セブン&アイ・ホールディングスが岐路に立たされている。スマートフォン決済サービス「7pay(セブンペイ)」の不正利用問題やコンビニエンスストアの24時間営業問題が勃発。

いずれもブランドに大きく傷がつく事態にまで発展した。いまだに尾を引いている問題もあり、今後の対応を誤れば、セブンブランドが一気に崩壊しかねない。

 セブンペイはサービスの廃止に追い込まれた。同サービスでは大規模な不正が発覚。セキュリティー対策に時間がかかるほか、信頼回復も難しいことからサービスの全面再開は困難と判断し、撤退を決めた。9月末でサービスを終了する。

 7月1日にサービスを開始したが、その直後から、利用者になりすました第三者が、登録されていたクレジットカードなどでチャージし、店で商品を購入する被害が発生。4日に入金や会員登録を停止した。31日午後5時時点で合計808人、3861万円に上る被害を認定した。

 セブンペイでは、厳格に本人確認する「2段階認証」が導入されていなかったことが話題になった。最近のネット上のサービスでは当たり前となっているセキュリティー機能で、それを導入していなかったことから、セキュリティーに不安があっても、サービスを始めることを優先したのではないか、との疑念が生まれた。

 その背景には、ファミリーマートのスマホ決済サービス「ファミペイ」の存在があるとの見方がある。

ファミペイが2019年7月から始まることが昨年12月に報じられたが、その時点でセブンのスマホ決済サービスの開始時期は発表されていなかった。セブンペイ開始が発表されたのは、今年4月だ。ファミペイ開始日と同じ7月1日にセブンペイを始めるとした。こうしたことから、業界最大手として2番手は許されないとセブンが考え、ファミペイと同じ日に無理やりスタートさせることにしたのではないかとみられたわけだ。

 だが、セブンペイはお粗末な結果に終わり、セブンの威信は地に落ちることとなった。 これにより、客離れが加速することが懸念される。

運営するセブン-イレブン・ジャパンの既存店客数は前年割れとなる月が続出している。6月までの12カ月間だけでいえば、少なくとも10カ月が前年割れだ。通期ベースでいえば、19年2月期まで2期連続で前年割れとなっている。もっとも、客単価が大きく上昇しているため、既存店売上高はプラスが続いている。だが、伸び率は鈍化傾向にあり、予断を許さない状況にある。

 近年はヒット商品・サービスを生み出せていないことも気がかりだ。

コンビニATMの先駆けとなったセブン銀行や、年間10億杯以上を販売するいれたてコーヒー「セブンカフェ」、発売わずか4カ月で1500万個を販売した「金の食パン」と比類するものが見当たらない。

 これらヒット商品をトップの立場から手がけてきた鈴木敏文氏は、歯がゆい思いをしているのではないか。グループ会長だった同氏は社内クーデターで失脚し、16年に会長の座を追われた。代わって井阪隆一氏が社長に昇格して、商品開発の陣頭指揮を執ってきた。だが、井阪体制になってからはヒット商品が生まれていない。それどころか問題が頻発している。

「鈴木氏がいれば……」との声も関係者から漏れる。

怠慢な経営陣、業界トップの驕りか

 問題といえば、セブンペイのほかに、24時間営業の是非をめぐる騒動がある。今年2月に東大阪市のセブン-イレブン加盟店のオーナーが本部の同意を得られないまま時短営業を強行し、本部と対立。これが発端となり、営業時間の短縮や長時間労働の是正を求める声が強まった。

 セブンではオフィス内や駅構内など一部を除いて24時間営業を原則としてきた。消費者 の利便性を高めるほか、終日営業を前提とした生産体制や物流網を構築してきたためだ。

だが、深夜帯の需要減退や人手不足を背景に、営業時間の見直し機運が高まっている。

こうした状況に国も動き出した。経済産業省はセブンを含む大手各社に加盟店の経営環境を改善する行動計画をつくるよう求めた。経産省が昨年12月から今年3月にかけてコンビニ8社の加盟店オーナーを対象に実施した調査では、従業員の不足を訴える声が6割、フランチャイズ加盟に「満足していない」との回答が4割を占めた。14年度の調査と比べて悪化傾向がみられた。こうした状況を受け、経産省がコンビニ各社に異例の要請を行うに至った。

 公正取引委員会も動き始めた。コンビニ本部とオーナーの関係の実態を把握するための調査を検討しているという。双方にアンケートを実施し回答によっては、独占禁止法に基づき審査することも視野に入れる。公取委は24時間営業について、オーナーが見直しを求めて本部が一方的に拒んでオーナーに不利益を与えた場合、独禁法違反の可能性が排除できないとの見解を示している。

 こうした24時間営業をめぐる問題は、セブンに限った話ではない。ファミマやローソンなどを含めたコンビニ業界全体に共通する問題だ。しかし、世間の多くはこの問題に対する矛先をセブンに向けている。東大阪市のセブン加盟店が問題の発端となっていることや、セブンが業界最大手で批判を受けやすい立場にあるのは間違いないが、セブンの対応のまずさも批判を大きくしているといえる。

 のらりくらりと対応してやり過ごせば、批判はすぐに収まると判断していたようにみえる。東大阪市のオーナーに対しては、当初は強硬姿勢を崩さなかった。時短営業については、ファミマやローソンが実験の規模を拡大する考えを示したのを受け、セブンはしぶしぶ実験に踏み切った。

 トップの対応もセブンは後手に回った。ファミマやローソンはトップが早い段階でメディアのインタビューに応え、加盟店に寄り添う姿勢を示した。本音は24時間営業を維持したいのかもしれないが、見直す可能性を完全には否定しないなど改善に向けて動く姿勢をアピールし、加盟店と世論の懐柔を図った。しかし、セブンは長い間、頑なに24時間営業 維持の姿勢を崩さず、トップが改善策を示すこともなかった。これがオーナーと世論の強い反発を招いた。初動を誤ったといえるだろう。

 24時間営業問題への対応とセブンペイの導入について、セブンの経営陣は何もかもがお粗末だった。業界最大手の“おごり”が垣間見えた。また、ヒット商品が長らく不在で、セブン“らしさ”も発揮できていない。こうした体たらくが続けば、“セブン王国”は崩壊しかねない。事態打開のために、強力なリーダーシップが求められている。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。