タレントの薬丸裕英が4月25日、自身のブログで長年悩まされてきた粉瘤(ふんりゅう)の除去手術を行ったことを報告した。実は、粉瘤を持つ人は多くいるが、その病名は広く知られていない。

粉瘤の病態と治療法について、大阪府豊中市の千里中央花ふさ皮ふ科院長・花房崇明医師に話を聞いた。

「粉瘤は表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)、アテローマやアテロームとも呼ばれます。粉瘤は皮膚の下に袋状の嚢腫ができ、その中に皮膚の垢ともいえる角質や皮脂などがたまってしまう、良性の腫瘍です」

 腫瘍というと深刻な病気と捉える人もいるかもしれないが、俗にいう良性の「出来物」である。

「袋の壁が皮膚と同じ構造をしているので、その皮膚からつくられる角質や皮脂が袋の中にどんどんたまり、徐々に粉瘤は大きくなっていきます」

 粉瘤が小さいうちは痛みも腫れも起きず、皮膚表面から見ても存在に気づかない場合も多い。しかし、粉瘤が大きい場合や腫れがある場合には、皮膚表面から見ても粉瘤があることがわかるという。

「皮膚表面の袋の中心には黒点状の入り口(ヘソ)があり、押すと内部にたまっている、白色のお粥のような独特の臭いのある角質や皮脂が出てくることがあります。粉瘤の症状を知らずに押してしまう患者さんもいますが、押して刺激することで粉瘤が細菌に感染して痛みや腫れが悪化することもあるので、押さずに皮膚科を受診してほしいと思います」

粉瘤がガン化する可能性も

「粉瘤は顔や首、背中に好発(=発生しやすいこと)しますが、体中どこでもできます。一種の加齢変化と考えられていますが、若い方でもできることがあります」

 粉瘤は、毛穴が詰まりやすい人やニキビができやすい体質の人に多く見られるが、ほかにも注意すべきは外傷だという。

「粉瘤は外傷後にできやすい傾向にあります。たとえば、ピアスホールにできることがあります。これはピアスを装着する時にピアスホールに傷をつけてしまうと、傷が治る時にピアスホールに皮膚がめくれ込んだ状態ができ、これが原因で粉瘤ができるのです」

 粉瘤が腫れると強い痛みを伴うこともあるが、炎症が引くと放置してしまう人もいるが、一度は皮膚科を受診することが推奨される。

「粉瘤を放置しておくと、だんだん大きくなり、痛みを伴うことがあります。

その理由は、粉瘤が細菌感染を起こし、化膿して腫れてくるためです。また、ごくまれにガン化することもあるので、見つけた時点で治療したほうがよいでしょう」

粉瘤の治療

「粉瘤は腫瘍(出来物)なので、切除が必要です。皮膚にメスで切れ込みを入れて、嚢腫(袋)ごと切り取り、皮膚を縫合します。粉瘤の大きさにもよりますが、通常、局所麻酔の注射をしてから手術する、日帰り手術で対応可能です」

 また、粉瘤が細菌感染を起こすと、すぐに切除することができない場合もある。

「細菌に感染し、腫れている粉瘤は感染性粉瘤、あるいは炎症性粉瘤と呼ばれます。軽症の場合、抗生物質を内服して炎症を治療しますが、症状が進行していると切開して、袋の中身(垢と膿)を圧出する必要があります。この切開排膿術は根治術ではないので、炎症が落ち着いてから根治術として膿腫を取り出すための切除術が必要になります」

 薬丸裕英がブログで粉瘤に数年悩んでいたと告白しているように、粉瘤は一度、腫れが引いても、繰り返し腫れや炎症が起きることもあるため、粉瘤を疑う“しこり”があるという人は、腫れる前に受診することが好ましいだろう。

(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

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