■通信の形を大きく変える“5G”の可能性
「電気かデータが流れるもの全般」をフィールドにする、ジャーナリストの西田宗千佳氏 (写真:河野優太)もうひとつ2040年の形を考える上で、ポイントとなるのが“5G” (第5世代移動通信システム)だ。“5G”によって、携帯電話はテレビやスピーカーなどさまざまなモノと繋がることになり、生活や意識そのものが変化するだろうと西田氏は予想している。まさに映画の世界だ。
「携帯電話は5Gの導入で大きく変わるでしょう。その変化には2つの側面があります。ひとつは通信の速度が上がること。この進化を数字で表すと、2時間の映画のダウンロードにかかる時間が数十分から数秒になります。そして、今まで1日かかっていた時間が数秒になれば、新しくできることが増えると企業の側は考えます。
そうすると例えばWEBサイトでは、写真ではなく3Dデータを掲載できるようになるわけです。物の立体物をくるくると回しながら、「服のここはこうなっているんだ」と見ることができる。技術的には今でも可能ですが、ページを表示するのに5秒以上かかると離脱率が上がるので使いづらいんです。
もうひとつは、IoTを促進するということ。5Gになれば、通信速度単価も下がりますし、スマホでのアクセスと自宅の固定回線でのアクセスとスピードの差がなくなります。通信スピードが百倍になれば、同じ時間で使える通信量は劇的に増えます。そして、テレビや屋外の監視カメラ、自宅の鍵などが全部ネットに繋がって、携帯電話を当てると通信モジュールがオンになり、携帯電話の契約に紐付けができたり、自動的に繋がっているという可能性もあるかもしれないですね。世の中にある機械がどんどんネットワークに繋がっていきますが、より繋がりやすくなるのが5Gなんです。単にスピードが速くなるだけじゃなく、連携する機能が加わっていくということです。現在の4Gでも可能なことは多いのですが、5Gになることで、より幅広く使われていくでしょう」
■眼鏡やヘッドフォンなどのモジュールで話せるように?通信の制約から解放されるという5Gが、通信という概念をガラリと変えそうだ。そうなってくると、携帯電話の形やその役目はどのように変化していくのだろうか。
「今までは着信があれば、携帯のある場所まで行っていたと思いますが、これからはテレビやスピーカーなど自分の近くにあるものがピリピリ鳴って『もしもし』と言えば通話できるようになるでしょう。5Gになると“携帯電話の形”を意識することが減っていくと思います。
パソコンやタブレットに携帯電話の回線で通信できる機能が100%ついていて、Wi-Fiを設定せずにすぐに通信で繋がるようになる。
これまで私たちが使ってきた『もしもし』と耳に当てる形の携帯電話もなくなるというか、あってもそれが主体ではなくなる可能性があります。通話すること自体は、画面がなくてもヘッドフォンだけでもいいわけです。今もすでに、ヘッドフォンで通話している人はいますよね? それが機器の進化によって、より使いやすくなります。例えば眼鏡などにモジュールが入っていて、電話がかかってくるとピピっと鳴る。そこに『もしもし』と言うと通話が始まると。空中に話している相手の3Dグラフィックが浮いているかもしれない。何か機器は使うでしょうけど、2040年には手に何も持たず話せるようになるでしょう。少なくとも携帯電話を耳に当てて話すということはなくなる。携帯という概念がなくなっているかもしれないですね」
■答えあわせが必要になる。結果がわかるのがちょうど2040年か2040年には眼鏡やヘッドフォンなどのモジュールで、映像を見ながら話せるようになるという携帯電話。
「機械だけの進化なら5年から10年でわかりますが、世の中の進化は機械を受け入れた上で、そのための法定整備やビジネスなどの仕組みを全部取り入れてから変わるわけです。もしかしたらトラブルもあるかもしれない。5Gも2020年に出たらすぐに世界が変わるというのではなく、結果がわかるまで10年から20年はかかるんですね。その頃には我々の生活全体の中で“通信”への考え方がガラリと変わってしまっていると思います。これこそが一番大きなインパクトになるでしょうね」
すべての電化製品がネットワーク化されると、我々の生活全体の中で“通信”というものの考え方自体が変化する。携帯電話を「携帯」する必要もなくなっていき、モノとしての実体はなくなっていくのかもしれない。いずれにせよ、2040年には携帯電話の進化も進み、社会全体の対応も追いついて「答え合わせ」ができているはずだ。