国の還元制度に乗じた紛らわしい広告に騙されるな

 いよいよ消費税が10%になった。国がキャッシュレス決済については5%相当分を利用者に還元する事業を9カ月にわたって実施することで、小売業界では壮絶な値引き合戦が繰り広げられている。

そうしたなかで、国の還元事業に乗じて紛らわしい広告が出てきている。

 以下のスーパーマーケットのチラシ広告を見ていただきたい。

 真ん中に大きく「合わせて 最大10%お得」「PayPay 支払いで5%戻ってくる+キャッシュレス還元で5%還元+ステップアップカードで5% あわせて最大15%お得」と表示してある。

 こうした広告を見た消費者の多くは、例えば1000円の買い物をした場合、「PayPayで支払いすれば10%の値引きになるので900円になる」と思うだろう。店独自のステップアップカードは順次アップするので、すぐに5%値引きではないが、何度か買い物をすると5%の値引きになる。その時PayPayで支払えば1000円のものが15%値引きになり850円で買うことができる、と思ってしまう。

 ところが、実際はそうではない。

 10%値引きは9.75%値引きであり、15%値引きは14.5%値引きなのだ。このチラシ広告の「合わせて最大10%お得」という表示の「最大」の文字のうしろに、小さく「約」と書かれている。さらに「PayPay 支払いで5%戻ってくる+キャッシュレス還元で5%還元+ステップアップカードで5% あわせて最大15%お得」という表示には、「PayPay」「キャッシュレス還元」「ステップアップカード」のそれぞれに小さく「最大」と書かれている。「あわせて最大15%お得」の部分には、小さく「相当」と表示してある。

今回の消費増税は非常に紛らわしい

 このほかにも、宣伝文句の「あわせて最大10%お得」という大きなキャッチコピーの上には、小さい文字で注意書きが表示されている。

その注意書きの一つが以下だ。

「『合わせて最大』の表示について 決済事業者による還元は当社での値引き後のお支払い金額に対してになる為 商品価格からの還元率とは異なりますので予めご了承ください(10%→9.75% 15%→14.5%)」

 これは、消費者に大きな誤解を与える表示ではないだろうか。真実を小さい文字で表示しているとはいえ、このチラシ広告を見た消費者は、そこまで注意して読むだろうか。スーパーのチラシの値引きが「約」とか「相当」だとは、一般の消費者は考えないだろう。

 しかも、この広告は国が主導する値引き事業を利用して、さらに大幅な値引きだと消費者に訴えている。値引き率も明確に「9.75%」「14.5%」とわかっているのだから、そのままの数字を表示するべきだろう。

 増税や還元事業を利用して、実際よりもあたかも値引き率が高いかのような表示をすることは許されない。「小さな文字で断り書きを表示しているのだから、そこを読まないで勘違いした消費者が悪い」というのは、消費者に対して誠実な姿勢といえるのだろうか。

 これは、このスーパーマーケットだけの問題ではない。PayPayの運営会社も、国の還元事業に上乗せする場合は実際には何%の値引きになるのかを、もっと明確に消費者に伝えるべきだ。

 国の事業を利用して紛らわしい表示をするのは許されない。今回の増税は、過去と違い、軽減税率やキャッシュレス還元が加わり、非常に紛らわしい仕組みになっている。

消費者庁や財務省、経済産業省は、消費者に不利益を与えることがないように、もっと監視の目を厳しくするべきだ。

(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

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