「桜を見る会」疑惑が次々と浮上し、安倍内閣に厳しい目が向けられている。本年11月に憲政史上最長在任の首相となった安倍晋三氏という存在が、「安倍一強」と呼ばれた強引な政権の瓦解が、今、始まったのだろうか……。
ジャーナリスト・田原総一朗氏と『「安倍晋三」大研究』の著者で東京新聞記者・望月衣塑子氏の二人が、「安倍政権の正体」を暴く!(第4回)
「桜を見る会&森友学園」疑惑も本質は同じ。要は忖度!「安倍首...の画像はこちら >>
c) Yoshiro Sasaki 2019

 

●森友学園疑惑を再検証して分かる、「桜を見る会」問題の本質

望月・・・森友学園疑惑(下段【注】参照)は、どう思われますか? 今年10月に、検察側は籠池夫妻どちらにも懲役7年を求刑しました。そして「桜を見る会」の件を見ていると、モリカケ問題と同じようなことが、次々と明らかになってきています。

田原・・・これは望月さんに聞きたい。
 望月さんは、『THE 独裁者』で、森友学園疑惑の問題を、詳しく検証している。

「桜を見る会&森友学園」疑惑も本質は同じ。要は忖度!「安倍首相案件だから・・・」田原総一朗氏 × 望月衣塑子氏が斬る!
大阪地方裁判所前で。『「安倍晋三」大研究』(KKベストセラーズp298より)                            c) Yoshiro Sasaki 2019

それに、『「安倍晋三」大研究』では、籠池夫妻が釈放された半年後の2018年12月に、釈放後夫妻では初のインタビューもしている。


 籠池さんは、安倍さんの大応援団だったはずなのに、どういう理由で、いつから敵になったのか?

望月・・・最初は自分を支援してくれた“縁故者”だった籠池さんが、“敵”に変わったのは、2017年3月23日に国会での証人喚問に立った時だと思います。嘘がつけない場で、籠池さんは、昭恵夫人を介して安倍首相から、寄付金100万円を受け取ったことを証言しました。安倍首相はのちに、テレビの番組で籠池さんのことを「籠池さんは詐欺を働く人間。昭恵も騙された」とも発言しています。

田原・・・何で安倍さんが籠池さんのことを、「詐欺を働く人だ」とまで言うのか?
 自民党は大反対だったが、野党は籠池さんを国会に参考人として招致したいと再三求めた。ここから驚天動地で、国会招致から証人喚問になった。

なぜ、出頭拒否が出来ない虚偽答弁を行うと処罰される証人喚問になったのか? 安倍さんがそう証人喚問にしろと言ったのか?

望月・・・安倍首相自身が、そのような要求をしたかどうかは分かりません。
 安倍首相は2月17日には籠池さんのことを「教育に対する熱意が素晴らしい」「私の考えに共鳴している人」だと言っていたのに、同月24日には「非常にしつこい人」「教育者としていかがなものか」と否定する方向へと変わっています。また、証人喚問前には、安倍事務所の初村秘書から「昭恵夫人の名誉校長の称号を外してくれ」と電話があったといいます。

=====【注】=====
◆「森友学園疑惑」は、もともと豊中市議の木村真さんの疑問がきっかけで始まった。朝日新聞が2月9日に、約8億円の値引きを1面トップでスクープ。その後、2月17日の衆議院予算委員会で安倍首相が「私や妻が関係していたら、首相も国会議員も辞める」と述べたことで、騒ぎは加熱。
昭恵夫人がその学園の名誉校長だと出たあたりから、猛烈な批判が集中し始めた。昭恵さんは、名誉校長を突如辞任。そして夫妻は、2月20日に酒井弁護士経由で、財務省・佐川理財局長からの“身を隠せ”という指示もあったと籠池夫妻は話している。
◆また、同月22日には内閣府で、佐川理財局長らによる官房長官会議が開かれ、財務省から出てきた一連の文書を確認。ここで財務省の文書改ざんが決まり、始まったといわれている。
◆さらにその後、籠池さんが100万円寄付の話をし、郵便局の振替受領票がその傍証として示され、これも大きな注目を集める。
が、首相側は全面否定。そして結局、3月23日、籠池さんは出頭拒否出来ない国会の証人喚問に立った。
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『THE 独裁者』(KKベストセラーズ p64より) 画・ぼうごなつこ
「桜を見る会&森友学園」疑惑も本質は同じ。要は忖度!「安倍首相案件だから・・・」田原総一朗氏 × 望月衣塑子氏が斬る!
森友学園疑惑の中心人物、籠池泰典氏の国会証人喚問は、世間の注目を集めた。                   『THE 独裁者』(KKベストセラーズp65より)  画・ぼうごなつこ●国有地8億円の値引きと文書改ざんを再び追及せよ!

田原・・・しかし、それにしてもなぜ8億数千万もの値引きとなったのか?

