――あなたはコンビニのない世界を想像できますか?

いまや日本の日常生活に欠かせない「コンビニ」。もしそのコンビニがなくなったとしたら……。
コンビニの最新施策を分析し、小売業の未来図を説く書『コンビニが日本から消えたなら』の著者で、日本一のコンビニ流通アナリスト渡辺広明氏が問いかける。(『コンビニが日本から消えたなら』より一部抜粋し再編集)
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■「時短営業問題」が大きな転機に! 本部とオーナーの関係に変化の兆候が

 2018年7月6日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」、 いわゆる「働き方改革」の関連法が公布され、2019年4月1日より順次施行されています。 

 働き方改革は「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」「長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の3つの柱を設け、労働者の環境改善と生産性の向上を図るのが目的です。

 各業界が対応に追われるなか、コンビニ業界も大きな変化を迎えています。まずは、その前にコンビニの経営形態について簡単に説明しておきましょう。

 国内のコンビニは大きく「直営店」と「フランチャイズ店」に分けられます。

直営店は、いわゆるチェーン本部(フランチャイザー)が自ら経営する店舗です。一 方、フランチャイズ店は親企業(チェーン本部/フランチャイザー)から営業販売権を与えられた加盟店(フランチャイジー)で、経営するのは個人事業主であるオーナーがほとんどです。直営店の利益はそのまま本部の利益となり、フランチャイズ店は契約に基づき、利益を本部と配分しています。

 大手3社の直営店率は、セブン-イレブン1.9%(2018年 月末)、ファミリーマート1.6%(2019年)、ローソン2.1%(2019年2月末)で、 実にコンビニ店舗の約98%はフランチャイズ店です。

 2019年は、「 24時間営業の是非」を皮切りに、コンビニの労働環境を巡る話題が噴出した年でした。とくにオーナーの過重労働が世間の関心を集めましたが、すべての解決の鍵は「本部とオーナーの関係」にあると感じます。

■果たして、本部とオーナーは対等な関係にあるのだろうか?

 本来ならば、本部とオーナーは対等に話し合える関係であるべきです。しかし、 コンビニ業界に限った話ではありませんが、どうしても本部の力が強くなってしまうというのも事実です。なぜなら、オーナーはフランチャイズ契約を継続したければ、本部と良好な関係を築かざるを得ない......すなわち本部の施策、考え方に反する意見があったとしても賛同せざるを得ないからです。

 それだけ大手チェーンの〝看板=ブランドイメージ〞は魅力的なのかもしれません。大手コンビニの看板力を示す例として、極端なケースではありますが、次のようなエピソードがあります。

 ある地域に大手コンビニが出店した際、諸事情によって自社のチェーン名を連想できないような別の名称で出店したことがありました。

このときの日販は16万円でしたが、その2ヵ月後、看板を本来の大手チェーン名に変えた途端、日販が52万円になったのです。 取り扱っている商品は、まったく同じでした。オープンから2ヵ月を経て固定客が付いたという理由もあるかと思いますが、それでも「大手コンビニ」の看板があるかないかで、日販に3倍以上の開きが出てきたわけです。

■時給アップで人件費が膨らみ、オーナーは過重労働に追い込まれてしまう

 コンビニ1店舗あたりの日販が停滞して利益が減っている。その理由として「人口の減少と店舗数の増加(1店舗あたりの客数の減少)」ということはありますが、実はこれ以外にも理由があります。それは、時給アップによる人件費の増加です。

 そもそもフランチャイズ店の利益は、粗利益を本部と配分したあと、大きくは人件費と光熱費と廃棄を差し引いた残額で決まります(契約により、一部の経費を本部が負担することもあります)。近年は「人手不足でアルバイトの確保が困難」「政府の方針で最低賃金の値上げ」という2つの理由により、コンビニの時給が上がり続けています。経済産業省によれば、小売店舗のアルバイト時給は2014年1月の約930円から2018年9月には1040円を超えたそうです(経済産業省/ 新たなコンビニのあり方検討会)。

 110円の増加がどれほどの影響を及ぼすのか、計算してみましょう。 1日2人体制でアルバイトを常時雇うとすると、

 ・5時から 時まで3740円( 時間で増加分110円×2名)

 ・25%増しの深夜手当時間帯1925円(7時間で増加分137・5円×2名)

 計5665円の人件費アップとなり、1年に換算すると206万7725円。すなわち、この分だけオーナー収益が減ってしまうのです。

 結果、オーナーが収益を維持するためには、過重労働を余儀なくされるようになります。しかし、オーナーの収益が人件費に圧迫されて減る一方で、本部はというと最高収益を毎年更新し続けていました。

 こうした状況が続けば、当然ながらオーナーたちの心情に変化が訪れます。経済産業省が実施した「コンビニ調査2018」によると、「契約更新を希望するか」 との質問に対し、2014年は「更新したい」が68%、「分からない」が10%でした。

 ところが、2018年には「更新したい」が45%に減り、「分からない」が 37%に大きく上昇したのです。

 そして、オーナーたちの不満が噴出した2019年、時短営業を強行する店舗が登場。

メディアにも取り上げられ、問題が顕在化したわけです。

■ついに本部が動いた!!

 世論の後押しも大きかったのでしょう。これまで、決して動かないと思われていた本部が、ついに重い腰を上げました。大手3社の時短営業に対する取り組みは次の通りです。

【セブン-イレブン】2019年10月21日に「深夜休業ガイドライン」を制定。約230店舗で時短営業を実験中。11月からは8店舗が時短営業(深夜休業)を開始。

【ファミリーマート】同10月21日時点で全国632店舗で時短営業を実験中。11月14日には24時間営業を前提とした今の契約の抜本的な見直しを発表。加盟店のオーナーが希望すれば時短営業を認める新たな契約を2020年3月から導入。深夜の時間帯を毎日休業もしくは日曜の深夜のみ休業のどちらかが選択可能。

【ローソン】同11月1日時点で118店舗がすでに時短営業中。2020年元日に約100店舗で休業実験を行う予定。

 今回の時短営業問題をきっかけに、これについて本部とオーナーが話し合う機会が増えました。これは、コンビニ業界においては革命的な出来事と言っても過言ではないのです。

■収益モデルの開示とフランチャイズ契約の多様化が必要だ!

