業務の中からムダを見つけること、あるいは時間の使い方にムダを見つけて改善することは、成功に向けた攻めの戦略を考えることに比べると、スケールの小さな話に感じるかもしれません。
しかし、私たちは日々「限られた時間の中で」成功に向けて成果を出そうと奮闘しているのですから、ムダをなくすことについて考えてみる価値はあるはずです。
筆者の専門の1つであるトヨタ生産方式でも、「ムダの排除」は重要なテーマです。トヨタ生産方式では、作業の仕方に見られるムダを以下の7つに分類して捉えます。
・つくり過ぎのムダ
・在庫のムダ
・運搬のムダ
・加工のムダ
・手待ちのムダ
・動作のムダ
・不良をつくるムダ
これを真似て自分独自のムダの分類を考えてみてはどうでしょうか。そうすることで普段からムダに対する意識が高まります。どんなムダが存在していると思いますか。
まずは業務時間中の「私語」をやめてみましょう。職場でのムダな会話をなくすようにするのです。業務と関係のない会話はもちろん、たとえば必要以上に天候について話すこともやめてみます。その日のニュースとして話題になっていることも、業務と関係なければ極力持ち出すことのないようにしましょう。
職場というのは、それぞれ雰囲気が違うもので、従業員の私語が多い職場もあれば、ムダな会話はほとんどない職場もあります。これまで気にしたことがなければ、意識するだけで、自分の職場にムダな会話がどのくらいあるのか気付くようになるでしょう。
「油を売る」のをやめてみたら次に「油を売る」ことをやめることにしましょう。
こうしたことに厳しい人たちは、皆で昼休みにランチにぞろぞろ出ていくことも「本当に毎日それが必要なのか」と気にしています。休憩時間には休憩すべきですが、その方法が自分にとってよいのか疑っている人もいるわけです。
こう考えると、日頃からムダと感じている会議などは、できるだけ合理化しようと考え、特に自分が仕切る会議やミーティングはムダなく管理・運営しようとする気持ちが高まるのではないでしょうか。「本当にみんなを集めて話す必要があるのか」と考えることが増えるはずです。
そうなると仕事の後に一杯飲みに付き合う(あるいは付き合わせる)ことも、仕事終わりではあっても、油を売っている状態に見えてくるかもしれません。
「動き」と「働き」というコンセプトトヨタ生産方式には「動き」と「働き」というコンセプトもあります。「働き」とは製品に価値を付加する行為のことで、「動き」は製品に価値を付加しない行為を指します。つまり製品を組み立てるためにスクリュードライバーでネジを締めていれば、それは製品に価値を加える「働き」ですが、そのスクリュードライバーが見つからないといって探し回っているのは「動き」と見なされます。
製品に価値を与えない「動き」はなくすべきですから、この場合には工具を探して回らなくてもよいような工具の管理の仕方が求められます。それが改善活動になるわけです。
もちろん製品に価値を付加する「働き」に付随して必要になっている「動き」もあります。そのため私たちは、明らかな「動き」(=ムダ)はなくすようにしながら、「働き」にくっ付いて必要になってしまっている「動き」も見つけ出し、できるだけ排除していくことが必要になります。
前出の私語についても、職場の空気を読めば、完全に不必要な私語ばかりではないと感じられたかもしれません。私語も(すべてではないが)雰囲気をつくる、あるいは保つために必要になっていると思える場合です。
ここで付加価値を生み出していないであろう「動き」(=役に立っていないムダな会話)を減らすためには、ともかく一度「私語原則禁止」というルールをつくって周知するのが1つの方法です。職場のルールとすることにより、それは日頃から意識している特定の人だけのルールではなくなります。こうして全体の意識を高めることで、私語により仕事をしやすい雰囲気をつくることについて、その必要性を見直すことができます。必ずしもムダでないと思えていたことからも「動き」の部分を見つけ、排除していくことはできるのです。
付加価値を生み出していくために「働き」に付随している「動き」(=ムダ)の例をもう1つ見てみましょう。たとえば通勤時間はそれに当てはまります。通勤そのものは必要ですが、その間にスマホでゲームをしていたり、だたぼんやり過ごしていれば、それは「働き」とはなっていないでしょう。同じ時間に勉強をしたり、たとえ本を手にすることができない環境であっても、何かを学ぶためにイヤホンを使って聞いたりすることはできるものです。
通勤時間まで「ムダがないか」と問うのは厳しすぎると感じたら、「もっと有効活用できないか」と考えてみましょう。通勤時間はゆっくりと頭の中を整理する時間であれば十分と考える人もいると思いますが、そうした時間も付加価値を生み出す「働き」に変えられたら生産的ではないでしょうか。
トヨタ生産方式では、前出の「7つのムダ」のなかで「つくり過ぎのムダ」が最悪のムダと考えられています。つくり過ぎることは、そのこと事態がムダな上、在庫もつくり上げてしまいます。そして在庫ができれば、それらを数えて運搬する人も必要になり、置き場も必要になるなど、他のムダも誘発します。
これを参考に、私たちも自分がなくしたいムダのリストをつくり、その中から他のムダもつくり上げるという意味で最悪なムダは何か考えてみましょう。筆者の周囲には、やはり油を売ることが最悪という人がいます。その人は社交的な人ですが、ムダな会話やネットサーフィンが自分から時間を奪うという点で、付加価値を生み出すべき「働き」のほうをも邪魔していると考えているようです。
あまり細かなムダばかりを探したり、そのことに囚われすぎるのはお勧めできませんが、仕事の仕方や時間の使い方などを見直し、改善できそうな点について考えてみるのは、誰にとっても有意義なはずです。
(文=松崎久純/グローバル人材育成専門家、サイドマン経営代表)
●松崎久純(まつざき・ひさずみ)
企業の海外赴任者や海外拠点の現地社員を対象にグローバル人材育成を行う専門家。サイドマン経営・代表。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科非常勤講師。