消費増税に伴い軽減税率制度が導入され、飲食店等での店内飲食(イートイン)は税率10%、持ち帰り(テイクアウト)は8%となったことで、特に影響があるファストフード店の動向が注目されていた。

 蓋を開けてみると、イートインとテイクアウトを税込同一価格で販売する店と、税抜価格を同じにして税率で販売価格に差をつける店とに分かれた。

 税込同一価格を導入した代表格は、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、すき家である。しかも、イートインをテイクアウト価格と同じにするため、イートインの税抜価格を、増税前より安くしている。増税なのに値下げをしているのだ。

 例えば、マクドナルドの「ビッグマック」は増税前は390円(税込価格)だったが、増税後もイートイン、テイクアウトとも390円。イートインの場合、増税後の税抜(本体)価格は355円になり、実質的には6円の値引きになる(表参照)。では、なぜ実質値下げまでして税込価格を同一にしたのか。そうしなければ、以下のような弊害が生じるからである。

(1)同じ商品なのに食べる場所で価格が変わる、すなわち一物二価にすると、レジ精算時に間違いが起こりやすい。

(2)レジ精算時でも、どちらにするか迷う顧客がいると、レジの待ち時間が長くなる。

(3)レジ精算後に変更する顧客がいると、修正処理に時間がかかる。

 こうした、レジ精算時の間違いや待ち時間の発生などより、店側がもっとも懸念するのは、顧客同士のトラブルだ。イートインかテイクアウトかは、レジでの顧客の申請時に決まる。

その後、顧客がどこで食べても法律違反にはならない。もちろん精算時にテイクアウトと申請した顧客が店内で飲食していても、店側は「2%分の税金を徴収すること」も「無理やり追い出すこと」もできない。あくまでモラルの問題だ。

 軽減税率制度がスタートした当日、コンビニエンスストアでは精算時にテイクアウトだと申請して購入した商品をイートインコーナーで飲食する客の姿が多く見られた。店側は黙認するとしても、イートインの混雑時に客同士で次のようなやり取りがあるかもしれない。

A「私は消費税を10%支払ったので、座って食べる権利がある。あなたはテイクアウトだと言って8%しか払っていないのだから、席を空けなさい」

B「レジを済ませた後、席が空いていたから、それじゃあここで食べていこうと思ったから食べているんです」

A「いや、税金払っていないんだから席を譲れ」

 こうなれば、店側は対処に困るのだ。「席が空いたから店内で食べている」と言われれば、店側は「それでも税金払っていないんだから、席を空けてください」とは言えない。

 店側にとって、もう一つ面倒なことがある。「店内で食べようと思ってイートインでレジ精算したけれど、席が空いていなかったから、テイクアウトに変更してください」と、顧客に申し出られると断るわけにはいかない。こういう申し出は、店が混んでいる時で、レジ待ち客が多い時だ。そんな時に、一つのレジを変更処理だけに使うことになると、ますますレジ待ちを長くする原因になる。

利益を犠牲にしても……

 そして、店側が税込価格を据え置くもっとも大きな理由は、そうしないと顧客が逃げる可能性があるからだ。表を見てもらうとわかるが、例えばビッグマックの場合、消費税率10%を適用すると397円になり、1円の単位は0円にしたいので、四捨五入すると400円になる。増税されたのだから当然とはいえ、客側からみれば10円の値上げは厳しい。

 値上げされれば、持ち帰りが多くなる。持ち帰りが多くなると、持ち帰り用の紙袋が必要になるので、コストアップになる。値上げをすれば、ライバル店に顧客を取られる可能性もある。しかし、税込価格を据え置けば、今まで通りの来店客数を維持することができる。マクドナルドのように、ショッピングセンターのフードコートに出店していると、持ち帰りが難しいラーメン店やうどん店などと差別化ができ、顧客が増える可能性がある。よって、増税後の節約志向が高まっても、悪影響は少ないのではないか。

 店側からすれば、利益を多少減らしても、来店客数と売り上げを維持したいというのが本音だろう。

(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

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