「特別価格」「店頭価格から10%OFF」――。街頭で、このような文言が載ったコンタクトレンズのチラシを配る販売員を見かけることがある。
立ち入り調査を受けたのは、日本アルコン、クーパービジョン・ジャパン、シードの3社。3社は数年前から大手小売店に対し、インターネット上での通信販売やチラシに小売価格を明示することを制限した疑いがある。従わない業者には出荷停止などをほのめかしていたとされる。しかも、書面などの明文化を避け、口頭で働きかけていた、と関係者は証言している。
独禁法では、取引先の販売方法や宣伝方法などを不当に制限する行為を「拘束条件付き取引」として禁止している。違反が認定されれば排除命令の対象となる。
使い捨てタイプのコンタクトは、片眼1カ月分1000~3000円で販売されている。小売店同士の価格競争を防ぐことで卸値が下がらないようにする狙いがあるとみられる。
コンタクトレンズ業界では2002年、シェア1位のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の日本法人が、使い捨てレンズのネット販売を小売業者に認めなかった行為が独禁法違反にあたる恐れがあるとして警告を受けた。10年にも製品一覧表で、特定の商品に「店頭以外で価格表示をしないように」と書き添え販売店に伝達した疑いで公取委から立ち入り調査を受け、再発防止を求める排除措置命令が出された。
J&Jが排除措置命令を受けた前後から、価格表示制限の実態をペーパーに残さないルールが出来上がった、とされている。
コンタクトレンズは平成のロングセラー商品である。メガネよりも自然に近い見え方をすることや美容の観点から、コンタクトレンズは若い女性を中心に広く受け入れられてきた。最近では、目の色や形を変えるファッション・アイテムとしても使われている。
日本コンタクトレンズ協会のホームページによると、コンタクトレンズとそのケア用品の国内市場規模(出荷額ベース)は2018年時点で2657億円(正会員39社対象)。
09年時点では2048億円(同25社)。世界市場の規模は1兆円とされているから、日本の市場規模は世界シェアの25%相当だ。米国に次ぐ世界2位のコンタクトレンズ“王国”なのである。
日本では1951年、メニコンの創業者である田中恭一氏が国内初の角膜コンタクトレンズの実用化に成功した。
1991年に国内で認可された「使い捨てコンタクトレンズ」が転機となり、外資系が一斉に参入してきた。
市場調査会社、矢野経済研究所の統計(シードの推定値)によると、1992年の国内コンタクトレンズ市場メーカー別シェアは、メニコン(東証1部上場)が33%でトップ、シードが14%で2位など、国内勢がシェアの81%を占めていた。
しかし、2016年には国内勢のシェアは35%まで低下。J&Jが34%でトップシェア、メニコンが18%で2位。スイスに本拠を置く眼科領域のリーディングカンパニーの日本法人、日本アルコンが12%で3位。4位はシードとソフトコンタクトレンズの世界市場3位の米クーパービジョンの日本法人クーパービジョン・ジャパンがそれぞれ10%。世界で初めてソフトコンタクトレンズの実用化に成功した米ボシュロムの日本法人ボシュロム・ジャパンが7%。J&J、アルコン、クーパービジョン、ボシュロムの外国の主要4社のシェアは63%に上り、日本勢は押されっぱなしの状況だ。
次世代素材シリコンハイドロゲルレンズで国内勢が攻勢調査会社GfKジャパンは、全国のコンタクトレンズ・メガネ専門店の販売実績データなどを基に、2018年のコンタクトレンズ市場の販売動向をまとめた。
18年のコンタクトレンズの小売り販売市場の販売金額は前年比5%増の3130億円。1箱当たりの税抜き平均価格は3050円と、前年から3%上昇した。
高い酸素透過性で眼の負担を軽減することに特徴があるシリコンハイドロゲル素材を採用した高付加価値レンズが、18年には金額ベースで対17年比11%増と大きく伸長。市場全体におけるシリコンハイドロゲルの金額構成比は38%。前年から2ポイント拡大した。
メニコンがシリコンハイドロゲルレンズで実績を積んでいる。かつて国内の3分の1のシェアを持っていたが、長期使用型のコンタクトが主力だったため、使い捨ての海外勢にシェアを奪われた。そんななかで15年12月、岐阜県の各務原新工場で、シリコンハイドロゲルの使い捨てのタイプに絞った新ブランド「プレミオ」を立ち上げた。
使い捨てコンタクトレンズは、新素材のシリコンハイドロゲルレンズを軸に乱戦模様となっている。
今回、コンタクト大手3社に公取委が調査に入ったのは、広告の表現に縛りをかけるのは「競争をするな」と言っているのに等しく、問題は大きいと判断したからにほかならない。公取委の目に余るほど、販売の現場では激烈なシェア競争が繰り広げられている。
(文=編集部)