長崎ちゃんぽん店のリンガーハットが、ようやく動きだした。8月1日からランチメニューを刷新した。
370円という圧倒的な低価格のランチメニューを投入し、一部とはいえ値下げも敢行。かなり思い切った施策だが、背景には深刻な客離れがある。リンガーハットの既存店の客数は昨年10 月から今年6月まで9カ月連続で前年を下回っているのだ。
客離れは、昨年8月に実施した値上げが大きく影響している。猛暑などによる野菜の高騰懸念や人件費と物流費の上昇を理由に、13品で平均3.3%値上げした。主力の「長崎ちゃんぽん」は東日本で10円高い590円、西日本では20円高の560円にしている。
値上げした昨年8月の客数は微減で、翌9月は前年を上回ったものの、10月以降はマイナスが続くようになった。
ただ、昨年10月から今年1月までは客数のマイナス幅は各月2~3%程度とそれほど大きくはなかった。一方で客単価が上昇したため、売上高は前年を上回る月もあったり、マイナスとなっても、その幅は各月1~2%程度と軽微で済んでいた。
しかし、2月以降は客数が大きく落ち込むようになった。
昨年8月の値上げによる客離れは、予想以上の深刻さをもたらした可能性がある。というのも、リンガーハットはちゃんぽん店でそれまで何度か値上げを実施してきたものの、いずれも客離れは限定的だったためだ。
たとえば、2016年8月に東日本地域の店舗で「長崎ちゃんぽん」など大半の商品を値上げした。17 年8月にも西日本の店舗で同様に値上げしている。
だが、いずれもその後の客離れは限定的だった。値上げをした16年8月と翌9月の客数は落ち込んだが、その後は概ね前年と同水準で推移した一方、客単価は上昇したため、売上高は前年を上回る月が多かった。17年8月の値上げ以降も、客数がやや落ち込んだものの、客単価の上昇である程度補ったり、客足が回復するなどで売上高に対する影響は軽微だった。
この二度の値上げが直接的に影響した18年2月期の既存店実績を見るとわかりやすい。同期の客数は前期比で1.2%減ったが、客単価が2.2%上昇したため、売上高は1.0%増となった。
この二度の値上げにおいて客離れが限定的だったのは、一度に一気に上げたのではなく、こまめに上げたことで値上がり感がそれほど強まらなかったほか、「長崎ちゃんぽん」という、ほかではあまり見られない独特の商品を扱っており、高い競争力を発揮できていたためだ。消費者の健康志向が高まったことで、野菜が豊富なちゃんぽんが支持されるようになったことも追い風となっただろう。こうしたリンガーハットでなければ味わえないものがあるため、ある程度の価格の高さであれば客が離れることはなかった。
しかし、それも限界がある。18年8月の値上げで許容価格の臨界点を超えてしまった感がある。値上げ当初は我慢できたが、徐々に嫌気がさすようになり、常連客が離れていったのではないか。値上げにより「リンガーハットは高い」というイメージが一部で根付いてしまったように見受けられる。
ランチ刷新で事態の打開を図るそうしたなか、8月からランチを刷新することで、客足を回復させたい考えだ。特に注目したいのが、370円のギョーザ定食だ。定食で400円を切るのは珍しく、価格の安さを訴求できるのではないか。もしこの商品ばかりが売れるようなことになれば収益は厳しくなるだろうが、毎回、ギョーザ定食を注文する人は少ないだろう。
これと同じ手法で成功を収めた外食店に「ケンタッキーフライドチキン」がある。ケンタッキーも「高い」というイメージが付いたことが原因で客数減に苦しんでいたが、税込み500円という低価格でセットメニューをランチタイム限定、期間限定で投入したことがきっかけとなり、客足を回復させることに成功した。
この「500円ランチ」による復活劇は、昨年7月下旬~9月上旬のランチタイムに、オリジナルチキン1ピースとビスケット、カーネリングポテト(Sサイズ)、ドリンク(同)を、それぞれ単品で注文すると合計税込み920円のところ、セットにすると同500円で提供したことが始まりだ。
これにより、それまで前年割れが続いていた既存店の客数は、7月が前年同月比4.8%増、8月が9.0%増と大きく回復した。その後も定期的に500円ランチを投入し、多くの月で客数の前年超えを達成することに成功している。
これは、低価格で割安の500円ランチを客寄せパンダにして、まずは集客を図り、それで来店した客がケンタッキーの良さを知り、リピーターが増えたと考えられる。500円台のお手頃なランチメニューもあり、日常的に利用する人が増えていったとみられる。
これと同じように、リンガーハットも370円のギョーザ定食で集客を図りたい考えだ。ケンタッキーとは期間限定メニューと定番メニューという違いはあるが、集客策の構造は同じだ。370円のギョーザ定食を客寄せパンダにして、徐々に長崎ちゃんぽんなどほかのメニューへの移行を図りたいところだ。
リンガーハットはほかに、麺の量を少なくした長崎ちゃんぽんの定食も新たに投入する。これは「吉野家」が牛丼の「小盛」を新たに投入して集客に成功したことが参考になりそうだ。
吉野家は3月から牛丼の新しいサイズとなる「超特盛」と「小盛」の販売を始めた。これがヒットし、超特盛は販売開始から1カ月で当初計画の2倍となる100万食を、小盛は同じく2倍の60万食を販売することに成功したという。
小盛は「並盛」の4分の3のボリュームで、小腹を満たしたい人や女性、子ども向けに開発された。これが当たったわけだが、性別や年齢を問わず、幅広い層からの支持を獲得することに成功したようだ。固定客が多いのも特徴だとしている。
これと同じように、リンガーハットも麺の量を少なくした長崎ちゃんぽんの定食を新たに投入することで集客をもくろむ。
リンガーハットは客離れで苦しい状況にあるが、ランチを刷新することで事態の打開を図る。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。