日本の芸能界の伝統的な「働き方」も、改革の日が近づいている。公正取引委員会(以下、公取委)は11月27日、事務所を退所した芸能人の活動を一定期間禁止する契約が独占禁止法違反にあたるとの見解をまとめた。

 同日付の「日本経済新聞」によると、事務所による活動制限は、タレントの移籍や独立を妨げる影響が大きいと判断。事務所との契約終了後から数年間は芸能活動を禁じているケースもあるが、悪質な場合は行政処置に踏み切るという。

 「のん」こと能年玲奈の事務所トラブルや、元SMAP稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾)が地上波テレビ番組から姿を消したことなど、芸能事務所による“圧力”が可視化されて久しい。これまで芸能人の独立や移籍に際し、芸能プロダクションから不当な制限が加わる芸能界の“慣習”は、暗黙の了解とされてきた。

 しかし昨年2月、厚生労働省が「人材と競争政策に関する検討会」の報告書を公開し、現在の芸能人の働き方には「独占禁止法違反のおそれがある」と指摘。今夏には、公正取引委員会が問題の具体案をまとめている。

 8月27日付の「朝日新聞DIGITAL」によると、公取委が「問題となり得る」と例示したのは①移籍や独立をあきらめさせる②契約を一方的に更新する③正当な報酬を支払わない④出演先や移籍先に圧力をかけて芸能活動を妨害する、などの行為についてで、①~③は独占禁止法の「優越的地位の乱用」、④は「取引妨害」などにあたるおそれがあるとしていた。

 こうした動きに呼応するように、芸能事務所で構成される日本最大の業界団体「日本音楽事業者協会」(以下、音事協)は芸能事務所の移籍を巡るトラブルを防ぐため、芸能人が移籍金を支払えば所属事務所との契約を終了できる制度を導入することを明らかにしているという。多くの加盟プロダクションが音事協の契約書を採用しており、このひな型を改善し、本人の意思に反した契約の延長を制限するとしている。

 なぜ移籍金が必要なのかというと、事務所は新人を育成し売り込むにあたり、多額の投資をしているから……という理屈だ。投資ぶんが回収できないうちに独立されれば負債だけが残ってしまい理不尽だ、というのが芸能事務所側の言い分である。

のんへのオファー「上司や担当役員によって突然潰されてしまう」

 2013年放送のNHK朝ドラあまちゃん』に主演し一世を風靡した「のん」こと能年玲奈が、所属していたレプロプロダクションと揉めて独立し、地上波テレビ局から瞬く間に“消え”てしまったことは周知の通りだ。

 今年7月、現在のんのマネージメントを担当している福田淳氏は、Facebookにて「のんはテレビから干されている」と告発した。福田氏は2016年からのんのマネージメントに関わっているそうで、2019年までに様々な理不尽を経験したという。以下、一部を引用する。

<この間、テレビ局の若い編成マンから本当にたくさんの素晴らしい企画、脚本などオファーを頂きました。しかし、お話が進むうちに、上司や担当役員によって突然潰されてしまうことが繰り返されてきました。
その状態が3年も続いております。>
<現場からの熱烈なオファーもある、のんが三年間テレビ局で1つのドラマにも出演が叶わないことは、あまりにも異常ではないでしょうか?>

 また、2016年末のSMAP解散後、「新しい地図」として独立した稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾をめぐっては、ジャニーズ事務所が3人をテレビ番組に出演させないよう、民放テレビ局などに圧力をかけたとの疑いがある。これも今年7月だが、公取委がジャニーズ事務所に対して「独占禁止法違反につながる恐れがある」として注意を行っていたことが分かっている。

 実際に、稲垣の『ゴロウ・デラックス』(TBS系)、草なぎの『「ぷっ」すま』(テレビ朝日系)、香取の『SmaSTATION!!』(同)、『おじゃMAP!!』(フジテレビ系)は次々と打ち切られ、3人は民放キー局から姿を消した。CMや映画、舞台やイベントなどへの出演はあるが、少なくともテレビ局側が彼らのジャニーズ事務所退所を機に、起用を控えるようになったことは明らかだった。

SMAP解散の「報道」もおかしかった

 SMAP解散と退社の経緯について、当時の報道では「3人がジャニーズ事務所への敬意を欠いた」と見るものが多かったが、これはミスリードだろう。そもそも彼らタレントやスタッフに対してジャニーズ上層部が「敬意」を持たぬ非情な扱いをしていたという背景がある。

 「週刊文春」2015年1月29日号(文藝春秋)は、ジャニーズ事務所内の“派閥争い”についてメリー喜多川氏に尋ねた記事を掲載したが、メリー氏はSMAPなどを育てたマネージャーの飯島三智氏(すでに退社し新しい地図をプロデュース)を取材現場に呼びつけ、叱責していた。飯島氏の到着後に同誌記者が「SMAPとの共演がないのは、派閥があるからでは?」と飯島氏に質問すると、メリー氏は「だって(共演しようにも)SMAPは踊れないじゃないですか」「踊れる子たちからみれば(SMAP)は踊れません」と断言。もしジュリー派と飯島派が派閥をつくり対立しているのだとすれば、「(飯島氏に対して)『SMAPを連れて行って今日から出て行ってもらう』と言うしかない」「どうぞ自分のところで別に(会社を)つくってくださいと言うだけ」とも発言したのだった。

 こうした経緯から、ジャニーズ側が退社した3名および飯島氏を疎ましく思っていたことは明らかだ。だが、時代は流れ、滝沢秀明氏のジャニーズアイランド設立と社長就任、そしてジャニー喜多川氏の逝去に伴う藤島ジュリー景子氏の社長就任といった大きな変化もあった。今後は過去の確執もほどけていくのではないかとの希望的観測もある。

 ジャニー喜多川氏の訃報に際し、各テレビ局は香取らを含めたSMAPの過去VTRを流した。また、NHKでは、稲垣吾郎がMCを務める新番組『不可避研究中』をスタートさせる。初回放送は12月27日を予定しているが、プロローグ編の放送は11月29日。

相次いだ「奴隷契約」

 もちろん、SMAPやのんだけに限った問題ではない。すでに解決済みとされている問題も含めれば、西山茉希やローラもかつて、所属事務所と契約内容やギャラをめぐるトラブルがあった。当時、各メディアはそのトラブルを「奴隷契約」という言葉を用いてセンセーショナルに報じていた。

 本来、芸能事務所とタレントは対等な関係であるはずだ。にもかかわらず「奴隷契約」が成立してしまう背景には、芸能事務所側に権力が偏ることで、タレントを“所有物”のように扱うことが公然と認められてきたことがあるだろう。歪な力関係に基づいた業界ルールを、今こそ見直さなければならない。

(文=WEZZY編集部)

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