5月18日に、れいわ新選組から今夏の参議院議員選挙に出馬すると表明したお笑い芸人・水道橋博士。早くも台風の目としてSNSでは大きな反響を呼んでる。



 博士はtwitterでのツイートを松井一郎大阪市長からtwitterで「法的措置を取る」と言われ、実際に民事訴訟で訴えられた。松井氏は、同時に博士をリツイートした人も法的措置を取ると明言。松井氏の一連の言動は明らかなスラップ訴訟である。それが出馬のきっかけになったという。水道橋博士は松井氏と「徹底的に戦う」と宣言している。



 しかし、なぜスラップ訴訟で選挙へ出馬をするのかよくわからない人も多いのではないだろうか。



 当サイトは、水道橋博士が出馬表明した翌日に取材。出馬表明をするに至るまでの経緯や現在の心情、スラップ訴訟に対しての怒りについて話を聞いた。(篁五郎)



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■出馬要請されてから決断するまでの心情



 スラップ訴訟のきっかけは、2月13日に投稿したツイートです。ライムスター・宇多丸さんと映画を巡るリモート対談していて、返信に気づいて見てみたら、松井一郎さんが送ってきたんです。そこには



《水道橋さん、これらの誹謗中傷デマは名誉毀損の判決が出ています。言い訳理屈つけてのツイートもダメ、法的手続きします》



と書いてあったので「うわあ!!!訴えますと書かれた!!!」と思ったんです。

本当に心臓がパクパクして、気が動転してパニック状態になりましたね。でも僕がtwitterで投稿したのは、



《これは下調べが凄いですね。知らなかったことが多いです。維新の人たち&支持者は事実でないなら今すぐ訴えるべきだと思いますよ(笑)》



と述べて、金子吉友さんという方が作ったYouTube動画のリンクを貼っただけです。



 それなのに「訴える」と言ってきた。しかも、この文章をリツイートした人も訴えますと。



 訴訟理由は訴状に書いているのですけど、メインは動画のサムネイル画像に関してです。



 言うのも憚れますが、サムネには松井市長の◯◯疑惑が書いてあったんです。僕は最初にそれを見た時、動画のなかでも「噂はありましたが裁判で無罪でした」と淡々と述べているから、そこは全然気になりませんでした。そういう噂は公人や、みなし公人の芸能人は昔からいくらでも書かれるものですから。むしろ、議会での横柄な態度や裏口入学とか笹川財団とつながっているとか、自分の立場を使って家族が経営している電飾会社とファミリービジネスをやっている疑惑の方が気になりました。



 実は10年位前に、週刊文春の『藝人春秋』という連載の第一回目で橋下徹さんを取り上げたんです。

彼のことは大阪のテレビ番組で揉めたので、以前から徹底的に調べていたんですけど、しかし松井一郎さんはノーマークでした。素性も何も知りませんでした。でも、訴えると言われてから調べてみると維新は、橋下氏も吉村氏も弁護士出身なので、もともとスラップ訴訟を乱発している政党だとわかりました。これは見逃せないと思っていたけど、松井さんは、その後、2ヵ月間、僕をほったらかし。そうしたら4月15日に名誉毀損で550万円請求するという内容の訴状が届きました。



 その後、訴訟の準備をしながら5月15日に松井さんが上京してきて、新宿と銀座でやった遊説を突撃撮影するために行ったんです。

終わったら同行していたフリー記者の及川健二さんから「山本太郎(れいわ新選組代表)が溝の口駅で演説しているから行こう」と誘われて行きました。そこで山本さんに質問したら出馬要請されたんです。



 実は、懇意にしている町山智浩(映画評論家・コラムニスト)さんと話したときに、反スラップ訴訟法を自分で立法したいという気持ちが生まれていました。しかし、いざ、具体的にやるとなると立候補の供託金のお金がないんです。



 僕は、3年前に病気で入院をして老後資金を使い果たしています。子供3人はまだ、それぞれ中学、高校、大学の一年生なので教育費には手を付けられない。

だから自分の生活費は手一杯。選挙がなくても、自宅も売る方針だったくらいギリギリです。そんな中でやっているので、自分で議員になるために立候補しようとしても供託金がないのはわかってます。だからその日は「供託金がない」と言ったんです。そうしたら「ウチ(れいわ新選組)から出します」と言われて「えっ」となりましたよ。驚きましたね。



