東芝の株価が不安定に推移している。その背景には、今後、東芝がどのように経営再建を果たし、さらに成長を実現して行くかの具体策が見えないことがある。

見逃せないポイントは、東芝の収益が構造改革頼みになっていることだ。

 これまで東芝は固定費の削減を続けてきた。今後もそうした努力を続けるだろう。ただ、コスト削減を続けることは、東芝の組織全体に「この会社はどうなるのだろう」という不安が広がる懸念がある。それが続くと、新しいモノを生み出すことで成長を実現するという、東芝の強みは低下してしまうだろう。

 世界経済の変化のスピードは加速している。それに加え、米中摩擦や中国経済の減速から、世界経済の成長期待も低下気味だ。東芝が持続的な成長を目指すためには、これまでにはなかった新しいモノを生み出し、自ら需要を創造することが欠かせない。現経営陣が、新しいビジネスモデルを確立し、組織全体を変革しつつ人々のチャレンジを引き出していくことができるか否かが、東芝の再生を左右することになる。

思い切った構造改革による利益確保

 2019年度の第1四半期、東芝の営業利益は78億円の黒字だった。営業黒字の確保は、社会インフラ事業などの収益が上向いたことなどに支えられている。既存事業の改善に加え、構造改革による収益貢献も大きい。

営業損益の分析を見ると、98億円の固定費の削減が実施されたことが営業利益の確保に大きく寄与した。固定費の削減が必要であるということは、東芝全体で見た場合に収益の獲得が難しい状況が続いていることを意味する。東芝の収益力は十分ではない。

 今後も、東芝は構造改革によって利益を絞り出す状況が続く可能性が高いだろう。その背景には、同社が40%を出資する東芝メモリの収益力が低下していることがある。東芝が今後の半導体市況の悪化リスクに耐えられるか否かは不透明との見方が多い。

 2018年度の下期以降、東芝は東芝メモリの持ち分法投資損失を計上する状況が続いている。2019年度の第1四半期、東芝メモリは989億円の営業赤字に陥った。四日市工場で発生した停電がマイナスに働いた上、世界的な半導体市況の悪化も影響した。

 すでに、DRAMの世界最大手である韓国サムスン電子の業績は急速に悪化している。同社の業績を見ていると、短期間で半導体市況が上向くことは期待しづらい。米中摩擦の激化懸念などを考慮すると、市況の反転よりも、さらに半導体市況が悪化する可能性は高まっている。

この状況下、東芝メモリの業績下振れリスクは軽視できない。

 また、東芝の既存事業に関しても、持続的に収益が伸びていく展開は想定しづらい。中国企業の台頭などを受けて、社会インフラ事業などの競争は激化している。そのなかで、東芝が半導体市況のリスクを吸収していくことは容易なことではないだろう。当面、東芝は損益分岐点の引き下げを優先し、固定費の削減を進めざるを得ないだろう。

東芝の“強み”を削ぐ固定費削減

 もともと、東芝は“モノ”を生み出すことで成長してきた企業だ。新しいモノを生み出すことこそが東芝の強みである。この点を明確にしたうえで、同社の経営再建をどう進めるかを考えることは重要だ。

 東芝は、医療、半導体事業などを売却し、債務超過の状況を脱することはできた。その上で、2019年度に1400億円の営業利益を達成することに強いこだわりを示してきた。東芝経営陣には、2017年12月に実施した約6000億円の増資を引き受けた、投資家の期待にこたえなければならないという考えがあるとみられる。

 一方、市場参加者の間では、東芝が計画通りの収益を獲得できるとの見方は少ない。

同社が成長の軸に据えるインフラやビル設備事業は、エレベーターなどハードの売り上げが主だ。それはすでにあるモノであり、新しい需要の創出とは異なる。会社資料を見ていると、それぞれの事業がどのようにシナジーを発揮できるか、ロジックはやや不明瞭な印象も持つ。

 収益環境が厳しさを増すことに加え、経営陣が計画の実現にコミットし続ける場合、東芝は継続的に固定費の削減を進めざるを得ないだろう。短期的には、コストを減らした分、収益は確保しやすくなる。

 ただ、固定費の削減を永久に続けることはできない。東芝という企業そのものがなくなってしまう恐れがあるからだ。特に、人員の削減は組織全体を不安定にさせてしまう。組織に不安心理が広がり始めると、1つの方向に向かって企業が進むことは難しくなる。当然のことながら、前向きに、長期的なビジョンをもって研究開発などに取り組む意識は停滞してしまうだろう。固定費削減に依存した収益獲得が続くと、“新しいモノを生み出す”という東芝の強みは削がれていく。その結果、東芝の組織全体にはさらなる不安心理が広がり、士気が低下する恐れがある。

明確なビジネスモデルの重要性

 東芝に求められることは、新しいビジネスモデルを明確に示すことだ。言い換えれば、経営陣はわかりやすい言葉で東芝の成長の源泉を示し、それが各事業の成長につながるというシンプルなロジックをステークホルダーに提示することだ。それは、組織に属する人々に共通する価値観を示すことでもある。価値観が共有されれば、組織はまとまる。

 東芝に、重要なチャンスがあると考えられる分野のひとつに人工知能(AI)がある。インフラやビル設備だけでなく、生産現場、家庭など、社会のあらゆるリアルな場面でAIの活用範囲は広がる。すでに東芝はAIの研究を進めてきた。同社は鉄道車両のメンテナンスの効率化などにAIを用いている。その活用範囲がさらに広がればよい。

 東芝がAIの開発を事業の核に据え、それを用いて各事業の成長を目指すことができれば、今後の事業展開はかなり違ったものとなるだろう。AIの分野では中国を中心に開発競争が激化している。東芝が変化に適応するには、世界のIT先端企業などとアライアンスを結び、研究開発力を引き上げることも欠かせない。

東芝が専門家の登用を進めつつオープンな姿勢でイノベーションの発揮を目指していくことが、新しい事業の育成を支え持続的に収益を獲得することにつながるだろう。

 経営陣が明確なビジョンを提示することこそが、組織全体に向かうべき方向を示し、人々の活力を高めることに欠かせない。その環境が実現すれば、市場参加者は東芝の経営再建が進み、持続的に収益が獲得できる体制が整うとの期待を強めるだろう。反対に、経営陣が固定費削減を重視し続けるのであれば、経営再建の先行き不安は高まるものと考える。

 東芝は、どのようにして経営再建を進めるか、重大な局面を迎えている。同社の経営陣が冷静かつ長期の視点で成長のビジョンを描き、それを株主や従業員などに提示して利害を調整し、着実に収益が獲得できる体制を整えることを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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