まさに、「夢の国」ではなく「お金の国」という姿が見えてきたようだ。

 東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市、TDR)を運営するオリエンタルランドが2月8日、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの入園料金を4月1日から値上げすると発表したことが物議を醸している。



 今回の値上げは「パスポート」と呼ばれる入園券15種のうち13種が対象。1日券は大人(18歳以上)を現行より500円高い7400円とし、中人(12~17歳)は400円高い6400円、小人(4~11歳)は300円高い4800円にする。団体向けや1年間有効の年間パスポートも値上げする。大人の1日券は2年連続の値上げで、14年の消費増税前から2年で1200円値上がりすることになるのだ。

 中国上海市で6月16日に開園する上海ディズニーランドの、週末や休日、夏の繁忙期(ピークデーチケット)の大人の入園券料金は499元(約9000円)と発表されており、今後もその水準に合わせるように値上げが進むのではないかという見方も多い。非正規雇用のキャスト(従業員)で構成されるオリエンタルランド・ユニオンもこう問題視する。


「上海ディズニーはTDRよりも最新のアトラクションやオリジナルのアトラクションを入れてますし、パークの大きさもTDRよりも大きい。また、価格設定も繁忙期以外の平日(平日チケット)は370元(約6742円)にするなど、柔軟な対応をしています。また、規模が小さい香港ディズニーは入場料金6000円で、並んで待つ事はほとんどないので満足度は高いそうです。オリエンタルランドは混雑解消の対策をせず、値上げ分もコストカットした従業員に回されることはなく、設備投資に回されるだけのようで、ますます顧客満足度が下がるのではないでしょうか」

●顧客満足度の低下

 オリエンタルランドの足元では、顧客満足度が大きく下がっている。サービス産業生産性協議会が実施している「日本版顧客満足度指数(JCSI)」という日本の小売サービス業32業種・上位企業約400社を対象にした日本最大規模の消費者調査では、2009年以来、劇団四季とトップを争ってきたTDRがトップ10位のリストから外れてしまったのだ(暫定値)。

 この背景には「度重なる入園料の値上げ」と、「顧客サービスに対する感動と失望の変化」があると指摘するのは、同調査の改善・運営委員会の座長として関わる小川孔輔・法政大学経営大学院教授だ。


 分析の詳細は、小川教授による1月6日付YOMIURI ONLINE記事『「夢の国」東京ディズニーリゾートに異変の兆し』にまとめられているが、小川教授は著書『マクドナルド 失敗の本質―賞味期限切れのビジネスモデル』(東洋経済新報社)でファストフード大手、マクドナルドの戦略ミスとその後の苦戦についても指摘しており、TDRも苦戦の続くマクドナルドと同じ道をたどりかねないと警鐘を鳴らすのだ。

●マクドナルド症候群

 小川教授はTDRの現状について次のように分析する。

「そもそもは2年前の2013年、30周年記念でがんばって3130万人と顧客(ゲスト)を増やした。客単価(1万1076円)も増えて、売り上げが伸びた(4736億円)。ここでいったんバルブを閉めなおせばよかったのですが、その水準を保ちながら今後10年で5000億円投資をしようとする。しかし、客単価は顧客のフトコロに限界がありますから、客数を増やそうとなる(稼働率=回転率)。
このしわ寄せがゲストの詰め込みすぎで顧客満足度(CS)を下げ、コストカットとなってキャストに及んでいるというのが現状です」

 この現象はかつて、マクドナルドの顧客が離れていった理由と同様だ。この現象を小川教授は「マクドナルド症候群」と呼ぶ。

「マクドナルドのCS低下の最大の原因は、利益が欲しいために、店舗のキャパシティー以上に客数を増やそうとしたことでした。カウンターからの『メニュー表の撤去』や、オペレーション効率を上げるための『60秒キャンペーン』もそのための方策だった。ロイヤルティーとして売り上げの3%を得ている米国本社は、売り上げが増えればうれしい。しかし、人件費の削減と混雑のために、サービスが劣化し店舗が汚れ、居心地が悪くなり、CSが低下した。
これが『マクドナルド症候群』です」(小川教授)

 ゴール設定は、集客数や最終利益。顧客満足を犠牲にして、売り上げと利益を取りにいく。本当はキャパシティーにあわせて制限をすべき混雑が軽視される。混雑に対応できない数しかいない従業員に、顧客は不満を持ちリピート率は低下する。それどころか、環境の悪化でファミリー層を中心に顧客離れが進むようになるのだ。

「正直パスポートの値上がりはきつい。
一回行くのに(家族が多く)10万は絶対使うので一年に何度も行けない。何日か前に予約したら割り引きになるとかあれば嬉しい」

「施設に入場すると何度行ってもワクワクします。ですが全体的にコストパフォーマンスは良くないと思います。並ぶ時間が短かければまた行きたいのですが、夏は体力的にきついです」

「幼児メニューがもう少し欲しい。仕方ないことだと思うが、レストランの料理の美味しさのレベルに価格が合っていない。高い」

「以前のほうが雰囲気が良かった気がします。
ディズニーシーのキャストの対応が悪く悲しかったです」

 これらは、「販売促進研究所」(静岡市)が実施した「東京ディズニーリゾート体験」の結果だ。2014年に消費者モニター(回答者数:38人)に依頼したもので、サンプル数が少ないため、前出YOMIURI ONLINE記事には掲載されなかった(詳細は『【分析レポート】 東京ディズニーリゾートへ行ってきました! 彼女たちの感想は、、、』)

●崩れる一強状態

 夢の国なのに、ゲストの悲鳴のような感想が聞こえてくるのはなぜなのか。相当マクドナルド化が進んでいるといっていいだろう。

「このままではあやういのは間違いないでしょう。さらに、TDRは一強ではなくなっている現実もあります。最近の地域別来園者比率を見ると明らかに、勢いに乗るユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のある近畿(13年:7.6%→14年:7.0%)、ハウステンボスのある九州(「その他国内」8.3%→7.0%)からの来園者が減っているのです」(小川教授)

 一方、急増しているのが、海外来園者だ。13年の3.9%から14年には5.0%へと急増している。国内の客離れを補っているのは海外来園客、円安による中国人観光客の「爆買い」の恩恵はTDRも受けているのが現実だ。しかし、中国経済の減速、原油安からの先行き不透明感から円高に動きつつあり、今後はそうそう「爆買い」は期待できない。

 オリエンタルランドは、このままマクドナルド化の道を進むのか。
(文=松井克明/ジャーナリスト)