そんなビートきよしが、4月、ビートたけしが率いるオフィス北野に所属することが発表されると、大きな話題となるとともに、さまざまな臆測も報じられた。
今回はそんなビートきよしに、『這い上がるヒント~諦めなかったお笑い芸人30組の生き様』(東邦出版)の著者で、お笑いライブの主催・プロデュースを手掛け、お笑いタレントへのインタビュー経験も豊富な著述家・大川内麻里が、
「芸人のサラリーマン化への警鐘」
「機械化する教育の問題点」
「ツービート漫才復活の可能性」
などについて聞いた。
●サラリーマン化していく芸人たち--かつては「女は芸の肥やし」といわれていましたが、今の若手芸人さんたちは、すぐにインターネット上で叩かれてしまうので女遊びができないそうです。好感度のほうが大事になっている。

--AKB48など、アイドルでも会いに行けることが売りであったり、ブログやSNSで交流できたりと、芸能人も今はより身近な存在として売っていく手法に変わってきています。
きよし いろんな番組、いろんな売り方があっていいと思うけれど、みんな「サラリーマン化」してるよなぁ。みんな同じようなのばかりじゃないか。
でも叩かれるのが怖くて遊ばないってのも、おかしいよなぁ。俺たち、女問題だのなんだの、どれだけ書かれたことか。
そんなの怖がってたら、いい芸なんてできないよ。俺たちも、俺たちの先輩たちもだけれど、女に飯食わせてもらって、舞台に打ち込んでいくのが芸人ってものだった。俺が言っても、またきよしがなに言ってやがんだって言われるかもしれんが……(笑)。
●教育が機械的であってはいけない--おっしゃるとおり、芸人さんが「サラリーマン化」「画一化」されつつあります。時代ともにいろんなことが失われていくことに寂しさを感じますね。例えば私の時代には誰もがげんこつをくらった先生というのがいました。卒業して20年がたちますが、すっかり白いものが増えた先生が、同窓会の席で「君たちとの3年間は教員生活の原点だった」と涙を流しておられる。そんな光景も時代とともに失われていくのかと。
きよし PTA会長の知人から頼まれて父母会で話をしたことがあるんだけれど、俺、言ったんだよ。「スパルタをやったほうがいい」って。
でも今の先生たちは、えこひいきで殴っちゃうからいけない。コイツはできるヤツ、コイツはダメなヤツって、ひとつひとつの行動じゃなくて人格をまるごと否定したり差別したりする。
そうじゃなくて、みんな同じような扱いをして、ダメなときにはダメ。どんなにダメなことばかりするヤツでも、いいことをしたときには褒めてやる。そうすれば、言うことだって聞くはずなんだよ。教育が機械的ではいけないよ。相手の気持ちにならないと。
全盛期の頃にさ、街を歩いていたら、暴走族が俺を見つけて「ビートきよしさんだ~」って来たんだよ。
頭ごなしに言うから反発を覚えるんだろう。彼らにもそうしたくなる理由があるんだってところに寄り添って、「やっちゃいかんとは言わんから、人様に迷惑はかけるなよ」って説けば、聞くものなんだよ。こういうのの積み重ねが、本来あるべき教育ってものなんじゃないかい?
●親と子、先生と生徒、芸能人と一般人……距離が縮まりすぎて--怒鳴られない、殴られないで育ってきた、打たれ弱い若者たちが多いとも聞きます。
きよし 怒られるとすぐ逃げちゃって、「社会が悪い」と転嫁する。俺たちの時代は、怒られても這い上がって成功していったものだよ。
そのためには、上下の差が歴然としていないといけないね。上に行けばいい思いができるとなれば、「自分もがんばってああなりたい」という意欲がわいてくるはず。
昔のことを言うと「古い」なんて批判されるけれど、古いものをわかっていないと新しいものなんてできないだろう。昔の人たちからは「苦労する木に花が咲く」とかさ、そんな教えをいっぱい聞いて育ったもんだよ。それでがんばらなきゃって思えた。
昔話がなくなったのもよくないな。悪い爺さんには罰が当たって、いい爺さんは得をするんだよ。そういう話をばあちゃんたちから聞いて、ものの善悪ってものが、頭に入っていったよね。
テレビゲームばかりで人とろくに接することなく、画面とばかり向き合う子どもたち。悪いこと、暗い話題ばかりで、いいことを報道しないマスコミ。怒ってくれる人がいないどころか、注意なんてしようものなら、相手から何をされるかわからないような世の中……おかしいよね。
●かつてきよしにかけられた盗作疑惑の真相とは?--最近の世相に関してはいかがですか?
きよし 規律で締めすぎるよね。一時停止の交通取り締まりひとつをとっても、型にはめたようなやりかたなんだもん。「違反しちゃダメだよ」って言われりゃ「気をつけます」とも言えるけれど、いきなり問答無用で切符を切られるんじゃあ、反発心や不満ばかりが、世の中に鬱積していく一方じゃないか。
あと、人の上に立つ人たちが、足の引っ張り合いばかりしているだろう。番組なんかでも建設的な議論じゃなくて、足の引っ張り合いなんだもの。
--最近の世相に関連していうと、以前、きよしさんに盗作疑惑がかけられたことがあったそうですね。
きよし ある日、新聞記者が来て、なんの取材だって聞いたら「盗作の問題」だという。俺、「だれですか?」って聞いたの。「とうさく」って人の名前だと思ったんだよ(笑)。そしたら、なんでも俺の名前で出ている雑誌の連載記事が、ある著名な先生の作品と一字一句違わないっていうんだ。
実際は、俺はそのとき忙しくて、一回休載にしてくれって言った回だった。なのにどうやら付き人が勝手に盗用して書いて、俺の原稿として出しちゃってたらしいんだよ。
記者に「付き人が来て話をするから待ってて」と言ったら、「きよしさん話せないの?」としつこい。
それでつい「うるせえな、タレントの本なんて、みんなゴーストライターが書いてんだろう。本人が書いてるわけねえだろうが」って怒鳴っちまったら、翌朝の新聞に著名人の本のゴーストライター一覧が出たんだよ。完全にマスコミの挑発にハメられたかたちだった。
そんなこと言わせるヤツのほうが悪いだろう。殴りたくなるくらいの挑発を仕掛けてくるんだ。それで殴ったり文句言ったりしたら、また悪しざまに言われる、書かれる。有名税とはいえ、許されるかい?