 そんな台詞を言われて、演説の後にもう一度、溝の口の現場で山本代表に、このような思いを伝えました。



「供託金を出してくれると言いましたけど、僕は若い頃、年収20万くらいのときに喧嘩をして損害賠償で600万円を払ったことがあります。そのお金は、たけしさんから借りて全額返済しました。たけしさんが『今まで借金を申し込んできて、本当に返した奴はお前しかいなかったよ』といつも言ってくれています。この事は僕の人生で誇りです」



 だから出馬するにしても、党に肩代わりさせるのではなく、お金を借りるつもりでした。借用書も用意してください、と提案しました。



 でも、その夜に長谷川初子(れいわ新選組参議院選挙立候補予定者)さんの旦那さん朴勝俊(関西学院大学教授)さんがtwitterでスチュアート・ミルの自伝を引いて教えてくれたんです。



《水道橋さん「供託金を出してもらうには抵抗がある。まるで党に自分が買われたような気になる。」



ご安心を、ミル(19世紀英国の経済学者・哲学者・政治家)も選挙の費用は、公金か有志の寄付によるべきで、候補者が負担すべきでないと言ってますよ~》



 つまり政党要件として供託金は政党が出すものだと言われて、返済するのを(5月18日に行われた)イベントで引っこめたということです。実は得票率によって供託金の返金があるということですので、もしかしたられいわ(新選組)は、僕が出れば返還されるくらい票を取れると思っているかもしれませんね。





水道橋博士が激白!「松井一郎と維新の会には屈しない」と語る理由
水道橋博士は、松井一郎大阪市長から送られた訴状をいつも持ち歩いている。



■スラップ訴訟は許さない



 僕が、スラップ訴訟という言葉を知ったのは百田尚樹さんの『殉愛』(幻冬舎)が発売された後です。元々百田さんのスラップ訴訟を目撃していて、彼を批判していました。『殉愛』はノンフィクションと言っていましたけど、当時ネットの匿名掲示板でノンフィクションとして成立していないことや、やしきたかじんさんの後妻が経歴詐称していたのが明らかになりました。でも、あの本はマスコミに取り上げられて何十万部と売れたんですよ。



 ただ、ボロが次々に暴かれてしまったんです。そうしたら百田尚樹さんが掲示板を見て「ここに書き込んでいるアホんだらお前等全員訴える!」と言いだした。



 僕はそれを見て、百田さんに対して怒りが湧きましたよ。幻冬舎社長の見城徹さんにも、「百田さんの投稿はひどい」と何度も直訴をしたし、「今後のノンフィクションというジャンルのためにも見城さんと百田さんは連名で謝罪をするべき」とずっと言ってきました。だってそうでしょ? 脅した上で、「法的措置を取ります。裁判所で会いましょう」なんて言われたら、単なる一般人の読者は普通の人だし、多くは女性でしたから、それは萎縮しますよ。恐怖に駆られて、アカウントを削除する人もつぎつぎと出ていました。



 だから松井一郎さんは僕のツイートをリツイートした人も訴えると言ったのですけど、怖いと思っている人がいるはずです。動画を作った金子さんも不安だとツイートしています。



 そんな公人や権力者が法を濫用して一市民を脅すなんて許せませんよ。



 松井さんは今までにも「法的措置を取る」とよく言っていたんです。これは何例もtwitter上に残っています。言うだけ言って実際に訴えないケースがたくさんあります。だから脊髄反射的に書いているんでしょうね。恐らく岩上安身さんと橋下さんの訴訟で、リツイートだけでも橋下さんは勝訴していますから。だからその成功体験に、味を占めて「そんなの法的措置を取りますといえばいいんだよ」とアドバイスされていると思っています。



 本当は僕のこともスルーしたかったと思いますよ。でも、及川健二さんに会見で質問されたり、僕からtwitterで挑発されたり、僕が以前、松井さんと裁判したこともある米山隆一さん(元新潟県知事・現衆議院議員)を顧問弁護士にして、逆訴訟の準備もしていたので、キレてしまって意地になったんじゃないかな。



 僕は反訴に対する事前交渉で、4000人の無垢な怯える市民の人質を解放し、以降、訴えないと約束をしてくれるのなら、反訴は下げても良いと思っていました。一対一で法廷で争うのなら望むところなので。



 松井さんが会見で「私人として許せない。私にも子供がいる」と言ったようですけど、僕にも未成年の子供が3人いますよ。公人が「私に子供がいるから私人として訴える」となると、僕は最初から私人ですよ。公人ではなく私人です。そういう言葉の定義もユルユルなんですね。



