かんぽ生命の不適切販売問題が止まらない。保険料の二重徴収や不適切な契約乗換など、この原稿を執筆中にも、新たに顧客に無断で申込書を作成し手続きをした事例や、顧客が契約時に通院の事実を申し出たにもかかわらず、告知書に記入しないよう促した事例が見つかったという。
ここまでくれば、コンプライアンスどころか、保険業法に反する不正販売とみなされ、私文書偽造罪にも問われる可能性が出てくる。まさに立派な法令違反である。
約5人に1人が「かんぽ生命」の被保険者?かんぽ生命の被保険者は約2,900万人。これは、日本の全人口(1億2,622万人(2019年7月1日現在:人口統計<総務省統計局>)の約2割を占める。ざっくり言って、5人に1人の計算だ。そのうち約6割が女性で、50歳以上が約7割を占めるなど、女性・中高年層において強みを持つ。
一連の不祥事による不適切な販売は、最大9万3000件にのぼるといった報道も目にしたが(7月30日付の報道では、調査対象範囲を拡大した結果、不正の疑いがある契約が、2014年度以降で、なんと18万3000件に倍増!)、郵便局ではかんぽ生命以外に提携する保険会社の商品も取り扱っており、その影響の大きさは計りしれない。
かんぽ生命に加入されている方で、「自分の保険は大丈夫か?」と不安に感じる方も少なくないだろうが、今回のターゲットになったのは、主に高齢者。不適切販売を受けたのかどうか自覚していないケースもあるに違いない。
今回は前編・後編にわたり、この問題の経緯や不適切とされた主な事例、そこから不適切な契約を見極めるポイントをご紹介したいと思う。
「かんぽ生命」不適切販売問題の経緯今年6月下旬、かんぽ生命の社内調査で、昨年の契約のうち顧客の不利益となる疑いのある契約が約5800件あったという報告を受け、金融庁はかんぽ生命の内部の管理体制を点検する必要があるとして報告徴求命令を出し、事実関係を調べた上で再発防止策を報告するよう要請した。
それから、出てくるわ、出てくるわ。
かんぽ生命の商品を取り扱う郵便局では、同社の保険商品の販売を8月末まで自粛(7月31日現在、顧客対応に時間を要するとして、9月以降も自粛する見通し)。これはかなり異例なことで、事態の深刻さがうかがえる。
それだけでなく、郵便局が受託販売している日本生命、三井住友海上プライマリー生命の変額年金保険、住友生命の医療保険など、かんぽ生命以外の商品も販売を自粛。損保各社の自動車保険も当面の自粛を検討しているようだ。
ただ、2008年から取り扱いを開始したアフラックのがん保険については、2017年度の新契約のうち約25%を占めるまでとなっており、アフラック側が継続を求め、営業を続ける方針という。とはいえ、かんぽ生命の営業自粛で、加入希望者への契約以外は、訪問や電話による営業活動は行われていない。がん保険もかんぽ生命の商品とのセット販売で伸びてきたわけだから、影響は大きいだろう。
不適切な「合理性が疑われる」契約とは?それでは、今回問題になった“不適切で”“合理性が疑われる”契約とは、どのようなものだったのか。
・保険料の二重徴収があった事例
かんぽ生命では、新契約締結後6カ月以内に旧契約を解約すれば、契約乗換とみなされ、郵便局員に支払われる手当や営業成績が新契約の半分となる。そのため6カ月経過後に解約させ、その間の新旧契約の保険料を二重に負担させていた(2016年4月~2018年12月で、想定件数2万2000件)。
一般的に保険を見直す場合、無保険期間をつくらないため新しく保険に加入できたことを確認してから、旧契約を解約する。そのため、1カ月程度、保険料を重複して支払うよう勧めるケースはあるが、それ以上となると単なるムダな支払いである。
・旧契約後の病気等で新たな契約が締結できず無保険となった事例
顧客が旧契約の解約から3カ月以内に新契約を締結した場合、契約乗換として扱われて手当等が減ってしまうため、解約から3カ月を超えてから新契約を締結させる。この間、顧客は無保険となってしまい、保険の支払い事由に該当しても保険金等がもらえない(契約前の4~6カ月間に無保険だったケース。2016年4月~2018年12月で想定件数4万7000件)。さらに、病気等によって引受け謝絶となり、結果として無保険状態となる(2014年4月~2019年3月で想定件数1万8900件)。
・契約乗換によって保険料負担が増加した事例
一般の生命保険には、既契約を下取りするかたちで新しい保険に加入する「契約転換制度」があるが、かんぽ生命にはこの仕組みがない。保障内容の変更には、既契約を解約し、新しく契約に加入する「契約乗換」で対応している。ニーズに応じた見直しには有効だが、年齢によって保険料が高くなったり、旧契約よりも予定利率が低くなったりして、負担が増加するデメリットがある。
・病気が見つかり契約解除。保険金が受け取れなかった事例
新契約締結後、既往症等の告知義務違反として契約が解除された。あるいは病気発症が新契約締結前であることを理由に保険金が受け取れなかった(2014年4月~2019年3月で想定件数3100件)。
・特約の切替で対応できるものを不利な契約乗換をさせられた事例
かんぽ生命には、基本契約に付加できる入院・手術、先進医療、死亡・傷害といった特約があるが、契約後のニーズ変化に応じて中途付加あるいは特約の切替(加入中の特約を新しい特約に切り替えること)ができる。具体的には、かんぽが株式上場直前の2015年10月から2017年9月までに、かんぽ生命の保険に加入した場合、旧入院特約(「その日から」)から新医療特約(「その日からプラス」<無配当総合医療特約>2017年10月発売)への切替が可能で、本来は契約乗換の必要がなかった可能性がある(2017年10月以降で想定件数5000件)。
このような事例以外にも、郵便局員が販売実績をあげるために、契約者に対して保険の対象となる人(被保険者)を短期間に変える「ヒホガエ」と呼ばれる手法を行っていたという。
具体的な契約方法はこうだ。契約者(保険料負担者)を高齢の母、被保険者を長男として養老保険に加入。続いて、被保険者を次男とした養老保険も勧めるが、保険料が負担できないと言って断られると、先に契約した長男の分を解約させ、次男を被保険者とした新しい契約を締結するわけである。
契約者である母の手元に戻ってくるのは、変更時の途中解約によるわずかな返戻金のみ。複数契約を締結できず、お金に余裕のない高齢者にこの方法を促していたというから、保険を悪用した詐欺まがいの手口にあきれるばかりである。
では、実際、かんぽ生命ではどのような商品が販売されていたのか、後編では、かんぽ生命が取り扱っている主な商品や特徴、不適切な契約を見極めるポイントをご紹介しよう。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)