望月・・・値引きの根拠は、廃材ゴミでした。学園の土地の地下約3・8メートルより深い位置にあるゴミの撤去費用ということでしたが、このゴミが実はなかった。

田原・・・なぜ「ない」のに、「ある」ということが通ったのか?

望月・・・要は、安倍首相案件だからです。

籠池夫妻と安倍昭恵夫人の繋がりが見えたことで、地元の近畿財務局を始め、土地を所有する国交省、近畿財務局を含めた財務省、学園を認可する大阪府など、官僚たちが「忖度」して、この件がスムーズに進むよう便宜を図った。

田原・・・安倍首相が「下げろ」と言ったのか?

望月・・・安倍首相は、直接言っていないと思います。

田原・・・それでは安倍昭恵夫人が言ったわけ?

望月・・・昭恵さんも言ってないと思います。

田原 僕は、この問題を一番深く取材したのは「朝日新聞」の大阪社会部だと思う。

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建設が進み、開校も間近かだった瑞穂の國記念小學院           c) Yoshiro Sasaki 2018

 その中でも一番、深く長く取材した人物に「なぜ、8億円下げたのか?」と聞いた。それから、菅野完氏にも聞いたんだが……。


 しかし、経産省の文書改ざんにしても、国有地の約8億円の値引きにしても、今回の「桜を見る会」と同じで、理由やその経緯が、はっきりしないことばかりだ。森友学園疑惑では特に、なぜ文書を改ざんしなければならなかったのか、この点をうやむやにしないで欲しい。

望月・・・そうですね。その点に凝縮されていますね。

田原・・・僕も取材したいけれど……。

望月・・・世の中の人も忘れてはいないのです。絶対に封印させてはいけないと思っています(*下段【補足】参照)。

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検察から懲役7年を求刑された翌日、10月31日に外国特派員協会での記者会見。c) harada-besttimes 2019=====【補足】=====
◆籠池夫妻が本年10月31日、特派員記者クラブで記者会見を行った。
​◆10月の論告求刑公判で「検察が籠池夫妻に懲役7年を求刑したこと」を受けての会見だった。記者の質問に答える形で、籠池さんは、「2017年4月に瑞穂の國記念小學院の開校には、安倍夫妻が来ることが決まっていた」と話し、それに間に合わせるべく建設は急ぎ進められたという。そうした中で、工事関係者のキアラ設計、藤原工業側の主導で全てが進んでいったと主張している。また、別の取材の時には、元大阪府議の人物が籠池夫妻に、キアラ設計と藤原工業という会社を紹介したという経緯も話している。
◆同記者会見で籠池氏は、「森友学園は今、民事再生中です。しかし管財人が破産の方向で進めようとしているのです。森友学園がなくなれば、2回にわたる家宅捜索で押収された膨大な資料を、検察は返却する必要もなくなるのです。財務省や昭恵夫人、政治家との関わりが分かる証拠書類が闇に葬られる……」と主張している。●国際舞台で日本の政治家が発言出来ない理由

田原・・・トランプ大統領が、「ニューヨークタイムズ」と「ワシントンポスト」の記事をフェイクニュースだと言った。

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c) harada-besttimes 2019

 それがきっかけで、ニューヨークタイムズとワシントンポストはどんどん部数を伸ばした。日本の場合、東京新聞が頑張っても部数が伸びない。「安倍新聞」と揶揄される「産経新聞」も伸びてない。この間、朝日新聞の幹部に、「最近の朝日はつまらないね」と言ったら、「部数が伸びてないから、取材費を落としている。それと、働き方改革で取材が出来ていない」ということだった。

望月・・・いまの新聞記者は、かつてに比べて大人しくなったと思われますか?

田原・・・そういう意味では望月さんは貴重な存在。こんなうるさい人はあまりいない。でも、日本の他の新聞記者はなぜ、おとなしくなったのか?

望月・・・アメリカでは、先生が言ったことをまず疑い、その上で「議論を始めましょう」となります。日本では、そういうことが小中高では教えられない。大学の先生が色々話した後、「みんなどう思う?」と聞いても、答えてくれないそうです。自分たちの中で何がよくて何が悪いか分からないまま、疑問の目を育てないまま、小中高時代を過ごしてしまうわけです。だから考えたり、発信したりする力は低下するばかりです。

田原・・・宮澤喜一さんが、先進国首脳会議や国際会議で日本の政治家は発言しないと指摘していた。「なぜ、しないのか?」と聞くと、「英語が話せないからだ」と言っていたが、それは「違う」と思う。日本の教育が悪い。特に、小中高が良くない。教師は、生徒に正解のある問題しか聞かない。正解を答えないと生徒は怒られるんだよ。だから政治家も正解を答えないといけない。
 先進国首脳会議やG7に、正解なんてあるわけがない。アメリカやヨーロッパでは正解のない問題を生徒に提示している。イマジネーションやディスカッションを重視して、こうしたことをするわけだ。日本は正解を求めてばかりだから、いつまで経っても西欧の人たちから相手にされない。意見表明がないから、“不思議の国の人たち”としか見えないからね。

