今回、当連載でレビューするクルマはシボレー「コルベット クーペ 3LT」である。これまでかたくなに左ハンドルにこだわり、自然吸気の大排気量FRモデルとしてシボレーの象徴として君臨するクルマだ。実は、筆者のプライベートも含めた試乗歴の中で、アメリカのクルマ、いわゆるアメ車は初だったりする。
アメ車に対するイメージというと、デカイ、大排気量、燃費悪い、壊れやすいみたいな、ネガティブなイメージがあった筆者だが、この新型コルベットに乗って、印象がガラっと変わったことを最初に報告しておく。

アメリカの伝統と象徴
それがシボレー・コルベット
さて、コルベットと言えば非常に歴史の長いモデルだ。初代C1型が登場したのが1954年。元々はヨーロッパのスポーツカーに感化されて作られたという。シボレー初の2シーターオープンスポーツカーとして誕生し、ロングノーズショートデッキのFRレイアウト、大排気量のV8OHVエンジンという特徴は初代からの伝統(初代には直6もあった)。そして、フラッグシップカーらしくこのC1をベースにしたレーシングカーも制作された。
その後、モデルチェンジを繰り返し、C2からC7型まで作られた。一貫してノンターボ、大排気量(最大7000cc)のV8エンジン、FRレイアウトという伝統は守られてきたが、C6型ではリトラクタブルライトが廃止された。90年代後半から2000年代前半は日本も含め、安全基準のために世界中のクルマからリトラクタブルライトが消えていった時期だから仕方のないことだが。また、C7型では丸いリアランプが四角に変更されている。




このように、時代に合わせたマイナーチェンジはあったものの、基本的な設計はC1型からC7型まで一環していたコルベット。2019年、最新のC8型になって、ついに伝統が破られたのである。それが、駆動方式がFR(フロントエンジン、リアドライブ)からMR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)になったことだ。理由は諸説あるがやはりレースの影響が大きいのは間違い。レースの主戦場である海外(主にヨーロッパ)のレースでは、速いクルマは総じてMRレイアウトだ。フェラーリしかりランボルギーニしかり。RR(リアエンジン・リアドライブ)の伝統を守っているポルシェだって、レーシングカーはMRを採用しているのだ。レースに勝ってブランド力を上げてきたコルベットが、レースに勝つために伝統を変えることは不思議なことではない(それでも驚いたが)。






FRだと重量物がフロント側に偏るため、フロントヘビーになり前輪の消耗も激しい。だがMRならクルマのパーツの中で一番重たいエンジンが車体中心近く(シートの裏側、後輪の前あたり)に搭載されるため、前後の重量バランスにすぐれ、後輪にもトラクションがかかりやすくなるし、フルブレーキング時のノーズダイブ(前につんのめる感じ)が軽減されタイヤにも優しいとメリットが多いのだ。
そしてもうひとつ、日本仕様では大きな変更があった。それは右ハンドルが設定されたこと。というか、日本モデルはすべて右ハンドルになった。これもある意味伝統なのかローカライズしてなかっただけなのかはわからないが、頑なに左ハンドルのまま日本で売っていた。シボレー(GM)の戦略により、新型のC8コルベットから右ハンドルの国には右ハンドルが設定されるようになったとのこと。日本では左ハンドルにちょっとした抵抗がある人も多いと思うので、これはうれしい変更だ。






なお、アメリカでは「コルベット スティングレー」という名前で販売されている。C2型で初登場したスティングレーの名がつけられているのだが、日本ではなぜ外されたのか? 実はすでに国産車が商標登録していたので、使えなかったという……。どのメーカーのどのクルマかは伏せておこう。だが、スティングレー(エイ)のエンブレムは残されている。




見た目のゴツさに反して
優しい乗り心地にビックリ
まずはコルベットのスペックをチェックしよう。エンジンは6.2リッターのV8 OHV、自然吸気。最大出力は495PS/6450rpm、最大トルクは64.9kgf・m/5150rpm。ボディーサイズは全長4630×全幅1934×全高1234mm、ホイールベースは2722mm、車重は1526kg。トランスミッションは8速DCT(デュアルクラッチ)。タイヤは前が19インチの245/35ZR19、後ろが20インチの305/30ZR20の「ミシュランパイロットスポーツ 4S」というハイエンドを履いている。スタイリングを見ると、これまでのロングノーズとうって変わって、リアのエンジンルームが目立つ、いかにもMRなカタチになった。






