「5/18/14 Wright to Newcastle, WY Supercell Time-Lapse」(無料動画サイト「YouTube」より)

 6月14日18時40分ごろ、秋田県三種町で竜巻が発生し、住宅や倉庫などの屋根が一部損壊するなどの被害が出たことは記憶に新しい。地元住民としては不安な心情であろうが、やはり米国などで発生する大規模な竜巻の被害はすさまじいものがある。



 主に米国で活動している「ストームチェイサー」と呼ばれる竜巻を追跡する人々が、5月18日にワイオミング州で発生した「スーパーセル」を撮影。その映像が無料動画共有サイト「YouTube」上で公開され、再生回数が1500万回を超えるなど話題になっている。

 その姿は不気味でもあり、地球の神秘のようにも思えるスーパーセルだが、そもそもスーパーセルとはいったいなんなのだろうか。そこで今回、気象学に詳しい日本大気電気学会会長で防衛大学校地球海洋学科教授の小林文明氏に話を聞いた。

●巨大積乱雲「スーパーセル」の発生メカニズム

小林文明氏(以下、小林) まず「セルとは何か」という話ですが、セル(細胞)とは積乱雲のこと。飛行機や衛星写真で積乱雲を見ると、細胞のように対流が並んでいるのでセルと呼ばれています。積乱雲にもいろいろ形態があって、モクモクと10~20分で成長した後、雨を降らしてせいぜい1時間程度で消滅するのが「シングルセル」。夏の夕立はこのパターンですね。これに対して、環境が整ったときに積乱雲は組織化され、長続きし、巨大化することがあります。ひとつは、積乱雲自身は消滅するけれども、子どものセルをつくって長続きする「マルチセル」。そしてもうひとつが、1個の積乱雲が巨大化する「スーパーセル(単一巨大積乱雲)」です。

--つまり、スーパーセルとは、私たちが夏によく見る入道雲(積乱雲)の巨大版というわけですね。



小林 はい。そもそも積乱雲は強い上昇気流によって成長するんですが、雨が降れば下降気流が上昇気流をつぶして雲が消滅します。それが普通なんですが、普通じゃないことが雲の中で起こるとスーパーセルになる。それは何かと言うと、上昇気流と下降気流がうまいことすみ分けるということ。強い上昇気流と下降気流が隣り合っているのに邪魔をしない、しかもお互いを強め合うという関係が成り立つと、積乱雲が半永久的に持続して巨大化し続ける、ということが現実に起こるんですね。

 なぜ、そのようなことが積乱雲内で起こるかというと、周囲の環境が重要なのです。積乱雲の発生には、大気が不安定であることが第一に必要ですが、それだけではスーパーセルが発生する条件とはなりません。周囲の風の変化も重要で、地上と上空の風がうまい具合に変化している必要があるわけです。スーパーセルがよく観測されている米国の中西部でいえば、地上にはメキシコ湾から水蒸気と熱を持った南風が入ってきて、中層にはロッキー山脈から乾いた風が、そして上空は偏西風が入ってくる。このようにランダムではなく、システマティックに風が吹き込んでくると、積乱雲もシステマティックに変化してねじれ、上昇気流と下降気流がうまい具合にすみ分けるのです。

●スーパーセルがもたらす被害とは

--スーパーセルが発生すると、どのようなことが起こるのでしょうか?

小林 強雨や降雹、ダウンバースト、雷などをもたらします。そして、スーパーセルの一番の特徴は、前述の通り積乱雲自体がねじれて回転すること。

この回転をメソサイクロン(竜巻低気圧)と呼ぶのですが、動画でも見て取れるように壁雲として肉眼でも確認でき、この渦が地上にタッチダウンすると竜巻になります。直径10kmにもなるメソサイクロンはドップラーレーダー(ドップラー効果による周波数の変移を観測することで、対象の位置と移動速度を観測するレーダー)で探知することができるので、これを用いて竜巻注意報を出すわけですが、結局そこから竜巻が発生して地上にタッチダウンするかどうかは、現状では科学的にもレーダー技術でもわかりません。つまり、いつ地上にタッチダウンするのか、あるいはどのくらいの強さの竜巻が発生するのかがわからないので、竜巻予測は困難なんです。

--つまり、動画の中の回転している雲が地上に降り立つと竜巻になるんですね。

小林 その通りです。もちろんスーパーセル以外からも竜巻は発生するのですが、この竜巻が非常に恐ろしいもので、F5(藤田スケールという、竜巻を強度別に分類する等級で、数字が大きいほど規模も大きく、通常F0~F5までで表される)の竜巻になると、地上にある構造物はほぼ壊滅します。とにかく地上にあるものはすべて壊れると思わないといけません。ですから、アメリカでは地下シェルターをつくって、そこに逃げ込むわけです。

●関東はスーパーセルが発生しやすい地域

--6月14日に秋田県三種町で竜巻が発生しましたが、やはりスーパーセルや竜巻は日本でも発生する可能性があるということですよね?

小林 もちろんです。アメリカ中西部は「竜巻街道」と呼ばれ、竜巻の多発地帯ですが、実は日本の関東も同じような条件です。下層では太平洋からの南風が入ってきて、中層では奥多摩など西方の山地を越えた風が変化していく。つまり、関東は日本でもスーパーセルが発生しやすい地域ともいえます。

2012年にもつくばで壊滅的な被害を与えた竜巻が発生したにもかかわらず、「東京23区では発生しない」と信じ込んでいる人が非常に多いのもおかしな話です。

 もちろん、秋田県で起こったように竜巻は関東だけではなく、日本全国どこでも起こり得ます。日本で発生する竜巻の半分は温帯低気圧に伴っていますから、年間を通じて北は北海道から南は沖縄まで、どこで起こってもおかしくありません。

 例えば06年に北海道佐呂間町で発生した、死者9人という日本の竜巻による被害では最悪の死者数を出した竜巻があります。最も竜巻が起こりにくい地域、しかも道東の11月の冬ですよ。その佐呂間町でF3の竜巻が起こっているのですから、日本のどこの地域でも「竜巻が発生しない」とは言い切れません。

 さらに、つくばで発生した竜巻も気象庁の記録ではF3ですが、局地的には風速が100 m/sを超えていた可能性が指摘されています。つまり、日本でも条件さえ整えば、F4やF5の竜巻が発生する可能性は十分にあります。細かく見れば起こりにくい場所、起こりやすい場所は当然出てきますが、起こらないということはまったくないんです。

--ありがとうございました。

 スーパーセルや竜巻というと、米国で発生しているイメージが強かったが、やはり日本全国どこでも発生する可能性があるというわけだ。スーパーセルが発生しづらい地域でも、他の要因で竜巻が発生する可能性はある。
日本では台風による雷雨などばかりが注目されがちだが、日ごろから竜巻への警戒も怠ってはいけないといえよう。
(文=千葉雄樹/A4studio)

※小林文明氏の書籍『竜巻 メカニズム・被害・身の守り方』(成山堂書店)が8月21日より発売中です。

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