お盆前のあるアンケートでは「帰省する」が24.5%。(「しない」61.5%、「迷っている」14.0% ※リコン・モニターリサーチ/10~50代男女)。



 他のアンケートにも「帰省する」が約25%のものもあれば、主婦向け調査の約10%の結果もあり。



 感染の波が比較的緩やかだった日本で7月から陽性者数が伸びているが、緊急事態宣言の効力もなく人出はおさまらない。コロナ禍での報道姿勢や日本人の行動を評論している作家の松野大介氏が、政治とマスコミによる人々の行動心理の変化をユニークに解説!





 これまでマスコミは首都圏などの人流の原因を「気の緩み」「自粛馴れ」「マスクしていれば感染しないと思っている」「ワクチン接種が進んだから」とそのつど解釈してきたが、今やこのような理由で外出する大勢をひとくくりにするのは無理がある。



 政治とマスコミ(特にテレビ報道)のダブルスタンダードで、行動の基準が大きく変わった人がいると私は考える。



 最近のダブルスタンダードを羅列すると‥‥





《政治》



(1)休業をお願いするが、補償金を出し渋る(出し遅れる)。国民への給付金はないのが現状。



(2)医療崩壊しそうなのに1年もの間、医療拡大に大きな予算をつけず、対策もしない。



(3)重症者や感染症の病床確保のために国民に飲食など自粛をお願いするのに、日本医師会も参加する政治資金パーティーを開いていた。



(4)感染拡大し始めたのに、東京五輪を開催。



 国民としては政府への不信とうっぷんが積もったところで、4の五輪が決定打となった。





《テレビ報道》



(1)この1年半でニュースやワイドの煽り報道に多くの国民が気づき、疑っている。その最中、「マスク外すな」「外に出るな」と忠告したあとに、大谷翔平出場のメジャーリーグのオールスターゲームを「大谷すごい!」と伝えた。

視聴者は(米国のワクチン接種率を考慮しても)日本より数十倍被害が大きい国で満員に入れて誰もマスクしてない映像に驚き、そのことに触れないコメンテーターらに違和感を膨らませた。



(2)テレビへの信頼を決定的に損なわさせたのが、直後の「東京五輪」。



 ニュースやワイドの放送パターン例↓↓



・五輪開催前‥‥「感染懸念 中止にすべき」、CM明けに「侍ジャパン メンバー決定!」



・五輪開催中‥‥「東京都新規感染者3000人突破!」、CM明けに「ニッポン メダル10個最速ペース!」



・五輪終盤‥‥「五輪関係者の止まらぬ人流」、CM明けに「メダリスト スタジオ生出演!」



 新聞も中止を求める一方で、別の面では「地元に殊勲のメダル」と書いたりする。このダブルスタンダードに国民は呆れ果てた。



(3)バッハIOC会長の銀座散策を、丸川五輪担当大臣が「不要不急かは本人の判断」と発言。ネットには「私も自分の判断で外出します」「自分の判断でお盆に帰省しよう」と皮肉が溢れた。



(4)テレビ朝日の社員10人が酒を提供するカラオケ店で朝まで宴会。泥酔女性が転落事故を起こす騒動に。







 私たち国民は今まで政府やマスコミの意向通り、我慢を続けてきた。失業者や自殺者が増えても、部屋で自粛した。



 今、外出している人たちには「業務上、出社の必要がある」「稼がないと家族を養えない」「学費ローン返済のためのバイト」など補償の乏しさが理由の金銭的問題がある。



「これ以上、部屋にいたら家庭不和(DV含む)になる」「子供が欝に」「人に会いたい」など精神的な理由の人もいるだろう。



 加えて、「なんで五輪やってるのに私たちは働いちゃいけないのか」「なんで医療を守るために我慢を続けるのか」「政治家やテレビマンは宴会やってる」という怒りもある。



 今まで私たちは「マスクしろ」「店を開けるな」「外出るな」とテレビが作った同調圧力と、ムラ社会的な日本人の性格によって互いを監視したり、「みんなで我慢しましょう」と協力し合ってきた(少し全体主義的だった)。



 今は、各自が新型コロナの情報をある程度認識した上で感染対策をとりつつ、自分の生活費のため、自分の大切な人のために、自分で生活スタイルを決める人が増えた気がする。



 大げさに言えば、アナキズム(不本意で強制的なヒエラルキーに反対する哲学)的な怒りに端を発し、「勝手に生きる」という個人主義的な行動を始めた。無責任なわけではない。ルール違反はしないが、こんな政府から生き抜くための策として各自が選んだと思う(私の見解です)。



(追伸)帰省の理由は「レジャー」だけではなく、「高齢な親と会える少ない機会」「介護がある」などの事情もある。ワクチン接種の有無も帰省の決断に影響があるが、興味深いのは、新型コロナ死亡の約8割は高齢者であるのに、高齢な親に会いに(孫と会わせるために)帰省する人が少なからずいること。今後は「感染しなければ誰にも会わなくていいのか」という人生の価値観や死生観も問われ始めると思う。



 4人に1人が帰省したかどうかは、週末にわかる。





文:松野大介





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