モデルラインナップはエントリーモデルの「コルベット クーペ 2LT」、今回の試乗車が「コルベット クーペ 3LT」、そしてフルオープンにできるハードトップの「コルベット コンバーチブル」の3種類を用意する。ハードトップの採用はコルベット初だそうで、これまた伝統からの変化といえる。なお、クーペモデルでも屋根を取り外してオープンにできる。試乗車のカラーはトーチレッド。スポーツカーと赤の相性はバツグンだ。お値段は2LTが1180万円、3LTが1400万円、コンバーチブルが1550万円。
さて、初めて乗るアメリカンスポーツカーということで、走りに関してはおそるおそるだったのだが、街中を走りながらシボレーにジャンピング土下座で謝罪したくなるくらい乗り心地の良さに衝撃をうけた。筆者は初コルベットなので過去モデルとの比較はできないが、ハイパワーで横幅も2m近くあるクルマなのに、8速DCTが優秀なのか低回転域が得意なOHV(オーバー・ヘッド・バルブ)というエンジン構造の恩恵なのか、CTV車のようにすす~っと走れてしまう。別の取材ついでに同乗していた純情のアフィリアのゆみちぃこと寺坂ユミさんも「滑らかに加速しますね!」と思わずこぼしてしまうほど(この記事には登場しません)。
道が荒れているルートを走ったのだが路面の突き上げをうまく吸収してくれるせいか、不快な振動もない。それもそのはず、可変減衰力調整システムのマグネティックセレクティブライドコントロール(電子制御のサスペンション)が採用されているからだ。世界最速の応答性を誇るサスペンションとのことだが、細かい段差はすべてこのサスペンションが吸収してくれるから、快適で腰に優しい乗り心地を実現している。
通常モードの「ツーリング」で走っていれば一般道ではなんの不満も出ないだろう。これだけでお腹いっぱいの気分だ。




MRレイアウトゆえ、シートのすぐ後ろにあるエンジンは街乗りくらいでは上まで回さないので、音が気になるということもなかった。現に、なんのストレスもなく助手席のゆみちぃと会話ができたくらいだ。それでいて、加速は力強いので街乗りでも十分楽しい。ただ、ツーリングモードだとエコドライブに全振りしているせいか、アクセルを踏んでから加速まで若干のタイムラグがあったのが気になった。しかし、本当に不満点はそのくらいだし、それはほかのクルマの通常モードだって同じだ。
もちろん、一般道なので無茶はできないが、高速道路を「スポーツモード」で走ってみた。モードはこのほかにサーキット向けの「レーストラック」、自分ですべての設定ができる「Zモード」、雨などで使いたい「悪天候」などが用意されている。今回試したのはツーリングとスポーツモードのみ。

ツーリングモードだとアクセルを踏んだときに一瞬ラグがあると前述したが、スポーツモードだとアクセル開度に対してダイレクトに速度が上がる。踏めば踏んだだけ速度が出るので、合流車線などでは心強いが、ポテンシャルを発揮するならサーキットなどに行かないと難しい(速度違反で捕まっちゃうからね)。ただ、さすがアメリカンスポーツカーと驚いたのが、8速1500~2000rpmくらいで100km/h巡航できること。ほぼアクセルに足を乗せてるだけで、オートクルーズもないのにグイグイ進んでいくのだ。アメリカのクルマは、あの広大な土地を低回転域のトルクで一定速度で走ることが多いのでOHVの大排気量エンジンが好まれるのだとか。なるほど~、と深夜の高速を走りながらひとりで納得していたのだった。