●ツービートの漫才、再び観られる日は?--昨年の初めにテレビ番組『情報7days ニュースキャスター』(TBS系)のオープニングで、いきなりきよしさんが立っておられて、たけしさんとの漫才になだれ込んだのには大笑いしました。昔されていたキャディーのネタで、本来きよしさんの「玉出せ、玉」というフリがあって、たけしさんが(金玉と取り違えて)「右ですか、左ですか」とボケる、という筋書きなのに、たけしさんがわざとそのボケを返さずに、きよしさんのフリをスルーしましたよね。それできよしさんがたけしさんに殴りかかって、スタジオがぐちゃぐちゃになっていました(笑)。
きよし スルーしたのは、照れちゃってたのもあったんじゃない?(笑) 俺たちの漫才ってのは、ああいう漫才なんだよ。どんな番組より、ふたりで漫才をやっているときが、俺は楽しいんだ。相方も「笑ってりゃいいよ」って感じで、楽だし楽しくて笑えちゃうんだよね。
やっぱりさぁ、やっているほうがほんわかと楽しそうであれば、観ているほうも気持ちがいいじゃない。内心いがみ合っていながら漫才したって、観ているほうも引っかかりを感じるよ。自分たちは相手のことを尊重しているからね。漫才師で「世界の北野」と呼ばれるまでになって、あんなになれた人はいないし、尊敬しているから。
--ツービート結成から28年を経て再び同じ事務所となり、ツービートの漫才をまた観られるのではと、期待の声が高まっています。
きよし 相方がネタをつくるからな。できあがればやるかもしらんけれど、なんせ忙しくて時間がないだろう。かといって、昔のネタを引っ張り出してきてやるタイプでもないしね。今つくって恥をかかない漫才じゃないと、やらないだろうから。だから遊びではやるだろうけれど、真剣な漫才ってのはどうかな。
今の日本のエンターテインメントに対して、相方だって何か思うところはあるんじゃないかなぁ。でもそこまで口にするようなタイプではないからさ。だからこそ、自分がやるならしっかりした、これぞ芸人だぞ、漫才だぞというようなものじゃないと示しがつかないと考えるんじゃないかなぁ。だから実現はどうだろう。でも期待に応えられるように……うん。
--最後に、読者へメッセージをお願いします。
きよし 苦労して挑戦しろ。そして才能を切り拓け。
--ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
たけしさんときよしさん。いやぁ、いい関係だなぁ、と思います。「たけしさんがこうおっしゃっていましたよ」「たけしさんもきよしさんへ敬意を払われているのを感じます」などと投げかけるたびに、「いやぁ……」「そうかねぇ」と謙遜されるのが印象的でした。そして、それはたけしさんも同様だったことを、筆者は知っています。
圧倒的な地位の差が生まれた間柄なだけに、なにかにつけ「たけしがきよしの面倒を見る」「金を出す」と見られる向きがあるおふたり。ですが、それはありえないことだと、確信します。
相方が、とうていかなわない相手だった。それがビートきよしの幸福なら、「かなわない相方を持った男」に徹した彼が「相方」だったこと。それがビートたけしの幸福だったのではないか。そう思います。
また観たいですね、ツービートの漫才。
(構成=大川内麻里/著述家)
●ビートきよし
1949年12月31日生まれ。山形県出身、神奈川県在住。1980年代に、相方のビートたけしとともに漫才コンビ「ツービート」として一世を風靡した。その後『オレたちひょうきん族』『スーパーJOCKEY』など数々のテレビ番組をはじめ、ドラマやラジオ番組、映画や舞台、CMなど、多方面で活躍。ショーや講演も行っている。2014年4月1日付でオフィス北野へ所属。28年ぶりにビートたけしと同じ事務所の所属となる。再びツービートとして漫才をするのか、動向が注目される。
【最新情報】元・光GENJIの大沢樹生が初監督、おなじく元・光GENJIの諸星和己と初共演を果たした映画『鷲と鷹』(2014年5月24日公開)に出演。
・著書『相方~ビートたけしとの幸福』(東邦出版)
・オフィシャルブログ『ビートきよしのよしなさい!』

1977年、福岡県生まれ。著述家・編集者。自身の被虐待や母娘関係の問題、不登校や高校中退(大検を取得し進学。心理学専攻)、離婚、うつ病などの実体験をもとに活動。執筆、講演や心理相談のほか、出版プロデュースや、お笑いライブの主催・プロデュースを手掛ける。13年に渡るキャリアのなかで、300人以上にインタビューを行い、各界の著名人との親交も深い。naked heart代表。著書に『這い上がるヒント~諦めなかったお笑い芸人30組の生き様』(東邦出版)、『うまくいかない自分から抜け出す方法』(かんき出版)ほか。好評連載『芸人の半生は笑えない~私があきらめず天職につけたワケ』『幸せになるための 母娘関係・考~私は私、母は母』『チバレイ&マリの壮絶うつトーク~うつ女子ほど、仕事も恋もうまくいく!』など。
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