近年、自然災害が多発し、各地に甚大な被害をもたらした。ご自身が加入されている火災保険の契約内容を確かめた方も多かったことと思う。
実は、高齢の方には、火災保険に対して誤解をされている方が少なからずいるばかりか、ひいては子供にまで影響を及ぼす場合もある。10月から火災保険の値上がりが予定されている今年こそ親の保険を見直すチャンスだ。前回に引き続き、保険を見直す際のポイントを紹介する。
火災保険への誤解高齢者の方に火災保険について伺うと、誤解されていたり、内容を把握されていない方が多いことに気づく。
誤解されやすい例の一つが、「住宅ローンが終わったら、火災保険には加入できない」というものだ。これは大きなカン違いだ。実際、火災保険に加入されている高齢者の補償を見ると、建物の補償は付けずに家財補償だけという例が多いことに驚く。ちなみに筆者の実家は築50年以上だが、普通に加入できている。
ただし、火災保険は居住地域や建物の構造によって保険料は違うため、あまりに築年月が古かったり、家の老朽化がひどければ、保険料が高額になったり、加入が難しくなるケースもゼロではないことは覚えておきたい。
また、高齢者のなかには、「今まで火事を起こさなかったから、今後も火事を起こさない」「火事なんて、めったに起こらない」と考える人も珍しくない。総務省消防庁の発表では平成30年(1~12月)の総出火件数は37,900 件、これは、おおよそ1 日あたり104件、14 分ごとに1件の火災が発生したことになる。
特記すべきは高齢者の犠牲者が多いことだ。住宅火災による死者926人(放火自殺者等を除く)のうち約7割にあたる652人が65 歳以上の高齢者であることが判明している。「親が火災を起こさない」といっても、平成28年に発生した糸魚川市大規模火災のように、荒れ狂う強風による類焼や、先日の京アニのような卑劣な放火に巻き込まれることだってある。高齢になると、判断能力や行動が鈍くなりがちなため、逃げ遅れる場合もある。今後、高齢者と火災問題は真剣に考えないといけない社会問題になるかもしれない。
話しを戻す。今の火災保険は、再調達価格(損害に遭った建物や家財を、被害前と同等に新たに建築・購入するのに必要な金額)が主流だが、一昔前は時価額が主流だった。今は再調達価格のみを発売する損保会社もあれば、どちらかを選択できる損保会社もある。時価額は経過年数や消耗度合いによって建物や家財の価値は下がるため、下がった価値を基準に保険金が支払われる。再調達価格か時価額かは契約時に設定する。
高齢者の中には、時価額の火災保険を希望する方が未だにいらっしゃる。
自宅が全焼すると、いくら行政などの支援制度があるにせよ、支援金だけでは到底、家を新築できる金額ではない。自宅はあくまでも私的財産のため、その購入を国や行政が全面的にバックアップできないからだ。自宅の再建は、火元であれ、類焼であれ、自分の火災保険で賄うこととなる。
時価額の火災保険に加入し、火災になった場合、新築する不足額を自分で調達しなければならない。実際、親の自宅の火災保険の設定が時価額で全焼した場合、子供たちが再建のための不足分を出したり、子供がそれまで住んでいた家を手放し、2世帯住居としてローンを組んだ例もある。
ちなみに高齢者の住宅再建に際して注意すべきは、介護費用のことだ。年金で生活をしている高齢者は住宅ローンを組むのが現実的に厳しいため、預貯金を取り崩して新築費用に費やしてしまう方もいる。その結果、介護費用が不足して、子供に負担を強いる可能性がある。介護費用は地域や入居施設によって違うが、首都圏で平均的な優良介護施設に入居すると年間約360万円から450万円かかるケースも珍しくない。
「その時に考えればどうにかなる」と言う高齢者は少なからずいるが、場当たり的に対処して介護費用が賄えなくなり、保証人である子供が破産している現実がある。こうなれば、「その時に」というのでは取り返しがつかない。
今は再調達価格が主流とはいえ、時価額の契約もあるため、「大丈夫、きちんと入っている」という親の言葉を鵜呑みにせず、火災が起こった時の子供への経済的なしわ寄せを親に理解してもらい、再調達価格の補償かどうかを確認していただきたいと願う。大変な状況に直面すると、人は目の前のことにとらわれてしまうが、住宅再建には長期的なマネープランを立てることが大切だ。