 本部の問題点は、これまでオーナーの平均収益などを開示してこなかったことです。平均日販は公表されていますが、収益、日販ともに都市と郊外ではどれほど差があるのかも分かりません。今後、本部は「オーナーがどれだけ儲かるのか」という具体的な収益モデルを開示するべきです。そして、立地、エリアや規模に応じた売上と経費から算出した「適切な収益」をオーナーたちに周知する必要があります。

 一般に開示すれば、それがオーナー希望者たちの判断材料になります。これまで、 そこが曖昧だったので、フランチャイズシステムの永続的運営の視点から見た経営において、オーナー側が納得できない場合が多かったのです。ドミナント戦略や競合店出店のリスクも今まで以上にしっかりと伝えていかなくてはいけません。

 契約更新を迷うオーナーが増えるなか、本部は目先の収益を求めるのではなく、 長期的な視野に立って、どれほどの適正な利益を本部で確保するのかという考え方にシフトするべきです。これはコンビニだけでなく、国内業務に対する利益が大半を占めるすべての企業にも同じことが言えます。斜陽のなか、利益を前年比超を前提として考えるのはナンセンスです。

 2019年11月、業界4位のミニストップは、加盟店とのフランチャイズ契約を見直し、これまでオーナー負担だった人件費や光熱費などの経費を、本部側が一部負担する方針を発表。2021年3月に全面本部負担への切り替えを予定しているそうです。

 大手3社の追従も期待されますが、ひとつ大きな問題があります。それは、コンビニが初期投資の大きいビジネスだということです。

 あるチェーンの初期投資の本部負担は、1店舗あたりに貸与している什器・POSで約1300万円。店舗の建築費・内装で約2000万円です。

 土地の造成が必要な場合は、ケースバイケースですが5000万円以上の費用がかかることもあります。それに対して、一部の契約形態を除きオーナー負担は出資金という形の一部のみ。ほぼすべてを本部が負担していて、なおかつ家賃も本部が払っているのです。本部の利益配分が5~6割だからといって、こうした事情を知らずに「本部がオーナーの利益を吸い上げている」と批判するのは早計かもしれません。そこの配分を見誤るとフランチャイズオーナーになる参入障壁が上がってしまうからです。

 ただ昨今、オーナーの収益がマイナスになっている場合が多いと推察されるなか、 本部の最高収益が更新され続ける現状を考えると、今後はフランチャイズ契約の見直しをさらに進める必要があるのは明らかでしょう。

 時間外労働の上限規制や深夜労働の割増賃金改定など、働き方改革によって人件費はさらに増えていきます。そうなると、従来の利益の配分では、これまで以上に経営が難しくなっていくでしょう。このため「オーナーが初期投資と家賃の一部負担をする代わりに利益配分を5:5にする」「初期投資や家賃は現状のままだが、 本部が初期投資を回収し終えたら利益配分を5:5にする」など、オーナーになりたい人ごとに契約内容が多様化していく可能性も考えられます。

■コンビニが守っていくべき、社会保障への取り組み

 本部とオーナーの話し合いが増えるなか、実現に向けて取り組まなくてはいけないのが社会保障です。フランチャイズ店では、オーナーが社員として店長を雇っている店舗も少なくありません。しかし、彼らは社員に対して、社会保険や有給休暇といった社会保障を受けさせていない場合もあると推察されます。

 また、アルバイトやパートも「半年以上の継続勤務」と「所定労働日の8割以上出勤」という条件を満たせば有給休暇を取得できますが、こちらも同様です。

 2016年10月、501人以上の企業において、短時間労働者にも社会保険(健 康保険・厚生年金保険)の加入が義務づけられました。適用条件は「1週間の所定労働時間が20時間以上」「雇用期間が継続して1年以上見込まれる」「月額賃金が8万8000円以上」「学生以外」の4項目です。ところが、今後は500人以下の企業にも適用される可能性があり、そうなればフランチャイズ店も他人事ではいられなくなります。

 コンビニオーナーのみならず、多くの中小企業にとって、この法律は非常に厳しいものとなるでしょう。遵守するとしたら、現状のフランチャイズ契約のままでは、多くのコンビニのオーナーが描いた事業計画は確実に破綻します。

 しかし、私の見解を申し上げるなら、コンビニこそが先例として、こうした社会的責任を全うすべく、立ち向かっていくべきです。コンビニは時代の変化やお客様のニーズにも対応し、成長してきた小売業です。きっと、社会の変化に対しても、コンビニ本部は対応できるはずです。本部とオーナーが歩み寄りを見せ始めた現在、本部は契約内容を見直し、社会保障の厳格化を進めていってほしいと思います。

 

 

 

 コンビニは日本の誰もが利用する、日本国民が作り上げた、世界最強のリアル小売業であり、そのことに異論を挟む人はいないでしょう。 

 ただし、昨今、コンビニ問題がネットでテレビのニュースで話題となっています。 

 いま必要とされている社会的課題との向き合いは、オーナー・本部ともに大変厳しい戦いとなります。そんな現状と処方箋を、日本の未来になぞらえて、この本を書きました。皆様が感じた異論反論・斬新なアイデアで、前向きな議論が活発化する機会になれば幸いです。