 僕は、もう何十年も自分が「みなし公人」(芸能人はみなし公人扱いをされる)だと思って生活をしていましたけどね。公人が「俺は私人だ」とバカなことを言いながら裁判時だけ私人に降りてきたんです。そんな言い草で殴ってきたら殴り返すに決まっているじゃないですか。なんで俺が子供のいる前で殴られたままでいなきゃいけないんだ! 立ち上がるのが当たり前ですよ。



 あともう一ついえば、松井一郎さんのスラップ訴訟の標的にされた方がいて、彼女はボクに実情を打ち明けてくれています。彼女は母子家庭で生活保護を受けています。



その方は、裁判を維持するお金もなくて、弁護士に和解条件を出されて、数百万のお金を毎月分割で支払っています。松井さんは訴えただけで、あとは知らん顔です。すべて弁護士任せにして、彼女本人にも、彼女の赤貧な暮らしぶりにも一度も目をくれることもない。相手が名誉毀損したら機械的に訴えて、あとは知らんぷり。お前等、権力者がやっていることはなんなんだ!って気持ちです。こんなマネをするなんて、ふざけるな!という怒りしかありません。



「義を見てせざるは勇なきなり」心からそう思って立ち上がっています。





■維新の会とは徹底的に戦う



 松井一郎さんから「訴える」と言われたのがきっかけで彼と維新を徹底的に調べたけど、政治家としても、長年の施政者の劣化版というのか、本当にひどいですね。



 僕が驚いたのは、オミクロン株の感染者を入力する機械と業者に頼むときの顛末です。随意契約で領収書も契約書もなし。口約束のみ。あり得ない。そんなの許されるなら何でもできますよ。しかもそれで1億円。契約書もない随意契約があったのはわかっているのに、なんでマスコミも市議会も、もっと追求しないんだ、と。どこの国もどこの市町村も完璧にアウトですよ。



 動画にあった通天閣の電飾とかの疑惑を僕は「電飾決済」と呼んでいます。大阪市の電飾決済の開示請求をしてほしいですね。twitterに開示請求の鬼と呼ばれているWADAさんという方がいますので、彼にお願いしています。



 なんで随意契約で、松井一郎さんの一族が経営している会社に依頼したのかを、やましくないなら答えられるはずですからね。裁判の打ち合わせで米山さん(水道橋博士の顧問弁護士)から「それは質問されないから意味ない」と言われましたけど、出していないカードはいくらでもありますよ。



 僕ね、「仁義なき戦い」で「まだ弾は残っとるがよ」というセリフがあるんですけど、この台詞を言いたいですね。「追われる者より追う者の方が強いんじゃ」も言いたい。松井一郎さんと維新の会を徹底的に追い詰めたいですね。





水道橋博士が激白!「松井一郎と維新の会には屈しない」と語る理由



■参議院議員選挙に向けた意気込み



 ちなみに、参議院に当選したら実現させたいのは「消費税廃止」「反スラップ訴訟法成立」「供託金の値下げ」「エンタメ業界の支援と保護」です。直接出馬する理由になった反スラップ訴訟法については、僕の顧問弁護士をしてもらっている米山さんに野党に立法してもらって「人権問題でタッグを組んでやってもらえませんか」と相談していたんです。だからこれは絶対にやりたい。



 自分が体験してみて、選挙の供託金の額を下げることもやりたい。れいわの長谷川初子さんとの対談で言ったのは女性の供託金を更に下げる。男性よりももっと安くする。何のためかといいますと、男性と女性の比率をなるべく諸外国並みにするためです。女性がもっと選挙に出やすい環境を作りたいんです。議員の数の男女の均等化、もう、これは何年経っても改善されていません。



 これは自民党にも提案できますしね。あと、経口避妊薬の問題もやりたいですね。僕は絶対にやるべきだと思っています



 侮辱罪の強化の件については反対。抑止する議連を作るしかないと思います。インボイスも法案が通過しますけど、そういうフリーの人や、裕福でなく生活の中で困っていることを一つひとつ解決するような方法を考えて、連帯し、そして法律に反映させたいですね。



 あとは権力の濫用を阻止して、権力を監視する一員でありたい。僕は自分が良識の府である参議院にふさわしい人格だとは思ってません。でも、僕は「芸能人」ではなく「芸能界に潜入したルポライター」だと自覚しています。だからルポライターを国会へ潜入させるためだと思って欲しいです。安倍政権からはじまった、今に続く政権の公文書の改ざんや、黒塗り、破棄を止めさせたい。