家財の補償も要確認ほかにも親の火災保険でチェックすべき点は、家財の補償についてだ。火災の補償は、住宅の補償と家財の補償に分かれるが、「うちには大したものはないから」と家財補償を付けない高齢者も珍しくない。火災はもとより、ボヤであっても、類焼防止のために消火活動が行われるため、水浸しで使えなくなることがある。
一般的な衣類一式、電化製品、生活雑貨、消耗品をゼロから揃えるとなると、ワンルーム暮らしでも総額で300万円くらいはかかる。50代以上の家財は、夫婦子供のいる家庭では平均1,500万円という保険関係者もいる。気になる家財保険の平均相場だが、契約内容や期間にもよるが、2年契約の家財補償1,000万円で年間保険料は1万円前後が相場だ。
裏技というほどでもないが、家財の補償も各社では最低補償金額を設定しているため、費用を少しでも押さえたいなら、「最低補償金額はいくらで、その場合の保険料はいくらになりますか?」と一度聞いてみるといい。余談だが、よくあるのが一人暮らしワンルーム賃貸の家財補償に1,000万円とか2,000万円の補償額を設定しているケースだ。一人暮らしの人が家財補償を見直し、保険料が数千円安くなった例もある。逆に、4人家族でも家財の補償額を500万円にしている場合もある。これでは火災が発生した場合、よほど貯金に余裕がなければ家族の家財一式をそろえるのは大変になる。
いずれにせよ、最低補償に設定して実際に火災に遭った場合、足りなかったということがないように建物や家財の適正額の設定にはくれぐれも注意していただきたい。
火災に特化したオプションは、「類焼損害補償特約」「失火見舞費用保険金」「残存物取片づけ費用保険金」「臨時費用保険金」などがあるが、高齢者はどこまで内容を理解しているのだろうか。
「類焼損害補償特約」では、ご自身の住居の失火が原因で近隣の住宅・家財に延焼した場合、損害に遭った住宅や家財の損害に対して保険金が支払われる。この場合の保険金は、再調達価格が支払われるが、損害に対して支払われるべきほかの保険金がある場合、その保険金を差し引いて支払われることは注意したい。
「失火見舞費用保険金」は、類焼させてしまった近隣の住宅・家財に支払う見舞金等の費用だ。自宅が火災に遭い、ホテル住まいなどを余儀なくされる場合の臨時の出費に備えるのが「臨時費用保険金」で、「残存物取り片付け費用保険金」は取り壊し費用、片付け・清掃費用および搬出費用の発生に対して、実際にかかった費用が支払われる。
商品によっては、最初からセットされていたり、オプションだったりと異なる。
ところで、高齢者に多い火災保険への最大の誤解が、火災保険は火災しか補償されないというものだ。火災保険の補償対象は、火災以外に「落雷、破裂・爆発」「風災、雹(ひょう)災、雪災」「水濡れ、物体の落下・飛来、騒擾(じょう)等」「盗難」「水災」といった具合に広範囲にわたる。思い込みで請求漏れのないように、これも要チェックだ。
親の生命保険の内容はチェックしても火災保険の内容まで把握している子供は少ない。高齢者の子供は年齢的に住宅ローンや教育資金に出費が増え、中には役職定年で給与がダウンする人もいる。万が一、親が火災を起こしたり、巻き込まれたとしても、手続きはもとより、補償内容に不足があれば、子どもに経済的負担を強いることになりかねない。子供やその家族、はては近隣住民の人生を大きく狂わせてしまう場合もある。
先日、こんな話を聞いた。近隣住民が親の様子を見に来た子供を訪ねてきて「火災を起こされると困る。火災を起こされても火元から補償されないと聞いたけど、近隣に見舞金が出る火災保険はあると聞いた。
失火責任法では、近隣に対しては重大な過失がなければ賠償責任は負わないとされているが、近隣に類焼を及ぼす火災を起こした場合、その地に引き続き住めるかというと、そうではないのが現実だ。
「火災保険は不要」「もう火災保険は加入できない」と思い込んでいるかもしれない高齢者が多いだけに、火災保険の値上げが予定されている今こそ親の加入している火災保険の補償内容を見直す機会を親子で真剣に持っていただければと思う。
【親の火災保険、ここをチェック】
(1)火災保険の内容を親は把握しているか
(2)火災の補償は再調達価格か
(3)火災の補償は、建物は対象になっているか
(4)建物・家財の補償額は適正か
(5)オプションに過不足はないか
(6)火災以外にも補償されることを知っているか
(7)請求漏れはないか
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)