日産自動車の西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)は、9月16日付で辞任した。取締役としては残るが、経営の中枢からは外れた。
日産の取締役11人のうち7人は「独立社外取締役」だ。残りは日産の西川、山内両氏と、筆頭株主である仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEOだ。
西川氏が取締役を辞任すればルノー2:日産1となり、日産側が不利な状況になる恐れもあり、西川氏は取締役にとどまることになった。日産側が社長兼CEOを出せれば、西川氏はお役御免ということになるかもしれない。
ただ、西川氏の後任の取締役を選任するには、株主総会での決議が必要になる。今後、ただちに臨時株主総会を開くことについて、日産社内は慎重な見方が大勢だ。「ルノーが何を仕掛けてくるかわからない」(日産幹部)からである。
次期CEOには難題が待ち受け2018年11月、カルロス・ゴーン元会長が辞任した。1年もたたないうちに“ゴーン・チルドレン”の西川社長兼CEOが交代する事態となった。
西川氏の“事実上の更迭”について日産幹部は、「ガバナンス改革が機能した結果」と自画自賛するが、「日産はすべてのウミを出し切ったのか。負の遺産はもうないと言えるのか」(外資系証券会社の自動車担当のアナリスト)など、懐疑的な見方が根強い。
19年4~6月期の連結純利益は、前年同期比94%減の63億円。ギリギリのところで赤字を回避したといった状態だ。「7~9月期は少し回復基調にある」(木村康取締役会議長)という楽観的な見通しもあるが「最悪の場合、赤字転落」(前出のアナリスト)という厳しい見立てもある。
業績の下方修正や減配のリスクが常につきまとっているわけで、次期CEOには難題が待ち受けている。
内部昇格ではガバナンスの改革にならない外国人を含めた“ポスト・西川”の選出作業は、残念ながら急ピッチで進んでいるとはいえない。というのも、指名委員会のメンバーにルノーのスナール会長が入っているからだ。次期社長の候補と指名委員会のメンバーが会う、最終面接が必要になる。
指名委員会委員長の豊田正和氏(経済産業省出身)が、最終面接をどこで行うのか、誰が出席するのかといった整理をすることになるとみられる。
日程上の問題はともかく、10月末までに後任の社長を決めきれるのだろうか。さらに言えば、ルノー、日産の利害の対立を乗り越えて、統率力のあるリーダーを選ぶのは至難の業である。
豊田委員長は“ポスト・西川”の条件として、「リーダーシップがあること」「世界の自動車産業に詳しいこと」「ルノー、三菱自動車とのアライアンス(提携)に深い理解と関心があること」の3つを挙げた。
指名委員会は候補者を100人超から10人程度に絞り込んだ。
一番手は経営再建(パフォーマンスリカバリー)担当の関潤氏(58)。防衛大学校出身という異色の経歴の持ち主だ。生産技術部門が長く、日産にとって今や米国市場以上に重要になった感のある中国で事業を率いて成功させた実績がある。
もう1人は内田誠氏(53)。日商岩井(現双日)出身の転職組。ルノーとの共同調達を成功させ頭角を現した。海外経験が豊富で、関氏の後任として現在、中国事業を任されている。
CEOを代行する山内氏も候補だが、「西川氏の側近というイメージが強い」(日産の幹部)ことが懸念点だ。「刷新」という、出直し人事の要素が強いだけに、日産社内からの昇格でいいのかどうか。
ルノー出身者や日産の役員OBも候補に残っており、残り1カ月半で、きちんと次期CEOを決められるのだろうか。時間を気にする向きもある。
「残り1カ月半、を強調するのは、社内昇格を考えている人たち」(別の日産幹部)というのが事実なら、日産の“社論”は内部昇格を望んでいることになる。だが、ことはそう簡単ではない。
「外部から招聘しないと、日産は変わったというメッセージは出せない」(ルノーに近い日産関係者)というのも一面の真実だ。
異業種で実績をあげた「プロ経営者」を一本釣りできるほどの“目利き”が指名委員会のメンバーにいるのかも不安だ。
「日産が持っているカード(社内昇格組)と、ルノーのスナール会長を比べたら、スナール氏のほうが経営者としては一枚も二枚も上手」(外資系証券会社のアナリスト)といわれるなかで、究極の選択が行われることになる。
(文=編集部)