 僕は自分の生活を24時間、オープン化しています。twitterもそうだし、ブログも25年間続いています。3年前に入院した間は途絶えたけど、それ以外は全部、基本、起床から睡眠まで書いてあります。今はアメブロに移っていますけど1997年から現在まで全部保存してありますのでいつでも閲覧可能です。



 僕が選挙に出たらスキャンダルで潰れるかもしれないと思っている人がいますけど、どうぞいくらでも調べてください。以前から、女性蔑視発言とか炎上していますし、今、選挙に出るとなったら、止める人、反対する人も多い。友人も離れていきます。もちろん、育ちが「たけし軍団」なので、現在も過去も、あれもある、これもある、と思いますが、そこはもう全てに僕は謝っていくしかないです。



 「文春砲」基準で言えば、僕は結婚してからずっと基本モラリストです。デーブ・スペクターさんが「博士がコメンテーターで最強だ」と言っていたけどその通りです。出版社や大企業の接待漬けになったことがない。出会いや面会のときの飲み会、そこだけ。その後、銀座とか六本木とかに接待とか、飲みにもいかない。奢られたら、次は奢り返す自分ルールでやっています。タニマチもいない。ゴルフも麻雀も賭け事もやらない。浮気童貞だし。だからあとは、健康に気を付けて、テロリストに命を狙われないようにするくらいです。



 昔、有名人の選挙出馬へ批判的な発言をしたことで「ブーメランだ」と言われましたけど、発言を書いたブログは保存しているし、自分で何回も読み返しています。自分が一番わかってますから、そこもダメージもないです。文章を削除もしない。50万人のフォロワーに「どうぞ見てください」と見せられます。怖くないですよ。反対に僕みたいなタイプが松井さんは一番怖いと思います。粘り強く諦めませんから。僕が大嫌いな勝ち組、負け組で言えば、僕は「負けない」組です。諦めません。



 「政治家は芸人のやる仕事じゃない」という人にも、僕も以前はそう考えていました。政治家になりあがる、という言葉に対して、圧倒的に芸人の方が至上の仕事だとも思っていました。でも、始めて見ると、政治家はとても芸人的であることがわかります。法案作りは新ネタ作りと変わらないし、選挙は観客に受けるか、受けないか、を自分自身に負うことも同じです。もしもネタが、パフォーマンスが客=有権者に受けなかったら受かりません。



 例え、落ちても、それがネタになります。つまり受けます。芸人という職業に包括されるものが政治家なのだと思いましたね。



 あとね、僕はいつ死んでもいいと思っています。そういう人生観が僕の中にあるんです。そういうことを書いた文章もあります。『統合失調症の広場』(日本評論社)という統合失調症の患者さん、家族に向けた雑誌があって、縁があって寄稿していますけど、そこで「自死はいけない」ことを書いています。その思いに至るまでの出来事や心情が書いてありますので読んでみてください。



 自分はいつ死ぬのかわからない。だから最後にやれることをやろう。できることをやろう。国民の代理人を、カジュアルな言葉で「命懸け」でやる。政治家はそういう仕事だと思っています。





■インタビュー後の感想(篁五郎)



 水道橋博士の話を聞いていたら「覚悟をした人間はここまで目力が強くなるんだ」と感じました。目の奥に巨大な岩があって押しても引いても動かない。どっしりとしてテコでも動きそうにもない意志の強さと、弱い人へ寄り添いたいという義侠心を持ち合わせた人だと思います。原稿を執筆している現在、どこの選挙区で出馬するのかまだ決定していません(後に全国比例区に決定)。どこの選挙区であろうと、水道橋博士の戦いを見守りたいと思います。





文:篁五郎





◉水道橋博士

1962年8月18日生まれ。1987年に玉袋筋太郎と浅草キッドを結成。その後は多数のTVやラジオに出演し、人気を博す。2013年6月15日、当時レギュラー出演している『たかじんNOマネー~人生は金時なり~』で、生放送中にもかかわらず「今回で番組を降ろさせてもらいます」と途中降板したのが話題に。2022年には、松井一郎大阪市長からスラップ訴訟を起こされ、全面的に争う姿勢を見せている。今夏の参議院議員選挙に「反スラップ訴訟をつくる」「供託金をなくす」「消費税ゼロ」「エンタメ業界の支援と保護」を公約に掲げてれいわ新選組から出馬予定。