は偉い方に任せて「Honda eってイイクルマなうえに、V2Hを使ったお肉は美味しかった、これが自宅でできたらどんなに素晴らしいんだろう」と楽観的に、愛らしいHonda eとの生活を夢見たいと思います。

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