親子上場企業は311社、上場企業の8.5%に上る(2018年12月末時点、東京証券取引所のコーポレートガバナンス白書より)。親子上場は企業統治や株価形成の面で問題が多く、投資家から見直しを求める動きが相次いでいる。

「物言う株主」として知られるダニエル・ローブ氏率いるヘッジファンドの米サード・ポイントは6月、ソニーに対し半導体部門のスピンオフ(分離・独立)などを求めた。

 サード・ポイントは、ソニーの株価は過少評価されており、それは複雑な事業構造が一因になっていると指摘。簡素化に向けた経営陣の大胆な対応を促し、ゲーム・音楽・映画・エレクトロニクス事業を持つ世界のエンターテインメント企業のリーダーとしての地位を確立するよう求めた。

 提案は半導体のスピンオフにとどまらない。東証1部上場の金融子会社ソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFH、持ち株比率65.06%)や、同じく東証1部上場の医療情報サービスのエムスリー(同33.98%)、東証1部上場の医療機器のオリンパス(同5.05%)の株式の売却を求めている。ニューヨーク証券取引所とナスダックに上場している音楽配信のスポティファイ・テクノロジーの株式も対象だ。

 かつてエレクトロニクス事業が赤字だった時は金融が稼いで下支えしたが、そうした構造はあり得ないと、ローブ氏は主張する。

 ソニーFHはソニー生命保険、ソニー損害保険、ソニー銀行、ソニー・ライフケア(介護)を傘下に持つ金融持ち株会社である。19年3月期の経常収益(売上高)は前期比8%増の1兆6291億円、純利益は20%増の620億円。ソニー生命が収益の大半を稼ぎ出している。

 だがソニーにとってソニーFHは手放せない会社だ。サード・ポイントが求めるようなソニーFH株式の売却はあり得ない。

そうすると、完全子会社化しかない。TOB(株式公開買い付け)を実施して、持ち株比率65.06%を100%に高めるのがオーソドックスな手法だ。従って、ソニーFHは完全子会社の有力な予備軍となる。

完全子会社化or株式売却を迫られる可能性の高い上場会社

 ソニーFHのように、親会社が株式の50%超を保有する、主な上場子会社をリストアップした。

【親会社が50%超の株式を保有する主な上場子会社】
※上場子会社(親会社)、持ち株比率
・ソニーFH(ソニー)、65.06%
・日鉄ソリューションズ(日本製鉄)、61.28%
・田辺三菱製薬(三菱ケミカルホールディングス)、56.34%
・キヤノン電子(キヤノン)、53.31%
・大日本住友製薬(住友化学工業)、51.68%
(持ち株比率はキヤノン電子が18年12月期末、ほかは19年3月期末時点)

 新日鐵住金は今年4月、社名を日本製鉄に変更。子会社の新日鉄住金ソリューションズは日鉄ソリューションズとなった。経営統合した住友金属工業に配慮して住金の名前を残していたが、新日鐵の前身の日本製鉄に回帰した。

 日本製鉄は事業の再編を進めている。今年1月、高炉の日新製鋼(現・日鉄日新製鋼)を完全子会社とした。次は、日鉄ソリューションズだと、市場は先読みしている。日鉄ソリューションズはシステム構築の大手で、19年3月期の売り上げは前期比9%増の2652億円、純利益は同15%増の171億円。

 田辺三菱製薬は、田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して発足。

三菱ケミカルホールディングス(HD)傘下で、三菱グループと三和グループ(旧三和銀行のグループ)に属している。19年3月期(国際会計基準)の売上収益は前期比2%減の4247億円、純利益は同36%減の373億円。三菱ケミカルHDは、田辺三菱製薬を完全子会社にして三菱グループに組み入れることをもくろんでいるとみられるが、先行きは不透明だ。

 キヤノン電子は、ビジネス向けドキュメントスキャナー、携帯情報端末の開発・生産を行う、キヤノンの製造子会社。18年12月期の連結売上高は前期比8%増の907億円、純利益は同9%減70億円。キヤノンは売り上げ、利益とも伸び悩み、株価も低迷している。そのため、医療部門を強化しているキヤノン電子の取り込みに動く可能性がある。キヤノン電子が出資するスペースワンは宇宙事業を21年度半ばにかたちにするという夢もある。

 大日本住友製薬は、大日本製薬と住友製薬が合併して発足した、住友化学工業傘下の製薬会社。19年3月期の連結決算(国際会計基準)の売上収益は前期比2%減の4592億円、純利益は同9%減の486億円。親子上場を解消して住友製薬に社名を戻し、住友グループの製薬会社であることを明確にしたいところだろう。

 親子上場の弊害を印象づけたのは、オフィス用品通販大手アスクルと、アスクルの株式を45%持つヤフーの対立だ。

ヤフーが自らの利益を押し通し、アスクルの少数株主の利益がないがしろにされた。アスクルと同じ問題は、ほかの親子上場でも起きるだろう。

 今後、少数株主の保護を求め、親子上場の解消を迫る投資家の圧力は、一段と強まっていくのは必至だ。完全子会社にするのか、持ち株を売却か。決断の刻は迫っている。
(文=編集部)

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