望月・・・今、政府が進めている、英語の民間試験導入などのそもそもの下地になるものは、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」を議論するために設けられた「産業競争力会議」にあったという指摘があります。つまり、産業界のニーズのために大学改革や高校教育の改革を行おうとしている。

●「官房長官を記者みんながボイコットすればいいだけだ!」

田原・・・望月さんが官邸から怒られても、記者仲間は望月さんの味方しないよね。どうしてそんなにだらしないのか。官房長官を「ボイコットする」とみんなで決めればいい。

望月・・・それができない……。

田原・・・どうして、そんなにだらしないんだ。

望月・・・安倍長期政権の威力に新聞記者は屈しているということなのかもしれません。

田原・・・違うと思う。ただ、記者たちは一切取材拒否すればいいんだ。そうしたら、官邸の方が、「頼むから取材してくれ」となるんだ。

望月・・・新聞記者の多くは、官邸に取り込まれてしまった、ということになるのかもしれません。

田原・・・ストライキできないのか……。
 民主党政権はなぜ潰れたか。潰したのは検察だった。
 言い換えると、検察が小沢一郎を潰した。西松建設事件で。小沢のトップ秘書を逮捕し禁錮3年執行猶予5の判決が下されたが、小沢本人は結局、不起訴処分。
 それで今度は陸山会事件。世田谷・深沢の土地購入をめぐる資金疑惑でまた逮捕。マスコミはみんな「小沢が悪い」と、ワッーと一斉に叩いた。そのとき、ある新聞の幹部に、「この情報は全部検察から出てるはず。なぜ、検察からの情報と書かないのか」と言った。そしたら、「書いたら出入り禁止になる」。
 しかし、もっと悪いのは民主党議員までが、「小沢が悪い」と言い出したこと。 結局、民主党はそれで分裂した。あの時、望月さんは?

「桜を見る会&森友学園」疑惑も本質は同じ。要は忖度!「安倍首相案件だから・・・」田原総一朗氏 × 望月衣塑子氏が斬る!
c) Yoshiro Sasaki 2019

望月・・・特捜担当で、小沢さんの案件は取材していました。

田原・・・それで、「小沢は悪くない」と書いた?

望月・・・いえ、書いていません。

田原・・・僕は、「小沢は悪くない」と言ってた。ロッキード事件以後、検察は色々と検挙摘発したけれど、リクルート事件などは絶対、冤罪。鈴木宗男事件も、ホリエモンのライブドア事件と、検察の強権捜査が続いた。

 僕は堀江貴文さんも冤罪だと見ている。逮捕される前の日まで僕は彼と対談していたんだ。彼が「フジテレビ」を買収した時、マスコミは全部アンチ堀江になったけど、僕は堀江支持だった。この問題が決着し、彼が衆議院選挙に出たタイミングで検察が逮捕。容疑は証券取引法違反だった。結局は部下の役員たちが堀江さんの名前で粉飾決算をしていたことが分かって、無罪を主張したが、堀江さんは懲役2年6カ月の有罪判決。粉飾をしたのだから、会社の代表である堀江さんに確かに責任はあるけれど、色々考えると本当は執行猶予だったと思う。
 そこで、重要なのがジャーナリズム。新聞とテレビの役割は大きい。しっかりしてもらわないと困るんだよね。

望月・・・ネット時代と言われていますが、真相を掘り起こしていくのがジャーナリズムだと思っています。
 例えば森友学園疑惑を掘り起こしたのは、社会部の記者たちですが、そもそもの端緒は、豊中市議の木村真さんが地道な調査の中で怪しい土地の売却や、値引きの経緯を発掘したことです。それをもとに記者たちが取材しました。
 こういう調査報道では、オールドジャーナリズムといわれる新聞にはいまだ強さがあると思います。新しいメディアは、読みやすさはありますが、十分な調査報道が出来るだけの人や、お金が足らないという事情もあるでしょうね。
 例えば「毎日新聞」が続けている「公文書クライシス」、東京新聞も「税を追う」という特集キャンペーンを張っています。じっくり時間をかけて、細かく取材ができる体制があるのは新聞だし、雑誌ジャーナリズムの力でもあると思います。こうしたものがないと政権の暴走を許すことになってしまうと考えています。

田原・・・東京新聞の望月さんには、徹底的に森友学園疑惑をやって欲しい! 
 この問題が始まった時から追って、籠池夫妻にもインタビューもしているんだから。頼んだよ!

「桜を見る会&森友学園」疑惑も本質は同じ。要は忖度!「安倍首相案件だから・・・」田原総一朗氏 × 望月衣塑子氏が斬る!
c)harada-besttimes 2019田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。 1960年早稲田大学卒業後、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、1977年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』などの番組でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。 1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学で、「大隈塾」を開講。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。 著書多数、近著は『殺されても聞く』(朝日新書)。望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。東京新聞記者。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書に『新聞記者』(角川新書)『THE独裁者』『「安倍晋三」大研究』(KKベストセラーズ)『安倍政治100のファクトチェック』(集英社新書)他。