2019年まで、私たちは体調を崩しているとき以外にマスクをつけることはあまりなかったと思います。人との距離をとるといっても、パーソナルスペース(不快に感じる空間や距離)に入り込まない程度で、人がたくさんいる場所を意識して避けるようなこともありませんでした。



 また、「黙食」と呼ばれる食事中に会話を控えるといったようなことは、仏教徒の人たち以外は、その概念すら知らなかった人も多いのではないでしょうか。



 この3年半を通して、様々な感染症対策が新しい生活様式として世間にひろまっていきましたが、今年の5月から新型コロナ感染症が5類へ移行したことで、これらの新しい生活様式の一部が2019年以前に戻りつつあります。



 しかし、新型コロナウイルスの危険性が消えた訳ではなく、日本が新型コロナウイルスと共生の道を歩みはじめたにすぎないということを忘れてはいけません。新型コロナウイルスが、ただの風邪になった訳ではないのです。



 今年6月ごろから、沖縄県で新型コロナウイルスのオミクロン株(XBB.1.16/XBB)が急速に拡大しています



 全国的に見ると、関東、東海、近畿、中国地方を中心に10県で定点当たりの報告数が1を超えているため、沖縄県だけに限った話ではありません。

(定点当たりの報告数とは、すべての定点医療機関からの報告数を定点数で割った値)



 2023年第19週(5月8日~5月14日)の定点当たりの報告数が「2.63」(注1)と、この週から新型コロナの感染者が増加しはじめており、2023年第25週(6月19日~6月25日)になると、定点当たりの報告数が「6.13」(注2)と、一ヵ月ほどで約2.3倍にまで増加していることが分かると思います。



 また、日本の新型コロナ流行期「第6波~第8波」で主流だったオミクロン株「BA.2/BA.5」よりも、オミクロン株「XBB.1.16/XBB」は、高い感染力や「BA.2/BA.5」で獲得した抗体への抵抗性をもつといわれています。そのため新型コロナウイルスに感染したことがある人でも再感染する可能性があることに注意が必要であり、沖縄県の感染状況が全国へ広まっていくのは時間の問題だと感じています。(注3)





注)



1)新型コロナウイルス感染症サーベイランス速報・週報:発生動向の状況把握 2023年6月30日



https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/12015-covid19-surveillance-report.html



2)新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~ 厚生労働省 ※第25週(6月19日~6月25日)のデータをここからとっています。



https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00438.html



3)オミクロン「XBB株」「XBB1.16株」の症状や重症度などについて解説 2023.06.26
https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/omicron-xbb/



 



■感染症対策を緩めた状態での流行期ははじめて

 



 新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行となってから、初めての流行期が訪れようとしているため、私たちは「感染症対策を緩めた状態での流行期」を経験することになります。



 5類感染症へ移行と聞いても、よくわからない人もいるかもしれません。

簡単にまとめると新型コロナ関連の報告が1週間単位に切り替わっているため、以前のように連日その日の陽性者数がニュースに流れることもなく、新型コロナ感染症の検査費、医療費、入院費などは保険適用での有料となります。(注4)



 さらに、感染者への自宅療養支援が原則終了となり、自宅療養中に外出するかどうかは個人の判断に委ねられるため、以前よりも多くの感染者が外を出歩くことが想像できるのではないでしょうか。



 今まであった、濃厚接触者や感染者への外出自粛要請は、協力要請に変わるため、「周りに感染を広げてしまうから外に出てはいけない」という国民意識が低下することも危惧されます。



  インフルエンザですら感染しているのに人の集まる場所へ来ちゃうような人が昔からいますし、新型コロナに感染していても、無症状や症状が軽ければ「休みになった」と喜んで外に走り出す人たちが、それなりの規模で出てくると思うんですよね。



 新型コロナウイルスは、症状が出ていなくても強い感染力をもっているため、どうしても外出が必要な場合以外は、自宅療養することが最善なのは間違いありません。



 新型コロナ感染者数が増加傾向にあると話しましたが、それに対して新型コロナワクチンの接種率はどうなっているのでしょうか。

首相官邸HPでは国民の新型コロナワクチン接種回数について、1回目~3回目までと4回目以上がそれぞれ公開されています。(注5) 



 ここで、4回目以上という点が気になったので調べたところ、以下のような接種率が出てきました。



 



令和5年6月25日までの新型コロナワクチン合計接種回数/接種率(注5、注6)



1回目 1憶0472万2568/81.0%



2回目 1憶0340万1248/80.0%



3回目 8654万8026/68.7%



4回目 5876万0196/46.7%



5回目 3198万0132/25.4%



6回目 1418万3411/11.3%(高齢者・基礎疾患者の先行接種段階)



 ※令和4年1月1日の住民基本台帳に基づく全国の人口「1億2,592万7,902人」を元に算出(注6)



 



 見栄え以外の理由で、4回目以上とまとめているのかどうか分かりませんが、3回目以降から接種率が大幅に落ち込み、5回目には約25%まで減少しています。このデータから多くの人が新型コロナワクチンの接種をしなくなっているのが読み取れると思います。



 このような新型コロナワクチン接種状況の中で、新型コロナ第9波が近いとされており、この夏に大きな流行が起きる危険性があるようです。





注)



4)【詳しく】新型コロナ 5月8日から「5類」に移行 何が変わる 2023年5月8日



https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/category5/detail/detail_62.html



5)新型コロナワクチンについて 首相官邸



https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html



6)住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント(令和4年1月1日現在)



https://www.soumu.go.jp/main_content/000829112.pdf



 



■毎年7月~9月に流行期がやってくる!?

 



これまでの新型コロナ流行期(注7)



流行期 致死率



第1波 2020年1月~5月 5.34%



第2波 2020年7月~9月 0.93%



第3波 2020年10月~2021年2月 1.82%



第4波 2021年3月~6月 1.88%



第5波 2021年7月~9月 0.32% デルタ株



第6波 2022年1月~6月 0.17% オミクロン株(BA.1/BA.2)



第7波 2022年7月~9月 0.11% オミクロン株(BA.5)



第8波 2022年10~1月 0.18% オミクロン株(BA.5/BQ.1/BA.2.75)



 



 このデータを見ると分かる通り、毎年7月~9月に流行期がやってきています。

ここ3年分のデータしかないため、今年も流行期がやってくると強く言えませんが、目安には出来るんじゃないでしょうか。



 そして、新型コロナ第9波として流行の兆しを見せているのが「オミクロン株(XBB.1.16/XBB)」という変異株になります。



 冒頭で書いたように、オミクロン株(XBB.1.16/XBB)は今までに新型コロナウイルスへ感染した人でも再感染する可能性があり、この変異株に対して新型コロナワクチン接種率が5回目で約25%と減少傾向にあります。同時に、新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行しているのが今の日本です。



 新型コロナ感染症対策を緩和していくことは、新型コロナウイルスと共生していくには避けては通れない道なのが現実であり、これからは今まで以上の自助(自分自身や家族の身の安全を守ること)が求められる環境になると感じています。



 本格的な流行期が訪れる前に、この3年半を通して身につけた感染症対策をいま一度思い出しながら、国民一人一人があらためて感染症対策を生活へ取り入れて行くことが、今の私たちに出来る新型コロナ感染症対策なのではないでしょうか。



 



注)



7)新型コロナ第8波 死亡が多くなった要因 専門家の考察や対策は 2023年2月24日



https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230224c.html



文:谷龍哉