「日産系列メーカーの社長で、日産車に乗ってる人間なんていないですよ」
関東地区の日産自動車系列の部品メーカー社長は、日産車の商品競争力のなさにこう肩を落とす。日産は12日発表の2020年9月連結中間決算で、純損益が3299億円の赤字(前年同期は653億円の黒字)に転落した。
先の部品メーカー社長は、冒頭の商品競争力のなさについてこう解説する。
「正直何を買ったらいいかわからないラインナップなんですよね。特に高級車なんですが、トヨタならレクサスというブランドがあるけど、日産の場合、そういうのが手薄。GTRに固執しているところがあるけど、いきなりそんなレーシングマシンみたいなものを欲しがるのはマニアだけ。新車のブランド別の売上上位を見ても、ほとんどがトヨタかホンダの車なのが消費者の本音を物語ってます」
日産は前会長のカルロス・ゴーン被告の時代に質より量の販売台数拡大路線に走り、新興国投資に走った。その結果、新車の研究開発が疎かになっていったというわけだ。
ゴーン被告が重視した販売台数拡大路線は、世界各国、特に北米での代理店の値引きの原資である販売奨励金を出すことで推進してきた。その結果、「日産車は安売り車」というイメージが定着し、ブランドイメージを著しく毀損した。ある大手証券アナリストはこのイメージの低さこそが、日産の低迷の本質的な原因だという。
「少し前までマツダも同じような安売り作戦を展開していた時期があり、新車購入時に大幅に値引きされ、そのぶん下取り査定額も下がり、他社より高く買い取ってくれるマツダのディーラーでしか売却ができず、結果としてマツダ車に乗り続けざるをえなくなるという『マツダ地獄』という現象が生まれました。
12日の決算会見で日産の内田誠社長は「量より販売の質の転換を図る」と繰り返し強調し、「日産はこんなもんじゃない」と巻き返しに向けた姿勢を打ち出した。ただ、10年というのは「100年に一度の転換期」といわれる自動車業界においては永遠ともいえる時間だ。CASE対応などに巨額投資が必要になるが、今の日産はマツダ地獄ならぬ「日産地獄」を抜け出すのに必死で、そんな体力があるはずがない。
2万人規模の人員削減か内田社長は経営再建について「固定費削減」を唱えるが、最も効率のいい方法はリストラである。全世界で2万人規模の人員削減を検討していると一部で報じられたが、これはゴーン被告の1999年の経営再建計画「日産リバイバルプラン」で打ち出した2万1000人と同規模だ。この報道について日産は公式に認めていないが、組合との折衝が済み次第、踏み切らざるを得ないだろう。日産の西川広人前社長らが検察当局と組んでまで追い出したゴーン被告の代表的な手法に結局頼らざるを得ないのは、なんとも皮肉である。
日産は日本政策投資銀行からの1800億円の融資のうち、約7割に当たる1300億円に政府補償が付いていたことが判明している。経営再建の成否によっては国民負担も生じる可能性があり、内田社長はじめ経営陣の肩には重い責任がのしかかる。
最後に、冒頭の部品メーカー社長の発言を引用しよう。
「日産は幹部から購買担当の社員に至るまで、自社のことを他人事と思っている姿勢が如実に出ている。前向きな提案など何もなく、とにかく安くしろというだけだ。最終的には税金で救済されると考えているのかもしれないが、結局のところ、車好きがやっている会社ではないのだと思う。トヨタの豊田章男社長はレーサーだし、楽しんでいるのが車作りに生きている。日産はゴーン以前の労働組合支配の時代もどうかと思うが、ゴーンも韓国などからの安価な輸入鋼材の採用やその後の台数拡大主義をみれば、とにかく車の乗り手に対する安全性や乗り心地に対する配慮が欠け、目先の儲けだけだった。そんな姿勢を続けている限り、再建など夢のまた夢だ」
日産がトヨタとライバルといわれていた時代は、もうとうの昔に過ぎた。内田社長がどこまで厳しい決断ができるかが問われている。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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