ソフトバンクグループ(SBG)が、シェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーへの支援を決めた。ウィーカンパニー株の追加取得や融資などで最大95億ドル(約1兆200億円)を投じる。
SBGと傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)は、これまでに計100億ドル超(約1兆800億円)を出資しており、今回の合意で金融支援の規模は米携帯電話スプリントの買収(約1兆8500億円)を超える。ただ、今回の資金の出し手は、10兆円ファンドのSVFではなく、SBG本体となる。投資先の経営変調リスクをSBG本体が背負い込むことになる。孫正義会長兼社長は「世界をリードする革新者が成功過程で困難を経験することは珍しくない。確信は変わらない」とウィーに対する巨額支援に自信を示した。
ウィーへの当初の出資に関しては、ファンド資金の最大の提供者であるサウジアラビア政府系ファンドなどが市況悪化を理由に反対し、大幅に減額したことがあったという。今回、SBG本体となったのもファンド出資者の理解を得られなかった可能性が高い。
ウィーのニューマンCEOを解任ウィーは2010年の創業。
「新時代のオフィスを提供する」というメッセージでゴールドマン・サックスなどから資金を調達することに成功。17年、SBGとSVFはウィーに約4700億円出資したのを皮切りに、追加出資を重ね、これまでに出資額は1兆円を超えていた。
ウィーは事業を急拡大させ、一時は企業価値が470億ドル(約5兆円)と推定され、19年4月、IPO(新規株式公開)に向けた手続きを開始したと発表した。だが、ここから事態は暗転。ニューマン氏が低利で会社から多額の資金を借り入れたり、自身が所有するビルを同社に貸したりするさまざまな「利益相反」が報道で明らかになった。おまけに本人の薬物使用疑惑が飛び出すなど個人的なスキャンダルも噴出した。多額の資金調達に成功したことが、かえってウィーの経営体質を弱体化させるという皮肉な結果となった。
18年12月期の業績は売上高が前期比2倍の18億ドル(約1900億円)になった一方、純損失も同2倍の16億ドル(約1700億円)となり、年間売上高と同規模にまで赤字が膨らんだ。
こうした状況に焦ったのがSBGだ。ウィーの上場で巨額利益を得るもくろみが見事に外れた。それどころか、逆に経営再建のための追加支援に追い込まれた。SBGはウィーの創業者であるニューマンCEO(最高経営責任者)の解任に動く。9月、ニューマン氏はCEOを辞任し、IPOを撤回した。
SBGはウィーの再建にマルセロ・クラウレ氏を会長に送り込んだ。南米ボリビアの出身で、同国サッカー協会幹部を務めるなど異色の経歴だ。3人いるSBG副社長の1人でCOO(最高執行責任者)を務め、かねて孫会長の後継者の1人と目されていた。孫会長が「ストリートファイター」と呼ぶクラウレ氏にウィーの再建を託す。
日本経済新聞(10月24日付夕刊)は<ウィーの全従業員の3割、4000人規模の人員削減>と伝えた。
SBGは世界の名だたるユニコーン企業に巨額出資し、7月には10兆円ファンド第2弾の設立が決まった。SBGの大口投資先で企業価値を大きく下げたのはウィーだけではない。配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズの株価は5月のIPO時点から3分の1に暴落した。
<孫会長は(10月)21日、2017年に210億ドル強(約2兆3000億円)のバリュエーション(株価評価)でウィーワークに出資したビジョン・ファンド1号の投資家に電話会議で陳謝した>(10月22日付米ブルームバーグより)
ウィーへの追加支援、経営権取得には、投資実績が上がらないことへの焦りが見て取れる。世界の人工知能(AI)関連の有力企業を束ねる「楽団の指揮者」になりたい孫氏が打ち出した投資戦略が「群戦略」。ファンド出資先への出資比率を20~30%に抑えるのが基本方針である。筆頭株主にはなるが、起業家が自分で意思決定できるように独立性を保つ。この手法が出資先の企業を成長させるとの判断からだ。
ウィーへの金融支援をめぐっては、JPモルガン・チェースと競い合い、この基本方針をかなぐり捨てた。
<JPモルガンも50億ドルの資金支援パッケージを用意。
今回の巨額支援でウィーに対するSBGの持ち株比率は約8割に達し、経営権も取得した。過半の議決権は握らず、連結子会社にはしない方針だが、出資比率を20~30%に抑えるという投資戦略に反するものであることは明らかだ。それほど、追い込まれていたということだろう。
巨額の赤字を出し続けるウィー社を連結子会社にすると、SBG本体の損益に影響を及ぼす懸念があるからだとの指摘が専門家から出ている。これまでの投資分について減損処理を行う必要が出てくることは間違いない。ウィーの再建が遅れれば、孫会長の目利きに依存しているといわれるファンドの運営に支障をきたしかねない。
SBGの7~9月期決算は営業赤字の可能性大SBGは11月6日、19年7~9月期の決算を発表し、ウィー関連の損失を計上することになる。10月25日付ブルームバーグは<ソフトバンクグループは、傘下のビジョンファンドが大口の株式を保有するウィーワークやウーバー・テクノロジーズなどの価値急減を反映させるよう、少なくとも50億ドル(約5400億円)の評価切り下げを計画している>と報じた。
17年以降、非上場株式の評価益をふいごのように使ったファンド事業の利益がSBG本体の営業利益を押し上げてきた。19年7~9月期はウィーの評価損でファンド事業は赤字に転落する見通し。「SBG本体も、きちんと決算をやれば赤字になる可能性がある」といった厳しい見方もある。投資会社に変身したSBGがピンチを迎えている。
(文=編集部)