巨額損失を出している官民ファンド、クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)は投資にブレーキをかけるつもりはないようだ。アクセルを踏み続ける。
・若い世代に人気のインフルエンサーを使ったマーケティング活動を支援するシンガポールのスタートアップ、クローゼットに11億円出資。海外目線で日本の観光地や食文化の魅力をSNS(交流サイト)で発信してもらう。
・NTTと吉本興業が共同で始める教育向け動画配信事業、ラフ・アンド・ピース・マザー(那覇市)に最大で100億円を出資する。アジアを中心に海外進出を狙う。
・中国でワインなど酒類卸売業を手がけるトリオを22億円で買収。全国の酒造会社がトリオの流通網を活用しながら中国に日本酒を売り込む。トリオは香港に本社を置く。
・スマホゲーム開発のワンダープラネット(名古屋市)に最大10億円を出資。海外での配信を強化する。
・衣料生産仲介のシタテル(熊本市)に10億円出資。日本の無名デザイナーや小規模のブランドが海外で販売できる環境を整える。
クールジャパン機構は、日本の食文化やエンターテインメントの海外進出を後押しすべく2013年に発足した。所轄は経済産業省で出資金は693億円、政府出資は586億円、民間出資は107億円。ANAホールディングス、電通などが出資した。フジ・メディア・ホールディングス出身の飯島一暢氏、百貨店の松屋出身の太田伸之氏らを経営陣に招き、18年3月末までに29件、計620億円を投資した。
象徴的なのがマレーシア首都のクアラルンプールで三越伊勢丹ホールディングスと和食や物産に焦点を当てて開業した「ジャパン・ストア」。太田氏の肝煎りだったが、韓国産のお酒やディズニーキャラクターの商品を並べるなど迷走。客が集まらず閑古鳥が鳴き、批判を浴びた。投資案件はことごとく失敗に帰し、18年3月期までに損失は累計97億円に膨らんだ。18年6月の株主総会で経営陣が交代した。元ソニー・ミュージックエンタテインメント元CEOの北川直樹氏がCEOに、元ペルミラ・アドバイザーズ日本法人社長の加藤有治氏がCOO兼CIOに就任。
新経営陣の投資第1号は料理動画で世界最大級の米テイストメイド(カリフォルニア州)。約14億円を出資した。
勝負が早くつくので、一攫千金を狙う投資家は米国のスタートアップに出資する。同機構は日本文化の輸出という大義名分を掲げているが、利益最優先の投資会社に変身したということだろうか。テイストメイドでの動画配信の決定権は米社側にある。日本関連の動画を制作しても、テイストメイドが認めなければ海外の視聴者の目に触れるチャンスはないのだという。
累積赤字は179億円に膨らむ官民ファンドのうち、とくに赤字が目立つ4ファンドの18年度決算の合計累積損失(利益剰余金のマイナス)は1年前より6割増え367億円に達した。
年間売上8億円。年間赤字は81億円、累積赤字が179億円である。これで、経営が成り立つとは不思議というほかはない。政府資金を元手に野放図に投資を続けてきたツケが回ってきた。
クールジャパン機構だけではない。官民ファンドそのものが行き詰まっている。いずれも、安倍政権のアベノミクスの看板ファンドとして設立されたものだ。14のファンド中、12が安倍政権下で業務を開始している。うち8つが17年度末時点で、累積損失を抱えていた。投資そのものがうまくいかず、政府資金を人件費や事務所経費が食い潰しているのが実情だ。
アベノミクスの失敗例ともいわれている、官民ファンド、もとい官製ファンドは店じまいするのが最上策との声もある。
(文=編集部)