南海キャンディーズの山里亮太が殿堂入りした「よしもと男前ブサイクランキング」が4年ぶりに復活し、今夏開催されるという。このランキングは、よしもとのお笑い芸人の中から一般投票によって「男前」と「ブサイク」を決める企画。
山里は6月に蒼井優と結婚した。その時も「ブサイク男が大金星」「美女と野獣」などと報じられ、会見ではみずからブサイクキャラに合わせたジョークを交え、質疑応答を行っていた。
この会見翌日、『とくダネ!』(フジテレビ系)でコメンテーターを務める産婦人科医が、「女性目線でいくと、結婚って子どもを産んだりする。私はちょっと、子どもの顔が心配な人は無理だな」と山里の容姿をイジって炎上。自身のツイッターで謝罪したが、その文章も「蒼井さんは美しい女優さんで外見にコンプレックスがないのが羨ましいということが言いたかったのですが、表現力が伴わず視聴者の皆さまが不快となる表現となり申し訳ございません」と、蒼井は外見にコンプレックスがないと決めつけたトンチンカンなもので、火に油を注いだ形になった。
「自分の顔が可愛いとは思えなかった」蒼井は、過去に著書で次のように語っている。
「中学生の頃、母に『あなたは、嫁にもらってもらうには条件が悪すぎる。器量もいまひとつだし、獅子座のA型で福岡出身だし、おまけに芸能界にも入ったから。せめて料理くらい上手になりなさい」って言われて納得して(笑)」(『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』集英社、2014年)
「目が小さい、鼻が小さいとかコンプレックスも多くて、自分の顔が可愛いとは思えなかったけど、ある日、この顔に見切りをつけたの。まず、自分よりも他人の顔を可愛いと思える私の心は美しいと思うことにした(笑)。そしたら、私は私でいいのかなって」(『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』)
「私はほどよい顔なのかなって思ってます。
しかし、ここで問題にしたいのは、蒼井のコンプレックスがどうこうということではない。蒼井のように20年ものキャリアがあり数多の女優賞を受賞し評価の高い俳優であっても、結婚時には、“美人女優が”“魔性の女優が”“あのブサイクキャラの男と結婚”と矮小化されて語られることの虚しさである。
6月19日に放送された『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)では、「外見の魅力が高い夫を持つ女性は自分も美しさを維持しなければいけないというストレスで幸せな結婚生活を得にくい」というトンデモ説を紹介した流れで、ゲスト出演したKAT-TUN・亀梨和也と尼神インター・誠子が山里&蒼井の会見を真似し、誠子が「ブスでよかった」と喜ぶシーンがあった。そこへブラックマヨネーズの小杉竜一が「すごいな、吉本何連勝すんの、オイ」とツッコミを入れていた。山里とは逆のパターンで、女芸人はブスの役割を担いイケメンタレントに対して媚を売る。こうしたシーンはバラエティ番組のお約束となっている。視聴者は見飽きているのに、このお約束は必ず守られる。
山里の結婚とは関係がないが、6月23日深夜放送の『今日から友達になれますか?』(フジテレビ系)では、野性爆弾・くっきーが、「浮気とか、女性関係でよく叩かれるじゃないですか、芸人さんも」「僕らみたいな顔面のいかついのが、女優さんと不倫するとするでしょ。絶対叩かれるじゃないですか。何してんねんって。でも褒め称えてほしくないですか。『その顔面でようやった』」と持論を展開し、MCの小籔千豊が「背ちっちゃいのにダンク決めたようなもんやぞ」と同意していた。
世の中の流れからかなりズレている感のある、ブサイク&美人ネタ。そんなに笑えるネタなのだろうか? ブサイクが美人と結婚(不倫)することは「大金星」「連勝」「褒め称える」と形容するほどの価値があるのだろうか? 確かに“美人”は俳優にとって武器のひとつだろうし、同時に“ブサイク”もお笑い芸人の武器のひとつなのだろう。しかし、選ばれた一部の人しかメディアに出ていない大昔とは違う。誰でも自由に顔を出して発言できる時代、メディアにおいて“美人”も“ブサイク”もさほど珍しい存在ではない。価値観の多様化も聞き飽きるほど叫ばれている。メディアに対する視聴者の意識も上がった。顔面だけでは芸能界を生き抜けないことを、当人たちが知らないわけはないだろう。たぶん「そろそろブサイクネタはウケないのではないか」と感じているはずだ。
蒼井は会見の終盤でこう語った。
「私は山里さんの仕事に対する姿勢を尊敬しています。私も基本的に怠け者ですが、仕事になると、とことんやってしまう。
「こういうルックスの人が好きとかない。見た目はこだわらない」(『今日、このごろ』宝島社、2008年)
こう語る蒼井が、山里のブサイクキャラ以外の部分を見ていることは明らかであろう。前出の蒼井の対談集『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』で蒼井は、女優・大竹しのぶと対談している。ここで大竹は、同居していた野田秀樹や、元夫・明石家さんまについて次のように語ってみせる。
「野田さんと一緒に暮らしていた時期は楽しかったけど、そのうち、彼の作る作品が私にとってつまらなくなっちゃって。(中略)不安定な部分がないと、新しいものを生み出しにくいのかな」
「さんまさんと結婚している時も私にはつまらなく感じたしなぁ(笑)。男性はギクシャク感があって、とがっているほうがおもしろいのかも」
「プライベートでありもしない嘘ばかり報道」“魔性の女”の代表格として知られる大竹。演出家や芸人に対して「つまらなくなった」とは、これ以上ないほど強烈な別れの理由である。大竹と同様、蒼井が山里の仕事ぶりに惹かれたのだとしたら、山里がすべきは顔を磨くことではなく、ストイックにただひたすら芸を磨き続けることに違いない。芸能記者も「浮気の心配は?」なんて質問をしている場合ではない。
ちなみに、会見で「蒼井が涙ぐんだ」といわれる蒼井の“魔性の女”がらみの件だが、蒼井は過去の恋愛報道にはいたく傷ついていたようである。前出の『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』では、2013年に上演された舞台『グッドバイ』を振り返ってこんな発言をしている。
「この頃は、プライベートでありもしない嘘ばかり報道されて落ち込んでいたんです。報道を信じている人たちは、私のことを嫌っているはずだから、私がコメディを演じたところで絶対に笑ってもらえないと不安に思っていました」(『蒼井優 8740 DIARY 2011-2014』)
“魔性の女”報道が営業妨害になりかねない事態となっていたとは、一般にはあまり知られていないだろう。何よりも仕事が大好きな素晴らしい芸人と素晴らしい俳優との、世間の認識における“代表作”が、「ブサイクと美人の結婚」にならないよう願うばかりである。
(文=編集部)