コルベットのV8エンジンは気筒休止システムを搭載しており、負荷がかからない部分だとV4で、エンジンパワーが必要になるとV8になる。メーター部分に「V8」などのアイコンが表示されるのもユニークだ。だからどうしたという話かもしれないが、たとえばV8のアイコンが出ていたら「エコ走行したいから少しアクセルを戻そう」とか「今、俺はアメリカンV8のパワーを堪能しているぜ!」と思えるし、V4になっていたら「急いでるわけでもないからこのままでいこう」とか「パワーが足りないからアクセルを踏み足そう」なんて考えながら走れるじゃないか。こういうクルマには遊び心というか運転中の余裕みたいなものがあったほうがいい。
走り以外の部分だと、ハンドルの形状が独特なので慣れるまでは駐車場での切り返しでやや回しづらかったくらいで、カーブで曲がるときにハンドルを切り始めてからタイヤが動くまでのタイミングが絶妙で、曲がるという行為が非常に気持ちがよかった。スパスパ切れるけど、直線ではブレないのである。
なお気になる燃費は、やや高回転まで回しながらの運転で5.0km/L、ツーリングモードでのんびり走って平均7.3km/L、最高13.9km/Lという数値が出た。このあたりは、スペックを考えればこんなものかなあという感じ。アメ車だから燃費が悪いというわけではなく、この手のクルマは基本的に燃費が悪いのと、そもそも燃費を気にする人が乗るクルマではないだろう。
内装はすべてが運転手のために!
車内はもちろん高級感にあふれているのだが、ディスプレーから小物入れからなにもかもが運転席のほうを向いており、ドライバーが最低限の視線移動で把握できるようになっているのだ。しかも、先進運転支援機能もないため、ハンドル周りのスイッチ類もすくなく、最近はほとんどの操作をタッチパネルで行なうタイプのクルマが多い中、コルベットは操作のほとんどを物理スイッチで行なうという漢仕様。たしかに、タッチパネルだと操作ミスをしてしまうことも多いが、物理スイッチだと場所を覚えておけば、見ないで操作できる。理にかなっているのかもしれない。




センター部にある8型タッチディスプレーには、日本仕様としてゼンリンと共同開発した完全通信車載ナビ「クラウドストリーミングナビ」がインストールされており、トンネルや高架下などGPSが測位できない場所でも自律航法ができる。もちろんApple CarPlayなども使えて便利なのだが、筆者の経験上、スマホナビはトンネルや地下などでは測位できない、電波が切れるなどで、ナビアプリが止まってしまうことが多い。そういった場所に分岐や出口があったら、どこへ進んでいいのか混乱してしまうのだ。実際、コルベットに乗っているときはこのナビを使っていた。やはりトンネルなどでの安心感が違う。欠点としては、ディスプレーがグレア(光沢)のため、光が反射して見えづらいことがあったところ。あと写真を撮ると必ず撮影者が映り込んでしまうことか(これは普通の人には関係ないが)。




シートはスポーツカーならではの高級感とホールド感があるものだが、硬すぎず柔らかすぎずで座り心地はいい。ただ、この手のクルマのお約束としてシートポジションは低め。身長が低いと前が見えづらいかもしれない。ペダルレイアウトも、無理やり右ハンドルにしたわけではなく、しっかりと作り込んだとのことで、まったく不自然ではないポジションで踏める。クルマによっては左ハンドルのレイアウトをそのまま右側に持ってきたせいで、アクセルとブレーキ、クラッチを踏む姿勢が不自然になってしまうこともある中で、きちんと世界戦略車として売っていくぞというシボレー(GM)の志を感じられる。




スマホの充電はUSB(Type-AとType-C)のほかに、運転席と助手席の間にQi充電可能なスマホホルダーが用意されている(ただし1台分)。あらゆる充電の手段が用意されているのは非常に助かる。USB端子に接続すれば充電のほかに、Apple CarPlayやAndroid Autoが使える。またオーディオにはBOSEの14スピーカーが装備され、ツーリングモードで走っていれば重低音を効かせまくりのメタルやEDMを快適に聴けた。走りは気持ちイイし、音楽も快適に聴けるしで、まさに走るリビングルームだ。














【まとめ】アメリカ車へのイメージを変えたコルベット
日本で売れている理由がわかった
初アメリカ車、初シボレー、初コルベットと、初もの尽くしだった今回の試乗。聞けば新型コルベットは日本でもかなり売れているらしい(なかなか街で見かけないが)。だが、売れている理由は試乗して十分すぎるほどわかった。レースで勝つために駆動レイアウトをFRからMRに変えたわけで、サーキットユースで実力を発揮するのは間違いないが、遠方への移動をより速く、より快適にというビジネスエクスプレスの側面もあると感じた。






エンジンの気筒休止システムや可変サスペンション、電子制御のLSDなど、テクノロジーがてんこ盛りであり、アメ車にイメージしがちな「大味さ」はどこにもない。車体を繊細に管理しており、走りや路面状況に合わせてリアルタイムで走りやすく変更してくれる。フロントの車高を上げてくれる「フロントリフトハイトアジャスター」のおかげで、 筆者のような素人が乗っても速く走れるし、プロが乗ればポテンシャルを引き出しやすいだろう。

これまで、アメ車に目を向けてこなかったことを恥じるとともに、今後はもっと取り上げていきたいと思わされた新型コルベットだった。

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